第16話「【衝撃】無口な先輩、トレーニングの話になったら止まらなかった件」
渡り鳥に式神を飛ばしていて気づいたことがある。
クエストが3個、自分の町から離れたエリアに固まっていた。
自転車では遠い。電車で行く距離だ。平日の放課後じゃ時間が足りない。
週末に朝から遠征しよう。
そう決めて、今週は式神探索を続けることにした。
式神を飛ばし続けていた。
並列思考のおかげで、カラスの視界を見ながら別のことができる。学校の授業中も、休み時間も、カラスを飛ばし続けた。
3日で、靄をまとった人間を3人特定した。
1人目は、カラスが商店街を飛んでいる時に見つけた。
人混みの中に、靄をまとった人物がいた。
見覚えがある顔だった。
地方議員だった。選挙の時期になると、あちこちで見かける顔だ。実物に靄がかかっているのは初めて見た。
2人目は、駅前で見つけた。
制服を着た女子だった。俺の学校の制服じゃない。カラスが駅前を旋回した時に、靄が見えた。
制服の襟元に、見覚えのない校章があった。
駅から二つ先の学校だ。
3人目は、街で一番大きな神社で見つけた。
カラスが境内の上を飛んでいたとき、社務所から出てきた人物に靄が見えた。
白い装束を着ていた。権禰宜だった。
神職者に靄がある。
なんか、嫌な感じがした。
3人の情報をメモに書いて、整理した。
議員、女子学生、権禰宜。
残り2人はまだ特定できていない。
でも、3人だけでも多い。一人で抱えるには限界がある。ストーカーの時も、小鳥遊先生の時も、結局助けてもらった。
複数人が同時に動いたら、どうする。
明日、宵待先輩に相談してみよう
放課後、学校のトレーニング室に向かった。
筋力が78だった。他のステータスと比べると、明らかに低い。体力はどんどん上がっているのに、筋力だけ止まっている。
石段は体力と敏捷と耐久が中心で、筋力への刺激が足りていなかった。もっと効率よく上げるには、ちゃんとした筋トレが必要だ。
扉を開けたら、巌がいた。
黙々とバーベルを上げていた。誰もいない部屋で、一人で。
俺に気づいて、手を止めた。
目が合った。
巌がうなずいた。
俺もうなずいた。
それだけだった。
俺はダンベルを手に取って、適当にカールを始めた。
しばらく、お互い無言でトレーニングをしていた。
静かだった。でも、不思議と気まずくなかった。
10分ほど経った頃、巌が俺の方を見た。
「フォームが違う」
「え」
「肘が動いてる。固定しろ」
低い声だった。
言われた通りに直した。
「もっと体に近く」
直した。
「そう」
巌がうなずいた。
それだけだった。また黙々とバーベルを上げ始めた。
でも、しばらくすると、また声をかけてきた。
「何を上げたい」
「筋力全体ですね。でも効率が悪くて」
「種目が少ない」
「種目?」
巌がバーベルを置いた。
「筋肉は部位ごとに鍛える。一種目では全体に効かない」
それから、巌が話し始めた。
止まらなかった。
「大きい筋肉から鍛えろ。脚、背中、胸。この三つが全体の七割を占める。小さい筋肉は後だ」
「脚は石段でやってます」
「石段は持久系だ。筋肥大には低回数高重量が必要になる。スクワットをやれ。バーベルスクワット、フルレンジで。深さが足りないやつが多いが、ハムストリングスに当てるにはボトムまで下ろす必要がある」
「背中は」
「デッドリフトだ。ただし腰を痛めやすい。最初は軽い重量でフォームを固めろ。バーはすねに沿わせる。背中は中立位を保て。丸めた瞬間に終わる」
「胸は」
「ベンチプレスだ。肩甲骨を寄せて下制する。肩が上がった状態でプレスすると肩を壊す。アーチを作って、バーを胸に触れるまで下ろせ。ハーフレンジは意味がない」
俺はメモを取りながら聞いていた。並列思考のおかげで、話を聞きながら同時に内容を整理できた。
「ここにある器具で全部できますか」
「できる」巌がトレーニング室を見渡した。「ただし、一日で全部やるな。分割しろ。今日は脚と背中。明日は胸と肩。腕は自然についてくる」
「回数は」
「筋肥大なら六回から十二回で限界になる重量を選べ。それ以上できるなら重量が足りない。限界まで追い込め」
「毎日やっていいですか」
「同じ部位を連日やるな。筋肉は壊して、回復する時に育つ。回復前に追い込んでも逆効果だ」
こいつ、しゃべるんだ。
巌に教わったフォームで、スクワットとデッドリフトをやった。
いつもと全然違った。使ったことのない筋肉が、じんじんした。
限界まで追い込んだ。
巌が横でフォームを確認し続けた。無口だったが、ズレるたびに一言だけ言った。
「腰が丸まってる」
「膝がつま先より前に出てる」
「バーが体から離れてる」
それだけだった。でも、それだけで十分だった。
トレーニングが終わって、床に倒れ込んだ。
視界の端が光った。
【ボーナス】共同トレーニング
筋力 +8
巌が俺を見た。
「いい顔してる」
「ありがとうございます」
「また来い」
それだけ言って、また黙々とバーベルを上げ始めた。
神社に寄った。
本殿の前で手を合わせた。
ありがとうございます、と声に出して言った。
靄の3人のことを考えていた。
議員、女子学生、権禰宜。
一人で抱えるより、預けられる人間がいる。それだけで、少し楽になった気がした。
ステータスを確認した。
【ステータス】
体力 114(+6 石段×6セット)
筋力 88(+2 通常トレーニング +8 共同トレーニングボーナス)
敏捷 99(+6 石段×6セット)
耐久 90(+6 石段×6セット)
知力 87(+1 問題集継続)
知識 81(+1 読書・調査)
集中力 84(+1 修行全般)
精神 102(+1 日常鍛錬)
器用 68(+1 細かい作業継続)
魅力 80(+1 日常交流)
【スキル】
眼力 Lv.2
メモ Lv.2
自然回復
並列思考
敏捷が99になっていた。
あと1だ!
(第17話へつづく)




