第3話「京都の夜、松の木を15分見つめたら『禁断の力』が目覚めた件」
修学旅行2日目の昼過ぎ、旅館の庭園を通り抜けようとしたとき、足が止まった。
庭の奥に、大きな松の木があった。
それだけだ。別に変わったものじゃない。どこにでもある松だ。でも、なぜか目が離せなかった。
そのときだった。
【クエスト発生】
対象を一定時間、意識して観察し続けろ
「……は?」
ステータス画面とは違う。数字じゃなくて、指示だった。しかも、松の木の方向に表示が重なって見えた。まるで、あの木を見ろと言っているみたいに。
クラスメートが横を通り過ぎていった。誰も俺の視界には気づいていない。
意識して、観察し続けろ。
半信半疑だったけど、試してみることにした。ステータスのときも最初はそうだった。とりあえずやってみる。それだけだ。
でも昼間はタイミングが悪かった。集合時間があって、そのまま午後の観光に連れていかれた。
夜、消灯時間を過ぎてから、俺は一人で部屋を出た。
旅館の廊下を歩いて、庭に出られる縁側を探した。引き戸を静かに開けると、夜の空気が入ってきた。
昼間と全然違って見えた。灯籠がいくつか灯っていて、その光が石畳を照らしていた。奥に、昼間見た松の木があった。暗がりの中に、でも確かに立っていた。
視界の端に、まだあった。
【クエスト発生中】
対象を一定時間、意識して観察し続けろ
縁側に腰を下ろして、松の木を見た。
最初は何も起きなかった。当たり前だ。木を見ているだけだ。
夜の空気は冷たくて、遠くで虫が鳴いていた。旅館の中からかすかに話し声が聞こえた。それ以外は静かだった。
2分、3分。
そのあたりで、なんか変な感じがした。
木の輪郭が、なんか、はっきりした気がした。暗いのに。距離があるのに。枝の一本一本が、さっきより細かく見えている気がした。目を凝らしすぎておかしくなっただけかもしれない。でも、なんか違う。
見続けた。
5分。7分。
見え方が、じわじわ変わっていく感じがした。松の幹の模様が、細かく見えた。葉の重なりが、層になって見えた。暗いはずなのに、情報が増えていく感じがした。
10分。
確かに何かが変わっていた。気のせいじゃない、と思い始めた。
見続けた。
15分が経った頃、視界の端が静かに光った。
【クエスト達成】
新スキル「眼力」を獲得した
俺はしばらく、その文字を見つめた。
眼力。
「なんだそれ」
声に出したら、後ろから「なにがー?」と声がした。
振り返ったら柊斗がいた。なんか眠そうな顔をしていた。
「なんで来たの」
「部屋に居なかったから。どこ行ったかと思って」
柊斗が縁側に並んで座った。
「何見てんの」
「あの木」
「……松?」
「うん」
柊斗はしばらく松の木を見てから、俺を見た。
「ずっと見てたの?」
「まあ」
「なんで」
「なんとなく」
柊斗は少し考えてから、「そっか」とだけ言った。否定もしない、深追いもしない。いつも通りだった。
「寒いから戻ろう」
「そうだな」
立ち上がりながら、もう一度だけ松の木を見た。
眼力。何ができるのか、まだわからない。さっき松の木がはっきり見えた気がしたのが、それなのかどうかも、わからない。
でも、増えた。
ステータスじゃなくて、スキルが。
暗がりの中に、松の木が、さっきより少しだけくっきりと、立っていた。
(第4話へつづく)
スキル「眼力」




