第2話「同じ「物語」なのに」
本が誰かに届くまでのことを考えていると、ふと思い出すことがある。
十代の頃、私はアパレルで働いていた。
小さい頃から服が好きで、一度やってみたいと思っていたからだ。
見るものといえば、ドラマや実写映画。
興味があるのは、ファッションやメイクといったものばかりだった。
アニメやゲームには、それほど縁がなかった。
アパレルでは、自分が働いている店の服を実際に着て、店頭に立つ。
それも、服を売るための一つの方法だった。
自分が着ている服を見たお客さんから、
「その服、かわいいですね」
と言ってもらえたことがある。
ただ、その服は同じ色がもうなく、残っていたのは色違いだけだった。
話を聞くと、今度彼氏とデートをするらしく、
「どんな服装をしたらいいのか分からなくて」
と相談された。
そこで、その服の色違いと、お客さんがその日着ていたジャケット、持っていたバッグ、履いていたパンプスに合わせて、トップスとスカートを選んだ。
さらに、ベルトやネックレスなどの小物も合わせて、デート用のコーディネートを作った。
すると、そのコーディネートを気に入って、そのまま買ってもらえた。
今でも覚えているくらい、嬉しかった。
自分が着ることで、その服を着たときのイメージを見せることができる。
考えてみれば、かなり分かりやすい売り方だった。
そんな私が、今度は書店で働くことを選んだ。
アパレルで働いていた頃は、出勤するたびに全身のコーディネートを考えていた。
服を決めれば、それで終わりではない。
ジャケットを脱いだときも、全身のバランスはおかしくないか。
髪型や髪色は、今日の服に合っているか。
メイクやネイルはどうするか。
靴はいつもヒールだった。
夏にはヒールサンダルを履いていて、飾りのバックルの角が足の指にめり込み、血が出たことまである。
もともとお洒落は好きだった。
ただ、自分が好きな服と、「似合う」と言われる服が同じとは限らなかった。
私は、デニムをブーツインするような、少しかっこいい服装が好きだった。
けれど、童顔だったこともあって、 「そういう服、似合わないよ」 と言われることもあった。
反対に、リボンやレースを使った甘めの服は、 「こういう服、似合うんだから」 と勧められた。
自分から選ぶなら、かっこいい服。
でも、似合うと言われるのは甘めの服。
似合うなら、とそちらを着ることもあった。
それに、仕事となれば、その日の服に合わせて髪型もメイクもネイルも考える。
そんなことを毎日のように続けているうちに、正直、自分を着飾ることに少し疲れていた。
休みの日はジャージで過ごすことも増えていった。
服が嫌いになったわけではない。
ただ、「お洒落をすること」と「服が好きなこと」は、少し違うのかもしれないと思うようになっていた。
アパレルを辞めたあと、『わがままファッション GIRLS MODE』という、服をコーディネートしてお客さんに提案するゲームにハマった。
現実ではアパレルを辞めたのに、ゲームの中ではまた服を売っていた。
今思うと、服を選んだり、誰かに似合うものを考えたりすること自体は、ずっと好きだったのだと思う。
そんな頃、次の仕事として目に留まったのが書店だった。
理由は単純だった。
文房具とファッション誌が好きだったから。
それだけだった。
文房具なら、テスターを置いて、実際に試し書きをしてもらうこともできる。
本って、どうやって売るんだろう。
書店で働き始めた私は、そんな世界を初めて知ることになった。
棚には、似たような大きさの本が何百冊、何千冊と並んでいる。
その中から、一冊を手に取ってもらわなければならない。
それから十年近く。
毎日、大量の本が入荷し、大量の本が棚に並んだ。
雑誌、ムック本、漫画、コミックエッセイ、攻略本、ライトノベル、一般文庫、サブカル、写真集、エッセイ、文芸書、新書、ノンフィクション、社会、実用書、児童書、学参、辞書、専門書――。
もちろん、これはかなり大ざっぱに分けただけで、細かく見ればもっとたくさんのジャンルがある。
毎日たくさんの本に囲まれていると、それまで自分なら手に取らなかったような本まで、自然と目に入ってくる。
そして、私が働いていた店には、とにかく詳しい人が多かった。
漫画に詳しい人。
アニメに詳しい人。
ゲームに詳しい人。
特定の作家やジャンルになると、突然ものすごい熱量で語り始める人。
今思えば、みんな何かしらのオタクだった。
そんな人たちに囲まれて何年も働いているうちに、それまで自分とは縁がないと思っていたものにも、少しずつ興味を持つようになった。
それまでほとんど見なかったアニメを見るようになった。
それまでファッション系くらいしか触れてこなかったゲームも、いろいろなジャンルを遊ぶようになった。
本も読むようになった。
職場には、
「この前アニメイトに行ったらさ」
と、よく話している人がいた。
そんな話を何度も聞いているうちに、私も気になって、初めてアニメイトに行ってみた。
店に入って思った。
こんな世界があるのか。
それまでドラマばかり見ていた私には、キャラクターグッズの多さも新鮮だった。
漫画がアニメになり、人気が出ると、さまざまなグッズまで作られることがある。
好きなキャラクターができれば、当然、欲しくなる。
漫画やアニメだけではなく、ゲームのグッズまである。
では、ドラマは?
ドラマにも、人気作品はたくさんあった。
何年も続く人気シリーズだってある。
それでも当時は、漫画やアニメのように、登場人物のグッズがずらりと並ぶ光景は、あまり見なかった。
同じ「物語」なのに、どうしてこんなに違うのだろう。
もちろん、今ではドラマのグッズ展開も珍しくなくなってきた。
ドラマの楽しみ方も、少しずつ変わってきているのかもしれない。




