第20話「【報告】霧島さんに数珠を渡したら、予想外の話になった件」
民俗学研究部の部室に向かった。
常盤が机で何か読んでいた。霧島さんが椅子に座って待っていた。
「お待ちしていました」
「あの、報告の前に」
数珠を取り出した。机の上に置いた。
霧島さんが見た。
動きが止まった。
「これは」
「神社で会った方に預かりました。霧島律さんに渡してほしいと」
霧島さんが数珠に手を伸ばしかけて、止めた。
「その方は、どんな人でしたか」
「70代くらいの、穏やかなおばあさんです。海の家で一度会っていて、神社でまた偶然会いました。元気でやってると伝えてほしいと」
霧島さんが静かに数珠を手に取った。
しばらく、何も言わなかった。
常盤が本から顔を上げた。でも、何も言わなかった。
「黒瀬くん」
「はい」
「私の祖母は、5年前に亡くなっています」
部室が静かになった。
「え」
「この数珠は、祖母のものです。間違いありません」
俺は何も言えなかった。
確かに会った。話した。数珠を受け取った。
霧島さんが続けた。「祖母は海の近くの小さな神社で巫女を務めていました。神社本庁にも登録されていないような、ローカルなものです。その神社をずっと大切にしていました」
「あの、神社で会ったときの話を、全部してもいいですか」
霧島さんが頷いた。
海の家で最初に会ったこと。神社でまた会ったこと。霧島さんのことを聞いたら嬉しそうにしていたこと。数珠を渡してほしいと言われたこと。
全部話した。
霧島さんは黙って聞いていた。
常盤も黙って聞いていた。
「元気でやってると、伝えてくれと言っていたんですね」
「はい」
霧島さんが数珠を見つめた。「そうですか」
それ以上は何も言わなかった。
でも、いつもより表情が柔らかかった。
しばらくして、霧島さんが立ち上がった。
「黒瀬くん、少し待ってください」
目を閉じた。数珠を両手で握った。
部室の空気が、少し変わった気がした。
眼力を使った。
霧島さんの周囲に、薄い光のようなものが見えた。靄とは違う。透明で、静かなものだった。
それがゆっくりと霧島さんに馴染んでいった。
目を開けた霧島さんが、俺を見た。
「何か、変わりました」
「見えました。光みたいなものが」
霧島さんが少し考えてから言った。「封じる力が、強くなった気がします」
答えは出なかった。
でも、祖母が渡したかったものは、ちゃんと届いた。
常盤が静かに本を閉じた。
報告を続けた。
「権禰宜ですが、前回より明らかに若返っています。最初に見たとき80代に見えましたが、今は60代くらいです。何かしらの能力を使っていると思いますが、詳細はまだわかりません」
霧島さんがメモを取った。「継続して観測してください」
「残り2人は、式神リレーで絞り込んでいます。一人は大きな病院の周辺に頻繁に現れる靄だとわかってきました。もう一人は住宅街の中、同じ区画をうろついています」
「素性の特定を優先してください」
「はい。それと、政治家の件ですが」
「観測していますか」
「事務所周辺にメモを貼ってきました。靄は濃いです。先日、支援者らしい人たちと話しているのを見ました。その場にいた全員が、妙に熱心な目をしていました」
霧島さんが少し眉を寄せた。「魅了系の能力かもしれませんね」
「断言はできませんが」
「わかりました。引き続き」
女子学生の学校の様子も報告した。
「以前より状況が悪化しています。クラスだけでなく、学校全体に広がっている感じがします。廊下でも、見知らぬ生徒同士が言い争っているのが見えました」
霧島さんの表情が曇った。
「限界が近づいてるわね」霧島さんが静かに言った。「なんとかしないと」
珍しく、感情が滲んでいた。
「証拠がない以上、動けないんですか」
「今は」
俺も何も言えなかった。
難しい相手だ。わかっていても、動けない。
家に戻って、ステータスを確認した。
【ステータス】
体力 124(+2 石段継続)
筋力 98(+2 巌との筋トレ)
敏捷 109(+2 石段継続)
耐久 103(+2 石段継続)
知力 90(+1 問題集継続)
知識 85(+1 読書継続)
集中力 88(+1 式神運用)
精神 108(+1 日常鍛錬)
器用 79(±0)
魅力 90(±0)
【スキル】
眼力 Lv.3
メモ Lv.2
自然回復
並列思考
瞬歩
浄化耐性
権禰宜の観測、継続。
残り2人の素性、絞り込み中。
女子学生の学校、悪化中。
(第21話へつづく)




