第25話「【異変】学校がパニックになった日、世界がもっとやばくなった件」
朝のランニング中、カラスの群れが一斉に飛び立った。
方向がばらばらだった。鳴き声もなかった。
近くの公園では、犬が地面に伏せたまま動かなかった。飼い主が困惑した顔で引っ張っていた。
ニュースで見た映像と同じだった。
日本でも始まっている。
霧島さんから連絡が来たのは昼前だった。
「女子学生の学校で、生徒が複数人倒れています。パニック状態です」
「今から動けますか」
「向かいます」
学校の外から式神を飛ばした。
廊下が見えた。
生徒が泣いていた。怒鳴り合っている生徒もいた。座り込んで動けなくなっている生徒もいた。
普通の学校の廊下が、別の場所みたいになっていた。
眼力を絞った。
女子学生がいた。3階の東側の教室の隅で、いつものように目だけ動かしていた。
でも、今日は違った。
表情が怯えていた。
周囲のパニックが自分の想定を超えているのかもしれなかった。自分でも制御できなくなっている、そんな感じがした。
「3階の東側の教室にいます」
霧島さんに伝えた。
霧島さんは校舎の裏口付近で待機していた。
宵待先輩と巌先輩が裏口を挟む形で周囲を固めていた。
常盤先輩が少し後方で待機していた。
剣持さんは校門の外にいた。
「位置を教えてください。動き次第で動きます」霧島さんが静かに言った。
「わかりました。引き続き監視します」
式神をリレーさせながら、女子学生の動きを追った。
しばらくして、女子学生が立ち上がった。
教室を出た。
廊下を早足で歩いていた。周囲の混乱から逃げようとしているのか、それとも別の場所に移動しようとしているのか、判断できなかった。
「動きました。階段に向かっています」
「わかりました」
霧島さんの声は変わらなかった。
宵待先輩が小さく巌先輩に合図した。
女子学生が階段を下りてきた。
「1階です。裏口まであと少し」
霧島さんが数珠を握った。
常盤先輩が息を呑む気配がした。
裏口の扉が、内側から開いた。
女子学生が出てきた。
霧島さんが踏み込んだ。
その瞬間だった。
地面が揺れた。
揺れではなかった。
空間が、歪んだ。
全員がその場で動きを止めた。
校舎の壁に、亀裂が走った。
最初は細かった。でも、みるみる広がった。
亀裂の向こうが、暗かった。
こちら側の光が届いていなかった。
「なんだ、あれは」
宵待先輩が初めて、掴みどころのない声ではなく、素の声で言った。
亀裂の縁が脈動し始めた。
何かが、向こうから押し出されてくるような感覚があった。
最初に出てきたのは、小さな影だった。
人間ではなかった。
それだけはわかった。
2体、3体、4体。
次々と這い出てきた。
緑がかった肌、黄色く光る目、不均等に並んだ牙。
低い唸り声を上げながら、こちらを見ていた。
常盤先輩が掠れた声で言った。
「まるで、ゴブリンみたい、、、」
誰も否定しなかった。
女子学生が悲鳴を上げた。
霧島さんの注意が一瞬そちらに向いた。
その隙に、女子学生が走り出した。
「逃げました」
追う余裕はなかった。
影たちがこちらに向き直った。
そのとき、校門の方から剣持さんが走り込んできた。
「やれやれだ、何事だ」
状況を見て、立ち止まった。
「やれやれだ」
もう一度言った。
宵待先輩が静かに前に出た。
「さて」
それだけ言って、影たちを見据えた。
ステータスを確認した。
【ステータス】
体力 138(+2 石段継続)
筋力 112(+2 巌先輩との筋トレ)
敏捷 123(+2 石段継続)
耐久 117(+2 石段継続)
知力 94(+1 問題集継続)
知識 89(+1 読書継続)
集中力 93(+1 式神運用)
精神 117(+1 日常鍛錬)
器用 79(±0)
魅力 90(±0)
【スキル】
眼力 Lv.3
メモ Lv.2
自然回復
並列思考
瞬歩
浄化耐性
(第26話へつづく)




