第9話「【成長確認】ステータスを眺めていたら、いつの間にかだいぶ変わっていた件」
柊斗が退院したのは、事件から4日後だった。
「腕一本でこんなに長引くと思わなかった」
「深かったんだから仕方ない」
「まあな」
退院の日、病院の外で待っていたら、柊斗が腕に包帯を巻いたまま出てきた。思ったより元気そうだった。
「なあ、直哉」
「なに」
「病室でなのさんと2人にしてくれただろ。ありがとな」
俺は少し考えた。
捕縛しに行っていただけだ。2人にしようとしたわけじゃない。でも、否定するのも面倒だった。
「まあ」
「お前がそういうことするキャラだと思わなかったから、素直に感謝してんだよ」
「そうか」
柊斗はしばらく俺を見てから、「なのさんのこと、気になってないの?」と聞いてきた。
「別に」
「嘘だろ」
「気にしてない」
「あんなに話しかけられてたのに?」
「それはそれだ」
柊斗は首を傾げた。「お前、修行とかそういうことにはやたら勘が働くくせに、そっちは鈍いな」
「うるさい」
「まあ、俺も人のこと言えないけど」
柊斗はそれだけ言って、包帯の腕をかばいながら歩き始めた。
その夜、部屋で久しぶりにステータスをじっくり眺めた。
【ステータス】
体力 72 → 89
筋力 58 → 74
敏捷 61 → 75
耐久 60 → 69
知力 74 → 84
知識 65 → 76
集中力 68 → 80
精神 83 → 94
器用 55 → 61
魅力 62 → 69
【スキル】
眼力 Lv.2
メモ Lv.1
最初の数字と、今の数字が並んでいる。
全部、上がっていた。
数字を眺めながら、物置の片付けで体力が1増えた夜のことを思い出した。あの時は、それだけで嬉しかった。
今は能力者と戦って、警察と連携して、アイドルを助けていた。
それだけじゃない。実績解除というシステムが動いていた。初めてのことをやると、別枠でボーナスが入る。捕縛した時に気づいた。
じゃあ、まだ上げられる。初めてのことを増やせばいい。
でも、何が実績解除になるかはわからない。やってみないとわからない。
同じ人間か、これ。
でも、浮かれてもいられなかった。
今回はうまくいった。ハイディングとメモの相性が良かった。それだけだ。
次の敵が、同じとは限らない。
剣持が言っていた。能力者犯罪が増えている。いろんな能力を持った敵がいる。メモが通じない相手もいるはずだ。眼力で見えない相手もいるかもしれない。そもそも、体力や筋力が通用しない相手だったら。
今の数字で、戦えるのか。
答えは出なかった。
でも、やるしかない。
やれば上がる。それだけは、最初からずっと変わっていない。
クエストも、もっと効率よく探す方法を考えないといけない。今は知らない場所を手当たり次第に回っているだけだ。地図を使って系統的に探すか、剣持や霧島から情報をもらうか。
何か、作戦が必要だった。
翌日、柊斗が包帯姿で登校してきた。
クラスがざわついた。事情を知らない連中が「どうしたの」「喧嘩?」と寄ってきて、柊斗は「ちょっと転んで」と笑いながら流していた。
昼休み、早瀬が俺の席に来た。
「柊斗くん、大丈夫なの?」
「退院したから」
「そうじゃなくて」早瀬が少し声を落とした。「あのイベントのこと、聞いてもいい?」
「何を」
「なんか、騒ぎがあったって。柊斗くん、そこにいたんでしょ」
「まあ」
早瀬はしばらく俺を見てから、「直哉も、いたよね」と言った。
「たまたま」
「たまたまで、あそこまで怪我するかな」
俺は何も言わなかった。
早瀬は追いかけてこなかった。「柊斗くんが元気そうでよかった」とだけ言って、自分の席に戻った。
何かを察している気がした。でも、聞かなかった。
午後、廊下を歩いていたら、妙な集団とすれ違った。
3人組だった。
先頭を歩いていた男が、まず目に入った。背が高かった。頭一つ分、周囲から抜けている。髪が白く、顔立ちが整っていて、笑っていない。制服のボタンを二つ外して、シャツの裾を出していた。目が鋭かった。廊下を歩いているだけなのに、その人間だけ空気が違う。
隣を歩いていた女子が、男の袖を引っ張った。
「宵待先輩、今日学校来てたんですか」
「たまには来る」
「たまには、って」
「フィールドワークが終わったからな」
「どこ行ってたんですか今度は」
「秘密だ」
後ろに、でかい男がいた。無口そうだった。ただそこにいるだけで、空気が変わる感じがした。
3人がそのまま通り過ぎていった。
「誰だ、あれ」
思わず呟いた。
「民俗学研究部の人たちだよ」
振り返ったら、早瀬がいた。
「知ってるの?」
「有名だから。先頭の人、宵待先輩。なんか変なことばっかりしてるけど、頭はいいらしい」
「変なこと?」
「学校の七不思議を全部検証したとか、地元の廃神社を全部回ったとか」
廃神社。
なぜかその言葉が、頭に引っかかった。
「そうか」
「直哉、興味ある?」早瀬が少し笑った。「なんか、目が変わったよ」
「別に」
「そう」
早瀬はそれだけ言って、歩いていった。
宵待という先輩が通り過ぎた方向を、もう一度見た。
もう姿はなかった。
翌朝、神社に寄った。
鳥居をくぐって、石畳を歩いて、本殿の前で手を合わせた。
ありがとうございます、と声に出して言った。
それから眼力を使った。本殿を見た。狛犬を見た。石畳を見た。
もう少し意識を集中させた。
そのとき、視界の端のステータス画面が、少し変わった。
【スキル】
眼力 Lv.2
メモ Lv.1
「あ」
思わず声が出た。
眼力がLv.2になっていた。それだけじゃなくて、スキルにレベルという表示が初めて現れた。メモにも、Lv.1という数字がついている。
ということは、メモも上がる可能性がある。
そして眼力は、もっと上がる可能性がある。
「レベル、あったのか」
本殿を見た。眼力Lv.2の見え方が、Lv.1と何か違うか、まだよくわからない。でも、何かが変わった感触はある。
これも、使いながら確かめていくしかない。
ありがとうございます、ともう一度だけ言った。
この神社でステータスが見えるようになった。クエストも、ここでいつか出る気がする。
まだ、何かある。
学校に向かいながら、昨日の宵待という先輩のことを思い出した。
廃神社を全部回った。
クエストは、行った場所にある。
スマホを開いて、地元の神社を検索した。行ったことのない場所が、まだある。
廃神社も、あるかもしれない。
作戦を立て直す必要があった。
街並みを見ながら、眼力を軽くかけた。どす黒い靄は、今日は見えなかった。
でも、どこかにいるはずだ。
ステータスを、もっと上げなければならない。
まだ、始まったばかりだ。
(第10話へつづく)




