第5話「スキル獲得のために2週間、湖まで自転車を漕ぎ続けた件」
修学旅行から帰って、まず神社に寄った。
3日ぶりだった。
鳥居をくぐって、石畳を歩いて、本殿の前で手を合わせる。
いつも通りだ。でも、いつもと少し違う気分だった。
ありがとうございます、と声に出して言った。クエストのことを考えながら。
その日から、ルーティンに新しいものが加わった。
ランニングのコースを変えるようにした。毎日同じ道を走っていたのを、行ったことのない路地や公園を混ぜるようにした。自転車でも同じだ。知らない方向へ、とにかく走る。
クエストを探していた。
でも、1週間経っても何も出なかった。
「クエストのある場所に行けば出会える」という仮説は、正しいのかもしれない。でも、そもそもクエストのある場所がどこなのかがわからない。総当たりするしかなかった。
効率は悪い。でも、走るだけでステータスは上がる。無駄にはならない。
そう思って続けた。
修学旅行から10日後の放課後、自転車でいつもより遠くまで走っていた。
地図を見ながらなんとなく向かったら、鷺沼湖に出た。
ダム湖だ。思ったより大きかった。湖面が夕方の光を反射していて、対岸に小さな島のシルエットが見えた。人はほとんどいなかった。
なんとなく自転車を止めて、湖を見た。
そのとき、見えた。
【クエスト発生】
この場所から、島に沈む夕日を7日間見届けろ
「あった」
思わず声が出た。
クエストの表示が、対岸の島の方向に重なっていた。間違いない。
時刻を確認した。夕日が島のシルエットに重なり始めていた。今日からカウントできるかもしれない。
そのまま立って、夕日が完全に沈むまで見届けた。
湖面がオレンジに染まって、島のシルエットが黒く浮かび上がって、最後の光が消えた。
1日目。
翌日から、放課後のルーティンが変わった。
学校が終わったら、すぐ自転車に乗る。片道35分くらい。鷺沼湖に着いたら、同じ場所に立って、夕日が沈むまで待つ。それから帰る。
2日目、3日目、4日目。
カウントが増えている
5日目の夕方、柊斗からLINEが来た。
「今日ゲーセン行かない?」
「無理、用事がある」
「何の用事」
「湖を見る」
「は?」
既読をつけたまま、自転車を漕いだ。
6日目の朝、目が覚めたら雨が降っていた。
窓を見て、少し固まった。
放課後も雨は続いていた。それでも鷺沼湖まで行った。濡れながら、島の方向を見た。夕日は出なかった。
翌日
学校が終わったら急いで鷺沼湖に向かう
頼む、今日で達成であってくれ
そんな思いでクエストの表示を確認した。
【クエスト:1日目】
リセットされていた。
「……マジか」
声が出た。他に言いようがなかった。
また1日目から始まった
今度は天気予報をこまめに確認するようにした。晴れが続いているペースを上げた。
2日目、3日目。
4日目に少し曇ったが、夕日は見えた。カウントは続いた。
5日目、6日目。
この頃には、鷺沼湖での時間が妙に落ち着くようになっていた。湖面をじっと見ると、波の細かい揺れが見えた。対岸の木々の輪郭が、眼力を使うとやけにくっきりした。
修行の時間にもなっていた。
7日目。
放課後、いつもより少し早く学校を出た。
鷺沼湖に着いたとき、空がきれいだった。雲がほとんどなくて、湖面が光っていた。
太陽がゆっくり傾いていく。湖面が橙色に染まる。島のシルエットが長くなる。
沈んでいく。
沈んでいく。
最後の光が、島の向こうに消えた。
視界の端が、静かに光った。
【クエスト達成】
新スキル「メモ」を獲得した
「メモ」
声に出してみた。
どんなスキルだ。意識を向けると、視界の中に小さな付箋みたいなものが現れた。そこに思ったことを書き込むと、空間に貼り付けられる。
湖畔のベンチに、試しに「ここでクエスト発見」と書いて貼った。
半透明の付箋が、ベンチにくっついた。
「……スマホで済む話じゃないか」
2週間かけて手に入れたスキルへの感想が、それだった。
自転車にまたがって、来た道を帰り始めた。
街灯が灯り始めた道を、ペダルを漕ぎながら思った。
無駄足、、、、いや、体力は上がったし
クエストがある事は証明された
つぎこそは、、、、
(第6話へつづく)
スキル メモ




