第10話「【実績解除】初めてのデートで、ステータスが上がった件」
柊斗が学校に戻ってきた。
包帯を巻いた腕をかばいながら、でも普通に歩いていた。
「利き腕じゃなくて良かったよな」
「それな。左だったら終わってた」
昼休み、向かいに座りながら柊斗が言った。
「なのさんから、CD届いた」
「サイン入りの?」
「そう。しかも2枚入ってて、手紙もあって」
「2枚」
「お前の分だってさ」柊斗がにやりとした。「ちゃんと気にかけてくれてるじゃないか」
「そうか」
「そうかじゃないだろ」
俺はなんとも言えなくて、「持ってきてくれ」とだけ言った。
「お前な」
柊斗が呆れた顔をした。でも、笑っていた。
放課後、走った。
最近、普通にトレーニングを続けていて気づいたことがある。
効率が悪い。
同じことを繰り返していると、上がりにくくなってくる。体が慣れてしまうのか、同じ負荷では刺激が足りなくなってくる感じがした。
もっと強度を上げる必要がある。でも、どうやって。
走りながら考えた。でも答えは出なかった。
クエストも、今日は出なかった。
翌日の昼休み、早瀬が俺の席に来た。
「今週末、一緒に出かけない?」
「どこ」
「水族館。一人で行くのもなんか寂しくて」
「わかった」
早瀬が少し嬉しそうな顔をして、「じゃあ詳細また連絡する」と言って自分の席に戻った。
柊斗がこちらを見ていた。
「今のわかってるか?」
「何が」
「いや、まあいいや」
柊斗は首を振って、また弁当に戻った。
週末になった。
待ち合わせの駅に向かいながら、なんか落ち着かなかった。
べつに、特別なことじゃない。知り合いと出かけるだけだ。
でも、こういうのは初めてだ。女子と、二人で、出かける。
駅前で早瀬を待った。
「お待たせ」
私服の早瀬を見たのは初めてだった。
「いや、今来たとこ」
なんか、雰囲気が違う。学校で見るのと同じ人間なのに、違う。
どう違うかをうまく言葉にできなかった。
電車で30分ほど、海沿いの水族館に向かった。
早瀬が水族館について話していた。前から来たかったらしい。俺はあまり水族館に来た記憶がなかった。たぶん、小学校の遠足以来だ。
「魚、好きなの?」
「好きというか、なんか落ち着くんだよね、水族館って」
「そうか」
「直哉は?」
「来たことあんまりないから、わからない」
早瀬が少し笑った。「じゃあ今日で好きになるかもね」
水族館に入ると、薄暗い空間に水槽が並んでいた。
青い光が廊下を照らしていた。
早瀬が水槽の前で立ち止まった。大きなエイが、ゆっくり泳いでいた。
「きれい」
「そうだな」
俺は眼力を使ってみた。
エイの体表の模様が、細かく見えた。皮膚の質感、ひれの動き方、水流の変化。通常の視界では見えないものが、やけにはっきりした。
「直哉、なんか真剣に見てるね」
「まあ」
「好きになった?」
「なんか、面白いな」
早瀬が嬉しそうに笑った。
クラゲのコーナーに来た。暗い水槽の中で、クラゲが漂っていた。
眼力を使った。クラゲの傘の細かい動き、触手の揺れ方が見えた。
なんか、きれいだと思った。
「すごいね、クラゲって」早瀬が言った。「ふわふわしてるのに、ちゃんと動いてる」
「そうだな」
「直哉って、物をじっと見るよね。なんか、集中してる感じがする」
「そうか」
「うん。なんか、かっこいいと思う」
俺はなんとも言えなくて、クラゲに視線を戻した。
耳が、少し熱くなった気がした。
魚のコーナー、サメのコーナー、タッチプールのコーナー。早瀬がいろいろ話しかけてくれた。俺はそれを聞きながら、眼力で水槽の中を観察し続けた。
「楽しんでる?」
「うん」
「よかった」
早瀬が少し嬉しそうな顔をした。
帰り際、フードコートで休憩した。
「また来たいね」
「そうだな」
「誘っていい?」
「ああ」
早瀬は少し笑って、飲み物のストローを口に当てた。
帰りの電車の中、窓の外を見ながら、今日一日のことを考えていた。
水族館に来たのは久しぶりだった。誰かと出かけたのも、久しぶりだった。
というか、こういうのは初めてかもしれない。
緊張したけど、悪くなかった。
そのとき、視界の端が光った。
【実績解除】初めてのデート
体力 +1/敏捷 +1/知識 +2/集中力 +1/精神 +2/魅力 +3
「あ」
思わず声が出た。
「どうしたの?」早瀬が振り返った。
「いや、なんでもない」
トータル10、一気に上がっていた。
初めてのデート。実績解除システムが、ちゃんと反応した。
初めてのことをやると、ボーナスが入る。それはわかっていた。でも、こんなことでも上がるのか。
いや、こんなこと、じゃないか。
早瀬が窓の外を見ていた。夕日が海を照らしていた。
なんか、また来たいと思った。
家に帰って、ステータスを確認した。
【ステータス】
体力 90/筋力 74/敏捷 76/耐久 69
知力 84/知識 78/集中力 81/精神 96
器用 61/魅力 72
【スキル】
眼力 Lv.2
メモ Lv.1
魅力が、72になっていた。
最初は62だった。
いろんなことがあって、いろんな人と関わって、少しずつ上がっていた。
ステータスは、やったことが全部数字になる。
普通のトレーニングの効率が悪くなってきている。次のステップが必要だ。
もっと強くなる方法を、探さないといけない。
(第11話へつづく)




