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スエドとスネブの異世界無双?!解明道中記 〜「普通なんて全部檻だ」万年床を愛する男と、キレッキレお説教の美容オタク美少女と、愉快な仲間たちの世直し旅〜  作者: 稲盛 皆藤
普通という名の檻

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万年床コックピットと関門の理(後編)

 爆走するキャンピング・パレスの前面ガラスの向こう。

 そびえ立つ重厚な石造りの巨大関門と、無数の魔導砲を構えた諸国連合の防衛隊が、豆粒のようなサイズからみるみるうちに巨大な姿で迫ってくる。

 第2結界関門の麓には、通行手形を求めて何日も行列を作る民衆の長い列があった。役人の気まぐれな理不尽や暴言に頭を低くし、「壁を通してもらうのだから我慢するのが当然だ」と、己の尊厳を削りながら耐え忍んでいる。

 

『……目標、射程距離に到達!』

『各砲門、充填完了率一二〇パーセント!』


 ガラス越しに、防衛隊の切羽詰まった拡声魔術の音声が微かに響いてくる。


「走る悪魔の宮殿め! この第2結界関門は一歩たりとも通さん!

 我らが誇る『絶望の城壁』の硬度を思い知るがいい! 全魔導砲、一斉掃射ーーーッ!」


 轟音とともに、数十発の凶悪な魔導光線が宮殿へ向けて放たれる!


「きゃあああっ!? ちょっとスエド! 正面から大砲が飛んできてるわよ! 早く避けて!」


 スネブが頭を抱えて悲鳴を上げる。

 だが、俺はボロ布団の中から起き上がる気すら起きなかった。


「関門? 境界? 意地になって境界線を作って他人の通行を拒むから、そこに摩擦と関税と争いが発生するんだ。

 境界線なんてものはね、人間が勝手に引いた概念上の幻影に過ぎないんだよ。最初から壁なんて存在しないと思えば、通り抜けるのに一ミリのエネルギーも要らないね」


 俺は顔にかかったボサボサの前髪を払い上げると、右目にかけていた『偏光グラス』のフレームを、指先でほんの数ミリだけ上へとずらした。


 ――能力表示(ステータス)画面、起動。


 偏光グラスの奥の瞳で、迫り来る巨大な魔導光線と重厚な関門を冷ややかに見つめ、フッ……と不敵な笑みを浮かべてボソリと呟く。


「関門を閉ざす? くだらないね。俺たちの前には、最初から壁なんて存在しないよ」


 ただのサボりたい男の言い訳。

 ただの減速したくないニートの戯言。

 ……しかし、世界を記述する基幹システムは、ボロ布団の中から吐き出されたそのただの減速拒否の言い訳を、絶対的な構造概念改変コマンドとして誤認識した。


『——言語コマンド【境界条件の概念消滅(パス・リファクター)】を受理』

『——対象空間の衝突判定(コリジョン)を一時的に解除。

 前方圏域の物理障害を透過可能位相(フェーズ・スルー)へと再構築します』


 ブワッ……!!!!


「「「「「な、なんだとぉぉぉーーーっ!?」」」」」


 迫り来ていた数十発の魔導光線が、キャンピング・パレスの車体に接触した瞬間、まるで幻影のようにフッと霧散した!

 それだけではない。

 時速六十キロで猛進する白磁の宮殿は、そびえ立つ巨大な石造りの関門へとそのまま真っ直ぐ突っ込み——まるで水面に飛び込むように、何ひとつ衝撃を起こすことなく関門の壁を「サクッ」とすり抜けてしまったのだ!


「「「は……??? 関門をすり抜けた……!?」」」


 関門を守っていた諸国連合の防衛隊長と兵士たちが、目とアゴを限界まで見開いて硬直した。

 一切の物理法則を無視した光景に、彼らの常識は完全にショートしていた。


「ば、馬鹿な! 我が国の誇る絶望の城壁が、まるで空気のように……!」

 

「あ、ありえん! あんな神のような御業を使える存在に、我々が勝てるわけがない!」

 

「隊長! どうしますか!?」

 

「決まっているだろう! 生き残る道は一つしかないッ!」


 次の瞬間——時間差(タイムラグ)、わずか一秒。


 ズサアアアアアッ!!!!


「「「「「す、凄まじい……! 壁そのものを無効化する絶対の理……! 今日からスエド様にお仕えいたしますぞーーーっ!!」」」」」


 関門の守備隊数百名が一瞬で武器を投げ捨て、全員で全速力スライディング土下座を敢行した!   

 爆走する宮殿の横を、数百人の兵士たちが地べたをズザーッと泥だらけで、それはまるでビッグウェーブのように次々と土下座しながら必死に追尾してくるという地獄絵図である。


「関門の兵士まで一秒で寝返って土下座してんじゃないわよーーーーーッ!!  服がボロボロになるでしょバカ!!」


 スネブの絶叫が轟く中、ヴァルカンが歓喜に満ちた声を張り上げた。


「素晴らしい! 関門突破成功!

 これより『|万年床型自走・居住絶対領域《コア・コックピット》』の着艦スライド試運転を行います!」


 ガションッ!


 スエドのくるまるボロ布団(と下の板間)が、床から五センチほどポコンッと浮き上がると、磁術のように滑らかに神殿の最前線・展望バルコニーへとスッと自動スライド移動した。


「ほんとにポコンッて浮いて部屋がバルコニーに移動したぁぁぁーーーッ!?」


「よし。見晴らしも良くなったし、これで関門通過完了だね。……ヴァルカン、このまま次の目的地まで自動運転でおねがい。俺は二度寝に入るよ」


「御意にございます、ロード!

 主の|万年床型自走・居住絶対領域《コア・コックピット》は、いかなる障害もすり抜け、安眠を守り抜いて見せましょう!」


「ちょっとぉぉ! どこへ向かって爆走してんのよこの万年床はーーーーっ!?」


 爆走するキャンピング・パレスの中で、スネブの叫び声と、土下座のまま並走する数百名の兵士たちの合唱がどこまでも響き渡っていた。

 俺の少しずれた偏光グラスの視界の端で、赤色の文字画面が静かに一秒刻まれた。


『——警告:|将来的な構造崩壊の可能性《システム・クラッシュ》。世界の残存演算フェーズ、あと74』


「やれやれ……今度こそ、二度寝の邪魔をしないでくれよ」


 俺はボロ布団を頭までかぶり直し、チップスをポリポリと齧りながら、再びテレビ画面へと意識を沈めていくのだった。


 * * *

 

 ——同刻、走り去るキャンピング・パレスを遠く見下ろす、突破された関門の屋根の上の物陰。

 暗闇の中で、一匹の漆黒の黒猫——『メル』が、しなやかな長い尻尾を揺らしながら黄金の瞳を細めていた。


『……ククク。関門の守備隊数百名を一瞬で屈服させ、あまつさえ関門すら概念ごとすり抜けるとはな。相変わらず、理屈の通じない無茶苦茶な主だ……』


 メルは前脚で拾ったナッツをピンと弾き飛ばすと、闇の中へ向かって静かに、だが冷酷に告げた。


『——追撃隊の裏ルートを遮断。ターゲット、教団の影の刺客五十名。

 主の安眠を脅かす害虫どもに、明日の朝日は拝ませない。これより全自動清掃(裏処理)を開始する』


 夜の闇の中へ、黒い影が音もなく滑り出していった。

 最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

「この先の展開が楽しみ!」「二人の掛け合いをもっと読みたい!」と少しでも思っていただけましたら、【ブックマーク追加】や、評価の星(☆☆☆☆☆)を押して応援していただけると、今後の執筆の大きな力になります!

【毎日 18:10】に最新話を更新しております。 果たしてスエドは無事に二度寝を守り切ることができるのか——!? どうぞお楽しみに!


【お時間のある方へ】

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