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スエドとスネブの異世界無双?!解明道中記 〜「普通なんて全部檻だ」万年床を愛する男と、キレッキレお説教の美容オタク美少女と、愉快な仲間たちの世直し旅〜  作者: 稲盛 皆藤
普通という名の檻

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第2結界の塩害限界地区(後編)

 スネブはずかずかと歩み寄り、木製のボウルをドカンと叩きつけた。

 紫色のスープを口に運ぶ。

 

「……うーん、これは鉄を飲み物にした何かなのかな? スネブ、お前はとうとう鉄という調味料を作ってしまったのか? 素材の旨味というか元素の旨味を引き出す実験をしているのか?

 甘味や塩味はどうした? 渋みと苦みしか感じない、これは修行僧も逃げ出すレベルだぞ!」

 

「むくみは美肌にとって絶対許せない天敵なの!!

 精製塩なんて身体をサビつかせる毒と一緒よ! だから毒になるものは絶対に、一ミリだって入れないんだから!」

 

「素材の恵みにも限度があるだろ。

 苦くて渋い果実をかき混ぜた物を食べさせられる身にもなってみろ。水たまりの水のほうがまだミネラルの味がしそうだ」

 

「ふふん……私の手料理に文句を言う反省しないスエドには、朝イチ生搾りの『濃縮ケール酵素エキス・百パーセント原液』を一気飲みの罰よ! どう!? 参ったでしょ!」

 

「ギ……ギャアアアアッ!?

 ケール!? ケール原液だけはご容赦をぉぉぉ!!」

 

 俺は大根役者も真っ青な棒読み悲鳴を上げながら、差し出されたケール汁を一気に喉へと流し込む。

(……うひょーっ!! 無添加・無塩・生搾り百パーセントの超高濃度酵素!! 五臓六腑に生きたビタミンが染み渡るぜ……!)

 

「——ロード・スエド。巡幸航路の経過報告に伺いました」

 

 その時、白衣に銀縁メガネのヴァルカンが歩み出てきた。

 

「本神殿『キャンピング・パレス』は、第2結界関門の外縁にあたる最外殻の塩害被害地区へと到達いたしました。

 ……しかしながら、窓の外の惨状をご覧ください。教団による悪逆非道な搾取が行われております」

 

 ヴァルカンが手で指し示した、御簾を上げた先のパノラマ窓の外へと俺とスネブは視線を向けた。

 白く干からびた大地で、役人たちが不当な塩関税を取り立て、鞭を振るっている。

 泥だらけの地面には、絶望した顔でこちらを見上げる幼い少女が座り込んでいた。

 

「っ……!! なにあれ……!? ひどすぎるわ!!」

 

 スネブが窓枠を両手で強く握りしめ、激しい怒りに震え出した。

 

「生活に欠かせない塩を独占して高額な税を取り立てるなんて……!

 あんなの人間がすることじゃないわ!! ちょっとスエド! あの子たちが目の前で倒れてるのよ! なんとかしなさいよバカ!!」

 

 スネブが俺のボロ布団を力任せに揺さぶってくる。

 俺はボロ布団の中から重い溜息をつき、気怠そうに顔を出した。

 

「やれやれ……お節介な奴だな、スネブは。

 だが……塩の独占に高額関税か。くだらないね」

 

「え……?」 スネブはスエドの言葉に目を白黒させている。

 

「塩の独占? 味付けの強制? 人間はすぐに食べ物に濃い塩気を求めたがる。

 調味料で味を人工的に濃くするから、喉が渇いて余計な水分を欲し、むくむんだ。そもそも塩なんてただの石っころだ。そんな石なんかに重税をかけて売りつけるなんて、熱力学以前の詐欺行為だね。

 塩なんて要らない。無味のまま素材を放置して熟成させることこそが、自然の至高の理だよ」


 スネブはスエドの言葉に理解が追いつかない。

 

「何言ってるの、この人自分が食べたボウルには味がしないって、さっき文句言ってたばかりなのに?!」

  

 俺はボサボサの前髪を払い上げると、右目にかけていた『偏光グラス』のフレームを、指先でほんの数ミリだけ上へとずらした。

 右レンズの端に入った稲妻状のヒビ傷が、鈍く光る。

 

 ――能力表示(ステータス)画面、起動。

 右目の視界だけに、青と金の幾何学模様の光彩が広がる。不当な塩関税の徴税コードと、土地を死滅させている『塩化魔素の不連続面』が真っ赤な警告色で明滅していた。

 

「塩を求めて争い、濃い味に縛られる? くだらないね。

 味付けなんてものは無に帰せばいい。俺たちの前には、最初から不当な関税も塩害も存在しない。塩味に頼る三流の理なんて、一から書き直してやる」

『——言語コマンド【理の再構築 第9式】を受理』

『——不当な塩化魔素および高額関税の支配論理を物理解明。対象圏域の土壌濃度を黄金バランスへ自動相殺(オーバーライド)します』

 

 * * *

 

 ブワッ……!!!!

 爆走する神殿から、まばゆい白銀の浄化光が波紋となって世界へ放たれた。

 ミーナはあまりの眩しさに目を細めた。

 光が通り抜けた瞬間——ミーナの足元にあった白く枯れ果てていた土壌が、一変して黒く柔らかい、生命力にあふれた黄金の肥沃土へと一瞬で再生したのだ。

 

「えっ……!?」

 

 それだけではない。悪徳役人たちが独占していた倉庫の粗悪な塩袋がまばゆく輝き出し、全不純物の一切が一瞬でろ過され、キラキラと輝く最高品質の『天然ミネラル岩塩』へと姿を変えた。

 同時に関所を覆っていた不当な関税の魔法陣が、バリンッ! とガラスのように砕け散り、完全に消滅した。

 

『あ……あれ!? 白く枯れていた畑が……豊かな土に戻ったぞ!?』

 

『嘘だろ……!? 泥だらけだった塩が、宝石みたいに輝いてる……!?』

 

 膝をついていた村人たちが一斉に歓喜の声を上げる。

 横暴を極めていた執税吏たちは、浄化の光の衝撃波に吹き飛ばされて泥の中にひっくり返り、アゴを外して泡を吹いている。

 村人たちは「恵みの塩だー!」と歓喜の涙を流し、一斉に膝をついて、走り去る神殿に向かって深々と手を合わせた。

 

「神様だ……! 僕たちの土地を救ってくれたんだぁぁぁっ!!」

 

 ミーナもまた、土の柔らかな感触を確かめながら、通り過ぎていく白銀の神殿を見上げた。

 窓の奥では、ボロ布団に包まった黒髪の青年が、心底めんどくさそうに欠伸をしながら、再び布団の中へと潜り込んでいくのが見えた気がした。

 

 * * *

 

 ——同刻。

 不当な塩関税システムが完全に破綻し、大混乱に陥った街道沿いの暗闇の陰。

 黒影の中で、一匹の漆黒の黒猫——『メル』が、しなやかな長い尻尾を揺らしながら黄金の瞳を細めていた。

 

『……ククク。塩関税のシステムを破綻させるついでに、塩害の大地まで黄金色の肥沃な土に塗り替えるとはな。相変わらず、理屈の通じない無茶苦茶な主だ……』

 

 メルは前脚で拾ったナッツ――主が先ほど布団に星座の形にこぼし、自浄システムとしてはじき出された座標マーカー――をピンと弾くと、闇の中へ向かって静かに、だが冷酷に告げた。

 

『——不当な塩関税で甘い汁を吸っていた教団の影の刺客三十名……主の安眠を妨げる害虫ども。ナッツの座標特定は完了した。これより全自動清掃(裏処理)を開始する』

 

 夜の闇の中へ、無慈悲な黒い影が音もなく滑り出していった。

 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

「この先の展開が楽しみ!」「二人の掛け合いをもっと読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、【ブックマーク追加】や、評価の星(☆☆☆☆☆)を押して応援していただけると、今後の執筆の大きな力になります!

【毎日 18:10】に最新話を更新しております。 果たしてスエドは無事に二度寝を守り切ることができるのか——!? どうぞお楽しみに!


【お時間のある方へ】

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