第11話「【爆増】石段を10往復したら、体力が跳ね上がった件」
月曜日、柊斗の固定が取れた。
「やっと外れた」
「動かせるか」
「まだちょっと痛いけど、だいぶましになった」
柊斗が腕を回してみせた。「体育も来週から復帰できるって言われた」
「そうか」
「早瀬さんと水族館、どうだったんだ」
「普通に楽しかった」
「普通に、か」
柊斗がしばらく俺を見てから、何か言いかけてやめた。
「なんだよ」
「いや、ほんとになんでもない」
柊斗は笑いをこらえているような顔をして、弁当を開いた。
昼休み、早瀬が俺の席に来た。
「日曜、楽しかったね」
「うん」
「また行こうね」
「ああ」
早瀬が少し嬉しそうな顔をして、自分の席に戻った。
柊斗がまた俺を見ていた。
「何も言うな」
「何も言ってない」
「顔に出てる」
「お前こそ顔に出てるぞ」
俺はなんとも言えなくて、問題集を開いた。
放課後、クエスト探しを兼ねてランニングに出た。
普通のトレーニングの効率が落ちてきている。同じ負荷では上がりにくくなっていた。何か、違うアプローチが必要だった。
いつもと違うコースを走った。住宅街を抜けて、丘の方向へ向かった。
20分ほど走ったところで、神社があった。
うちの神社とは全然違う。鳥居が大きくて、参道が長い。そして、石段があった。
見上げると、かなり上まで続いていた。数えてみたら、80段くらいある。
なんとなく、眼力を使いながら石段を見た。
そのとき、見えた。
【クエスト発生】
この石段を10往復しろ
「あ、出た」
思わず声が出た。
10往復。80段を、10回上り下りする。
普通に無茶だ。でも、やるか。
深呼吸して、登り始めた。
1往復目。思ったより急だった。でも、まだいける。
3往復目。ふくらはぎが熱くなってきた。日頃走り込んでいるおかげで、思ったより足は動く。
5往復目。折り返し地点だ。汗が止まらない。息が上がっている。でも、動ける。
6往復目あたりから、下りが怖くなってきた。足が震えていて、踏み外しそうな感覚がある。上りより下りの方がきつい。手すりを掴んだ。情けないけど、仕方がない。
8往復目。足が笑い始めた。でも、視界の端にクエストの表示が見えている。まだ終わっていない。
9往復目。限界が近い。一段ずつ、確認しながら降りた。上を見上げると、まだ石段が続いている。でも、あと1回だ。
10往復目。
足が言うことを聞かない。それでも動かした。一段、また一段。
頂上に着いた。
あとは下りるだけだ。
足が震えていた。手すりを両手で掴んで、一段ずつ確認しながら降りた。
最後の一段を踏み切った瞬間、視界の端が光った。
【クエスト達成】
体力 +4/敏捷 +3/耐久 +3
その場にへたり込んだ。
足が震えていた。息が切れていた。
でも、笑えてきた。
10上がった。一気に。
普通のトレーニングでは、こんなに一気に上がったことがなかった。限界を超えた負荷をかけると、跳ね上がる。そういうことか。
「これだ」
声に出したら、参道に自分の声だけが響いた。
しばらく境内で休んだ。
本殿の前で、手を合わせた。
ありがとうございます、と声に出して言った。
うちの神社とは違う神社だったけど、なんか、そうしたくなった。
帰り道、学校の近くを通ったとき、宵待先輩たちとすれ違った。
3人で歩いていた。どこかに行く途中らしかった。
宵待先輩が、俺を見た。
「汗だくだな」
「走ってきた」
「そうか」
先輩は少し間を置いてから、「限界、超えたか」と言った。
「まあ」
「それでいい」
それだけ言って、また歩き始めた。
常盤が俺を見て、「お疲れ様です」と言った。
巌が、わずかにうなずいた。
3人が去っていく背中を見た。
宵待先輩は何を考えているのか、相変わらずわからなかった。でも、なんか悪くない気がした。
家に帰って、ステータスを確認した。
【ステータス】
体力 94/筋力 74/敏捷 79/耐久 72
知力 84/知識 78/集中力 81/精神 96
器用 61/魅力 72
【スキル】
眼力 Lv.2
メモ Lv.1
体力が94になっていた。
最初は72だった。
1ずつ積み上げてきたものが、クエストで一気に跳ねた。
高負荷クエストは、効率が全然違う。限界を超えた時だけ、数字が大きく動く。
あの石段、明日も行こう。
それと、高負荷のクエストがどこかにあるはずだ。
体力100まで、あと6
(第12話へつづく)




