第12話「【学園崩壊】学校が壊れた朝、俺だけが犯人を知っていた件」
石段を毎日続けていた。
クエスト初回の爆増は一度きりだったけど、10往復やると体力、敏捷、耐久がそれぞれ1ずつ上がる。通常のランニングより効率がいい。だから毎日行くようになった。
足が慣れてきた。最初は無理だと思った10往復を毎日10往復やっている。
数日で、ステータスが動いた。
体力98。敏捷83。耐久76。
100まで、あと2だ。
月曜日の朝、学校に着いたら騒がしかった。
体育教官室が、壊れていた。
壁に穴が開いていた。棚が吹き飛んでいた。窓ガラスが割れていた。まるで内側から爆発したみたいだった。でも火災の跡はない。朝早い時間帯で、中に誰もいなかった。
「なんだこれ」
廊下から覗き込んでいる生徒が何人もいた。先生たちが慌てて規制線を張っていた。
俺は人混みの端に立って、眼力を使った。
体育教官室の内部を見た。壁の破断面、棚の吹き飛んだ方向、ガラスの飛散パターン。内側から、何か強い力がかかった跡だった。
それから、周囲の人間を見た。
そのとき、見えた。
人混みの中に、どす黒い靄をまとった人間がいた。
小鳥遊先生だった。
物理の教師だ。痩せていて小さくて、いつも静かに廊下を歩いている。生徒に怒鳴ったところを見たことがない。誰も気にしないような、そういう先生だ。
その視線だけが、壊れた教官室ではなく、生徒たちの反応を見ていた。
昨日まで、靄はなかった。
今日、かかっていた。
あいつだ。
でも、証拠がない。靄が見えているのは俺だけだ。そして小鳥遊先生は今、ただ壊れた部屋を遠巻きに見ているだけだ。
動けなかった。
5時間目、物理の授業だった。
小鳥遊先生が教壇に立った。いつも通りだった。静かな声で教科書を読んで、板書して、生徒の質問に丁寧に答えた。
怒鳴らない。声を荒げない。
俺はずっと眼力をかけながら見ていた。
靄は、ある。でも今は静かだ。何が引き金になるのか、まだわからない。
見続けた。
5分、10分。
ふと、小鳥遊先生と目が合った。
先生の視線が、一瞬止まった。
俺は目を逸らした。でも、遅かったかもしれない。
授業が終わって、先生が教室を出ていく背中を見た。小鳥遊先生と仲の悪い体育教師がいる。動機はある。それだけだ。
でも、どうする。
放課後、廊下を歩いていたら、向こうから小鳥遊先生が来た。
思わず、体が端に寄った。
距離を取ろうとした。無意識だった。
小鳥遊先生が、俺を見た。
一瞬だけ、目が合った。先生は何も言わずに通り過ぎた。
背中に、じっとりとした感覚が残った。
廊下の端で立ち止まっていたら、声をかけられた。
「なあ」
振り返ったら、宵待先輩が立っていた。
白い髪、鋭い目。一人でいた。常盤先輩も、巌もいなかった。
「今朝の件、何か知ってるか」
「知りません」
「そうか」
宵待先輩はしばらく俺を見てから、「嘘が下手だな」と言った。
「知りませんよ」
「顔に出てる」
俺は何も言わなかった。
宵待先輩が、壁に背をもたせかけた。
「俺には見えない。だから聞いてる」
「何が見えないんですか」
「お前に見えてるもの」
俺はしばらく先輩を見た。飄々としているけど、目が本気だった。
「何者ですか、先輩」
宵待先輩は少し笑った。
「後輩が無茶しないか心配してる、優しい先輩だ」
「それだけですか」
「今はそれだけだ」
それだけ言って、廊下を歩いていった。
俺はその背中を見ながら、眼力をかけた。
靄は、なかった。
夜、神社に寄った。
本殿の前で手を合わせた。
ありがとうございます、と声に出して言った。
小鳥遊先生のことを考えていた。
授業中に見すぎた。廊下で距離を取った。気づかれたかもしれない。
靄がある。でも証拠がない。能力もわからない。体育教官室を壊した方法もわからない。
宵待先輩は、何かを知っている気がする。でも、全部は話さなかった。
どう動けばいい。
ステータスを確認した。
【ステータス】
体力 98/筋力 74/敏捷 83/耐久 76
知力 84/知識 78/集中力 81/精神 96
器用 61/魅力 72
【スキル】
眼力 Lv.2
メモ Lv.1
数字を見た。
体力98。
100まで、あと2だ。
何かある気がする。でも、今はそれどころじゃない。
足りない。まだ、足りない。
でも、次の戦いが来るのはわかっていた。
今回は、前回より強い相手かもしれない。
ステータスを、もっと上げなければならない。
でも、時間がない気がした。
そのとき、スマホが震えた。
メッセージだった。
番号に登録のない、知らない送信者だった。
『明日、屋上に来い。小鳥遊のことで話がある』
(第13話へつづく)




