第13話「【死闘】屋上に呼ばれたら、知らない間に囮だった件」
翌朝、番号を調べた。
登録のない送信者。でも、心当たりは一つしかなかった。
宵待先輩だ。
授業が終わって、放課後になった。
屋上へ向かった。
扉を開けると、小鳥遊先生が立っていた。
夕方の風が吹いていた。先生は小さかった。痩せた体が、制服の上に羽織ったジャケットの中で縮んでいるみたいだった。
でも、靄は濃かった。昨日より、深い色になっていた。
「黒瀬くん」
静かな声だった。いつも通りの、穏やかな声だ。
「はい」
「手紙が来た」
先生が一歩、近づいた。
「お前のことを見ている、と書いてあった。授業中も、廊下でも。ずっと私を見ていた者に、心当たりがある」
俺は黙った。心当たりがなかった。手紙なんて出していない。
「俺は出していません」
「嘘をつくな」先生の声が、少し変わった。「お前はずっと私を見ていた。なぜだ」
「それは」
「見ていただろう」
答えられなかった。
小鳥遊先生が、右手を上げた。
「誰に頼まれた。何を知っている」
空気が、変わった。
先生の肩が、わずかに沈んだ。右腕の筋肉が先に動いた。
来る。
眼力で見えた瞬間、横に飛んだ。直後、さっきまで立っていた床が爆ぜた。コンクリート片が跳ねる。
避けられた。でも、速い。
立ち上がる前に二発目が来た。転がってかわす。フェンスがひしゃげた。
三発目。今度は角度が読めた。しゃがんでやり過ごす。
見えた。けど、速すぎる。
小鳥遊先生が、初めて表情を変えた。
「……避けるのか」
次の瞬間、先生が両手を広げた。
嫌な予感がした。
全方向に衝撃が弾けた。爆風みたいな圧力が屋上全体を薙いだ。逃げ場がなかった。
胸に直撃した。息が飛んだ。体が浮き、フェンスまで吹き飛ばされた。背中が外へ半分出る。とっさに支柱を掴んだ。
落ちなかった。でも、手が痺れた。
小鳥遊先生が歩いてくる。小さな体で、ゆっくりと。
「とぼけるなら、消えてもらうしかない」
また手が上がった。
終わった、と思った。
次の瞬間、視界が塞がれた。
でかい体が、俺の前に立っていた。
衝撃波が当たった。金属を叩くような、硬い音がした。
巌だった。いつの間にか屋上にいた。その全身は、鋼鉄に変わっていた。
「助けに来た」
横から声がした。
宵待先輩が、屋上の端に立っていた。いつからいたのか、わからなかった。
小鳥遊先生が、宵待先輩を見た。
「宵待か。お前まで来たのか」
「久しぶりですね、小鳥遊先生」
「邪魔をするな」
「できません」
先生が連続して衝撃波を放った。三発、四発。
全部、巌が受け止めた。動かなかった。鋼鉄の体が、全部受け切った。
その間に、宵待先輩が動いた。
何かをした。俺には見えなかった。でも、小鳥遊先生の動きが一瞬止まった。
その隙に、巌が先生の両腕を掴んだ。鋼鉄の手が、先生を押さえ込む。
衝撃波が暴発した。屋上の床がえぐれた。
でも、もう終わりだった。
しばらくして、剣持と霧島が来た。
屋上の惨状を見て、剣持がため息をついた。
「やれやれだ。また能力者か」
霧島が小鳥遊先生に手錠をかけた。先生は抵抗しなかった。靄が、薄くなっていた。
剣持が宵待先輩を見た。
「久しぶりだな、宵待」
「ご無沙汰してます、剣持さん」
俺は二人を交互に見た。
「知り合いですか」
剣持が俺を見た。
「こいつに頼んでたんだ。お前を見ておいてくれって」
「……最初から」
「最初からだ。やれやれ」
俺は宵待先輩を見た。
「手紙、先輩が送ったんですか」
「ああ」
「それで呼び出されて、衝撃波で殺されかけたんですが」
「助かっただろ」
「そういう問題じゃないですよ」
宵待先輩が少し笑った。
「お前、どうやってあいつに気づいた」
「靄みたいなものが見えて」
「靄」先輩の目が、少し変わった。「それ、誰にでも見えるわけじゃない」
「知ってます」
「使えるな」
「使えるって何ですか」
宵待先輩は答えなかった。ただ、飄々とした顔で俺を見ていた。
小鳥遊先生が連行されていく後ろ姿を見た。小さな体が、さらに小さく見えた。
剣持が俺に言った。
「お前一人じゃ限界がある。宵待たちとうまくやれ」
「考えます」
剣持がため息をついて、霧島と一緒に去っていった。
宵待先輩が隣に並んだ。
「怒ってるか」
「少し」
「そうか」
先輩はそれだけ言って、空を見た。夕日が落ちていた。屋上から見ると、街が広く見えた。
「次は一応、断ってからにする」
「断ってから囮にするんですか」
「まあな」
「こんな危ない思い、もうコリゴリですよ」
宵待先輩は何も言わなかった。ただ、少し笑った気がした。
飄々とした背中が、屋上の扉に消えていった。巌が後に続いた。一度だけ振り返って、俺を見た。何も言わなかった。でも、なんか、うなずいた気がした。
神社に寄った。
本殿の前で手を合わせた。
ありがとうございます、と声に出して言った。
今日、死にかけた。助けてもらった。
ステータスを確認した。
【ステータス】
体力 98/筋力 74/敏捷 83/耐久 76
知力 84/知識 78/集中力 81/精神 96
器用 61/魅力 72
【スキル】
眼力 Lv.2
メモ Lv.1
数字を見ていたら、視界の端が光った。
【実績解除】2人目の能力者との死闘
体力 +2/筋力 +2/敏捷 +2/精神 +2/魅力 +2
トータル10、一気に上がった。
それから、また視界の端が光った。
【システム通知】体力が100を超えました
スキルを選択してください
3つの選択肢が、視界に浮かんだ。
「こ、これは」
誰もいない境内に、自分の声だけが響いた。
(第14話へつづく)
13話までお読みいただきありがとうございます!
ここで一旦、物語の密度をさらに濃くするため、今後の更新ペースを【毎週火曜・金曜の週2回】に変更させていただきます。
また、これと並行して新たな『ハック』をテーマにした新シリーズの準備も開始しました。
引き続き、KZUCCAの挑戦を見守っていただければ幸いです!




