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逆転満塁ホームランは戦国で!  作者: 浦賀やまみち


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第3話 天下より飯!




「あーー……。腹減った」



 小田家の夕餉には、家族が揃ってから食べる決まりがあった。


 正室と側室である俺の母親は、すでに着席済み。

 長男は北条氏に人質として出され、次男は七歳を迎えずに死去。

 三歳の四男は、侍女に抱かれている。


 つまり、小田家当主『小田氏治』の家族は、俺を含めて現在五人になる。



「三郎、もう少し辛抱なさい」

「ふふっ……。三郎殿は相変わらずですね」



 目の前に夕膳が置かれ、俺の腹はとっくに大合唱を始めていた。


 戦国時代にタイムスリップして、一か月が過ぎた。

 この間、思い知ったが、俺の身体は燃費が悪すぎる。


 人の倍どころか、優に十倍を超えて食べている。

 あまりの空腹で真夜中に目が覚め、厨房の大根などを生で貪り食い、翌日叱られることも珍しくない。



「ばぶぅーーーっ!」

「ほら、彦も腹減ったってよ」

「もうすぐ旦那様が来ます! 待ちなさい!」



 そして、朝昼晩にブリブリと、とんでもない量が出る。


 そのせいで、城には俺専用の厠まである。

 三日で桶が一杯になるらしく、それを処理する近習たちには不評だ。


 しかし、その燃費の悪さの恩恵なのか。

 俺の身体は、超剛力だった。


 この前、米俵の運搬を頼まれたが、少し重い程度でしかない。

 三十俵ほど運んだが、疲れもしなかった。


 俺が戦国時代にタイムスリップした日、死闘を演じた牡牛。

 今は城で飼われているが、かつては近隣の村々を荒らしていた暴れ牛だった。


 あの日、あの場所に俺がいたのは、その退治を頼まれていたからだった。



「……来た!」



 廊下をドタドタと歩く音が響いた。

 俺は、百メートル走者がスタートを切るように身構える。



「おおっ! 今夜は、ワカサギの味噌煮か!」



 父が自分の膳の前に着席すると同時に、合掌。



「いただきます!」



 次の瞬間、箸と富士山盛りの丼を掴み、飯を掻き込んだ。

 父はまだ箸を取ってもいない。




 ******




「おかわり!」

「もう、ありません!」



 空になった丼を勢いよく差し出すと、母に叱られた。



「ちっ……。腹八分目って言うしな」



 俺は思わず舌打ちした。


 いつの間にか、お櫃の中身は空っぽになっていた。

 仕方がない。寝る前の飯に期待しよう。



「はっはっはっ! 

 三郎の食いっぷりは、いつ見ても清々しいな!」



 父は食後の茶を飲みながら笑った。


 この一か月の間、俺はただ飯を食べて、ブリブリと出していただけではない。

 戦国時代の荒波を生き延び、天寿を全うする策を模索し続けていた。


 父のご機嫌さを見て、今だと思った。

 俺は一気に切り出した。



「あっ!? そうだ! 父さん!」

「うん? どうした?」

「俺、農民になるよ!」

「うん? ……お前、いきなり何を言ってるんだ?」



 父は眉を寄せた。

 無理もない。


 農民から武士を志す者は多い。

 だが、武士から農民になろうなんて奴は、まずいない。


 ましてや、小田家は鎌倉時代まで遡る名門の家だ。

 だから、父を納得させる理由を語った。



「ほら、俺って……。すげー食べるじゃん?」


「だから、自分の食い扶持は自分で作ろうと思ってさ」


「それに俺の力なら、もりもり開墾できるだろ?

 まさに、天職だと思うんだ!」



 もちろん、建前である。


 俺は天寿を全うするため、戦国乱世から逃げる。

 農民になり、土地を耕し、隣で戦いがあっても、『殿様も大変だね』とやりすごすのだ。


 世の中、最後は土地を耕す者が強い。

 我ながら、完璧すぎる計画だ。



「うっううっ……。」

「立派に……。立派になりましたね。三郎殿……。」



 母と義母は袖で目元を拭い、涙をこぼした。


 俺は目を見開き、戸惑う。

 どこに泣く要素があったのだろうか。



「うむっ……。うむ、うむ、うむっ!」



 父も涙を流し始めた。

 ハラハラと頬を伝わせ、しきりに頷く。



「大飯喰らいで、寝てばかり。孫子の一つも覚えようとしない……。」


「外に出かければ、喧嘩三昧……。

 色を知れば、村々の女たちに次々と手を出し……。」


「それが、急に大人しくなったと思っていたら……。」



 そして、明らかになった、俺の身体の前任者の悪事。

 なるほど、外に出ると村がいつも静まり返っていたわけだ。


 子どもが遊んでいても、すぐ親が抱え、家に帰らせる。

 この前なんて、足下に転がってきた白菜を拾ってあげただけで、年端もいかない女の子に悲鳴をあげられ、許しを請われた。



「感動した! 猛烈に感動した!」



 父が目をくわっと見開いた。



「旦那様!」

「お前様!」



 母と義母は感極まり、左右から父に縋り付く。



「ばぶーーーっ!」



 弟はご機嫌に叫んだ。



「……なんだ、これ」



 俺は顔を引きつらせた。



「よし、お前にはまだ早いと思っていたが……。

 結城との境にある砦を、お前に預けよう!」



 父は鼻息をフンスと吐き、胸を叩きながら豪快に笑った。



「いや、俺は農民になりたいんだけど?」

「分かっている、分かっている!

 砦を自分の城にし、街に育てたいのだろ!」



 全然違う。

 俺は思わず眉をひそめ、ため息をついた。



「……俺の話、聞いてる?」

「明日は赤飯を炊こう! 

 商人に言って、鯛を取り寄せよう! みんなで尾頭付きだ!」

「駄目だ、こりゃ……。」



 どうやら止まりそうにない。

 俺はガックリと肩を落とした。




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