第19話「【修行】耐久が100を超えた日、神社で予想外の再会をした件」
巌との筋トレは、毎回限界まで追い込まれる。
「もう一回」
「はい!」
巌と組んでから筋力の上がり方が明らかに違う。
ベンチプレスのバーを戻したとき、宵待先輩が部室の入り口に寄りかかって腕を組んでいた。
「熱心だな」
常盤が宵待の腕を引っ張った。「邪魔しちゃダメですよ」
「見てるだけだ」
「それが邪魔なんです」
宵待先輩がふらりと近づいてきた。常盤が小さくため息をついた。
「黒瀬、最近どうだ」
「特に変わりはないです」
「そうか」
それだけ言って、また入り口に戻った。
掴みどころがない人だ。でも、なんとなく気にかけてくれているのはわかる。
放課後、石段を走った。
1セット目の終わり、石段を登りきったとき、視界の端に数字が浮いた。
耐久 100
上がった。
息を整えながら、ステータス画面を開いた。
【スキル選択】
以下から1つを選んでください。
①浄化耐性:能力による感情汚染・精神干渉を一定量耐える
②鉄壁:物理ダメージを一定量軽減する
③不屈:致命的なダメージを受けても即座に行動不能にならない
3つを見比べた。
物理は、瞬歩で避けられる。いや、避ける。
でも感情を操られたら、避けようがない。
浄化耐性は最適だ。
ただ、これがあっても詰め切れない。あの学校で能力が使われていても、それを証明する方法がない。捕まえる理由を、他の誰かに説明できない。
難しい相手だ。
あんな能力で、気づかないうちに操られたらたまったもんじゃない。
①を選んだ。
【浄化耐性を取得しました】
能力による感情汚染・精神干渉を一定量耐えます。
石段の上で、少し空を見上げた。
じわじわ積み上げてきたものが、ちゃんと形になっている。
悪くない。
その夜、早瀬からLINEが来た。
「今週の土曜、図書館行ける?」
「行けるよ」
「やった。中央図書館の方行ってみたくて。蔵書も多いし」
「いいね」
「直哉が行ったことなさそうで」
「ない」
「じゃあ決まり」
返信しながら、次の土曜日が少し楽しみになっていた。
翌日、式神の運用を切り替えた。
鳥は操れない。同じ周辺をうろつくだけで、新しい場所にはなかなか辿り着けない。
それより、靄を確認できている人間の観測に集中する方がいい。
権禰宜の神社にメモを貼った。眼力を絞った。
靄は濃い。でも、能力はまだ使っていない。ただ歩いている。
他にも靄を持った人間がいる。まだ顔も職業もわからない。
式神をリレーさせて、少しずつ行動範囲を絞っていくしかない。
今日確認できた範囲を頭に入れた。明日はその先側に貼る。
昼休み、柊斗が隣に座った。
「なんか最近、忙しそうだな」
「そうか?」
「目がよく動いてる。考えてるときの顔だ」
こいつは本当に観察眼がある。
「いろいろ並行してるだけだ」
「早瀬さん関連も含めて?」
「それは別枠だ」
柊斗が少し笑った。「別枠って言えるようになったんだな」
「うるさい」
「腕、もうほとんど気にならないぞ」
さらっと言った。
柊斗はこういうやつだ。重くせず、でもちゃんと伝える。
「よかった」
それだけ返した。柊斗は「ああ」と言って弁当を開いた。
週末の夕方、神社に向かった。
手を合わせて、踵を返そうとしたとき、境内に人影があった。
見覚えがあった。
海の家の、おばあさんだ。
「あれ」
思わず声が出た。おばあさんがこちらを向いた。
「あら」おばあさんが少し目を丸くした。「こないだの子ね」
「はい。こんなところで」
「ここの神社とは縁があってね。たまに来るんだよ」おばあさんが境内を見回した。「あなたは?」
「家が隣なので、毎日来てます」
「まあ」おばあさんが少し笑った。「それは知らなかった」
しばらく、他愛ない話をした。
海の家のこと、この神社のこと。
ふと、気になっていたことを聞いた。
「あの、もしかして霧島さんですか」
おばあさんが少し首を傾けた。「おや、名乗ったかい?」
「いえ。こないだ仰っていた、警察官になったお孫さんの律さんと最近知り合いまして」
「律と?」おばあさんの顔が少し和らいだ。
「最近変な事件が多くて、お世話になっていて」
「そうか」おばあさんがしばらく俺を見た。「もう知り合ってたんだね」
どこか嬉しそうだった。
それから、おばあさんが懐から数珠を取り出した。古いものだった。
「律に渡してほしいんだけどね。なかなか会う機会がなくて」
「俺が渡していいんですか」
「あなたなら大丈夫だよ」
理由は言わなかった。でも、迷わなかった。
「わかりました。渡しておきます」
「ありがとう」おばあさんが少し微笑んだ。「それと、元気でやってるって伝えてくれると嬉しい」
「伝えます」
おばあさんはそれだけ言って、神社から帰っていった。
数珠を手の中で握った。
古いけど、丁寧に扱われてきたものだとわかった。
とりあえず、霧島さんに連絡してみよう。
靄の件の報告もある。
家に戻って、ステータスを確認した。
【ステータス】
体力 122(+2 石段継続)
筋力 96(+2 巌との筋トレ)
敏捷 107(+2 石段継続)
耐久 101(+2 石段継続、100超えスキル取得)
知力 89(±0)
知識 84(+1 読書継続)
集中力 87(+1 式神運用)
精神 107(+1 日常鍛錬)
器用 79(±0)
魅力 90(±0)
【スキル】
眼力 Lv.3
メモ Lv.2
自然回復
並列思考
瞬歩
浄化耐性
浄化耐性、取得。
権禰宜の観測、継続。
靄を持った人間はまだ複数いる。まだ顔も職業もわからない。
数珠は、机の引き出しに入れた。
(第20話へつづく)




