第4話「新スキル『眼力』を使ったら、見たかったものは見えずテレビの内部構造が見えた件」
修学旅行3日目の朝、目が覚めたとき、まず視界の端を確認した。
【スキル:眼力】
まだある。
夢じゃなかった。
昨夜、庭の松を見続けて手に入れた力。確かに何かは起きた。だが、何ができるのかはよくわかっていない。
改めて考える。
眼力って、どうやって使うんだ。
朝食のあと、最終日の班行動が始まった。
柊斗たちと寺社を回るルートだ。早瀬のグループとは昼に合流する予定になっている。
歩きながら、試してみることにした。
意識を目に集める。昨夜の感覚を思い出す。
石畳を見る。
じっと見る。
しばらくすると、目地の線がくっきりした。石の表面の細かな欠けまで見える。
「あ」
思わず声が漏れた。
「どうした」
柊斗が振り返る。
「なんでもない」
次は塀を見る。木を見る。少し意識するだけで、木目や表面の凹凸が浮き上がるように見えた。
昨夜と同じ感覚だ。ただし、15分もいらない。
「お前さっきから何見てんの」
「修行」
「修行」
柊斗は繰り返した。
「そうか」
それ以上は聞いてこなかった。
少しして、俺はふと考えた。
眼力。
名前だけ聞けば、だいぶ凄い能力にも聞こえる。
男子高校生として、一度くらい確認しておくべきことがある気もした。
いや、確認だ。能力の仕様確認であって、やましい意図ではない。
……たぶん。
近くを歩いていた女子のクラスメートの制服へ、ほんの一瞬だけ視線を向ける。
眼力。
うっすらと制服がすけ、、、て
次の瞬間。
視界いっぱいに、謎のモザイクがかかった。
「……っ!」
危うく変な声が出るところだった。しかも対象だけじゃない。視界全体が砂嵐みたいになって、何も見えない。
「直哉?」
「なんでもない」
慌てて目を逸らすと、モザイクは消えた。
なんだこれ。
良心に忠実な能力なのか。それとも使う側の問題なのか。
どちらにせよ、思春期男子には少し厳しい仕様だった。
昼に早瀬たちのグループと合流し、土産物屋を回った。
早瀬が和菓子の箱を手に取る。
「これどう思う?」
俺は何気なく早瀬を見た。
さっきの失敗が頭をよぎって少し身構えたが、モザイクは出ない。
その代わり、別の感覚が来た。
表情が、やけにはっきり見える。
目線の揺れ。口角の角度。眉のわずかな動き。
これ、本当に和菓子の感想を聞いてるのか。それとも俺の反応そのものを見てるのか。
「……どう?」
早瀬がもう一度聞いた。
「あ、いいんじゃない」
慌てて箱へ視線を戻す。
旅館へ戻り、夕食まで少し時間があった。
部屋のテレビをつける。柊斗が勝手にチャンネルを回している。
バラエティ番組で、アイドルグループが歌っていた。
画面端のテロップ。
ソラリス「青春リセットボタン」
センターで笑っているのは、空色の衣装を着た朝日なのという子だった。
「かわいいな」
柊斗が言う。
「そうだな」
なんとなく、また試してみる。
透けてみようと
意識を目に集める。じっと画面を見る。
しばらくして、何かが変わった。
でも、それは朝日なのじゃなかった。
テレビの奥。液晶の層。細い配線。内部フレーム。熱を持っている部品。機械の中身みたいなものが、うっすら見えた。
「……なんだそれ」
「え、何が?」
柊斗が振り返る。
「いや、なんでもない」
テレビの中の朝日なのは、変わらず笑っていた。
眼力は、見たいものを見せてくれる力じゃないらしい。
何を見るかは、まだこっちで決められない。
帰りのバスの中。
窓の外を流れる景色を見ながら、考える。
眼力は、じっと見たときに動く。それはわかった。
でも、もっと大事なことがある。
クエストがあった。
ステータスとは別の、指示のようなもの。それを達成したら、新しいスキルが手に入った。
なら、他にもあるはずだ。
たぶん、あの庭にあった。修学旅行で京都へ来たから、出会えた。もし来なければ、一生知らなかったかもしれない。
ということは――
まだ行ったことのない場所へ行けば、また何かに出会えるかもしれない。
仮説だ。でも、試す価値はある。
窓の外に、見慣れた地元の景色が増えていく。
もうすぐ着く。
3日ぶりに神社へ寄れる。
まだ行ったことのない場所は近くにある。
やるべきことが一気に増えた。
(第5話へつづく)




