第18話「【日常】早瀬さんとの毎日が、なんか悪くない件」
月曜日の朝、宵待先輩からメッセージが来た。
「例の女子学生の学校で、おかしなことが起きてる。クラス内で人間関係が急速に壊れてるらしい。喧嘩、仲違い、突然の絶交。原因がはっきりしない」
「能力を使い始めた、ということですか」
「可能性が高い。剣持にも伝えた。ただ、証拠がない。今は様子見だ」
「確認してみます」
「無茶はするな」
朝のランニングで、その学校の近くを通った。
早朝で生徒はまだいなかったが、先生が一人、正門から入っていくのが見えた。
メモを書いた。先生の正面に向けて、意識で貼った。
昼頃、視界を借りた。
廊下が見えた。先生が歩いていた。
しばらく視界を追っていたら、教室の前で足が止まった。中から言い争う声が聞こえてきたらしく、先生が扉を開けた。
教室に入った。
眼力を使いながら、視界を絞った。
いた。
靄をまとった女子生徒が、教室の隅にいた。騒ぎには加わっていなかった。でも、目だけが動いていた。言い争っている二人を、じっと見ていた。
「これが、能力か」
感情を操る。見ているだけで、周囲の人間の感情を刺激する。怒り、不満、嫉妬。そういうものを引き出す。
先生が言い争いを収めようとしていた。でも、女子生徒の視線が動いた。今度は別の生徒を見始めた。
その生徒が、急に声を荒げた。
確認できた。
その日の夕方、宵待先輩から連絡が来た。
「今から来られるか。剣持と霧島も来る」
民俗学研究部の部室に向かった。
剣持が椅子に座っていた。霧島が横に立っていた。宵待先輩、常盤、巌もいた。
「女子学生の件、確認しました」
霧島が俺を見た。「どうやって」
「式神で、学校の様子を見ました。感情を操る能力のようです。見ているだけで、周囲の人間の感情を引き出している感じがしました」
剣持がため息をついた。「やれやれだ。感情を操る、か」
「証拠がないと難しいですか」
「難しいどころじゃない」剣持が腕を組んだ。「喧嘩や仲違いが起きても、それが能力によるものだと証明できない。警察としては動きようがない」
「では、どうするんですか」
「監視するしかない。決定的な何かが起きるまで、な。やれやれだ」
霧島が俺に近づいてきた。
「黒瀬くん、引き続き式神での監視を頼めますか」
「やってみます」
霧島がしばらく俺を見てから、「よろしくお願いします」と言った。
帰り際、霧島に話しかけようとした。おばあちゃんの件を聞こうと思っていた。
でも、霧島がすでに剣持と話し始めていた。
また次の機会にしよう。
その日の夜、早瀬からLINEが来た。
「今日の授業のノート、写真送ってもらってもいい? 5時間目、聞き逃したとこあって」
「いいよ」
写真を送った。
「ありがとう。助かった」
「どういたしまして」
「ノートとるの、めっちゃ上手だよねー」
「まあ、集中してるから」
それからも、他愛ない話が続いた。
気づいたら1時間経っていた。
翌日から、早瀬とのLINEが毎日続くようになった。
授業のこと、本のこと、学校で起きたこと。
特に意味のない話が多かった。でも、返すのが面倒くさいとは思わなかった。
柊斗に「最近スマホよく見てるな」と言われた。
「別に」
「早瀬さんか?」
「なんで知ってる」
「顔に出てる」
とりあえず顔を擦った。
週末、早瀬と図書館に行った。
「ここ、来たことある?」
「たまに」
「私よく来るんだけど、一人だとなんか寂しくて」
二人で棚を眺めた。早瀬が本を選ぶのを、横で見ていた。
「直哉は何読むの?」
「最近は新書が多い」
「どんな」
「気になったやつを手当たり次第に」
早瀬が少し笑った。「それっぽいね」
「それっぽい?」
「なんか、直哉らしいなって」
なんとも言えなくて、棚に視線を戻した。悪い気はしなかった。それがちょっと意外だった。
2時間ほど、それぞれ本を読んで過ごした。
帰り際、早瀬が言った。
「また来ようね」
「ああ」
「次は何曜日がいい?」
「どこでも」
「じゃあ来週の土曜日」
「わかった」
早瀬が少し嬉しそうな顔をして、歩き始めた。
柊斗が見たら、また何か言うんだろうな。
そう思いながら、後ろをついていった。
修行は続けていた。
石段、巌との筋トレ、問題集。
自然回復のおかげで、1日のこなせる量が増えている。
帰りに神社に寄った。手を合わせて、踵を返そうとしたとき、ふと境内の奥が目に入った。いつも素通りしている場所だ。何があるわけでもない。でも、なんとなく気になった。
ステータスを確認した。
【ステータス】
体力 120(+4 石段×2セット×2日)
筋力 94(+4 巌との筋トレ×2日)
敏捷 105(+4 石段×2セット×2日)
耐久 99(+4 石段×2セット×2日)
知力 89(+1 問題集継続)
知識 83(+1 読書継続)
集中力 86(+1 修行全般)
精神 106(+1 日常鍛錬)
器用 79(±0)
魅力 90(±0)
【スキル】
眼力 Lv.3
メモ Lv.2
自然回復
並列思考
瞬歩
耐久が99になっていた。
あと1だ。
女子学生の件は、まだ動きがない。でも、感情を操る能力が学校の中で使われている。
なんとかしなければ。
(第19話へつづく)




