第八話 重いまぶたと軽やかな足音
目を覚ますと疲れがすごかった。
昨日は久しぶりに学校に行ったし、振り回されたりで大変だった。
もうめんどくさいし、今日は休もうと思い、寝返りを打つと、布団が何かに引っかかった。
引っ張っても動かないので、何に引っかかってるか確認すると。
「あ、起きた?今日も行くよ!」
沙夜がベッドに座っていて、布団を踏んでいた。
「部屋に入らないって約束だっただろ、なんでいるんだ」
「迎えに来たら誠君のお母さんに通されちゃった!」
「ちゃったじゃないだろ」
言葉と同時に返礼としてデコピンを返す。
「痛っ、なにすんのよー!」
むきー!と言わんばかりの表情をしているが気にしない。
「とにかく今日は帰ってくれ、初日の疲れがすごいんだ」
「んーまあしょうがない、今日は許してやろう」
思ったよりあっさりとひいてくれたことにあっけにとられた。
「じゃあ、もう遅刻しちゃうからダッシュで行ってくる!ゆっくり休めよ少年!」
そう聞くとものすごいスピードで部屋を出ていき、玄関からバタンッと聞こえた。
時間を確認すると8時25分だった。
教室に入らなきゃいけない時間が8時30分なので、うちから全力で走らないと間に合わない。
その中僕を巻てくれていたことを考えると、さすがに少しだけ罪悪感がわく。
そんなことを気にしていてもしょうがないので、もう一度眠りにつくことにする。
まぶたが重くなっていく。最後に時計の針をぼんやりと見た気がする。あとはもう、深い闇に沈んでいくだけだった。
――その頃、別の場所では。
「やばーーーい!余裕で遅刻だーー!」
制服の裾を押さえながら、私は全力で学校へ駆けていた。片手には道案内のお礼にもらったまんじゅう。
「はぁ…やば…でも!ここからが本番だよね!」
自分で陸上部みたいなことを言いながらさらに加速。校門を滑り込む勢いで突破し、そのまま下駄箱へ突進した。
そのまま流れるように上履きに履き替え、階段を駆け上がっていき、教室の前についた。
思い切り扉をあけ「おはよー!」と言った。
先生からは少し怒られたけど仕方ないよね!必要経費ってやつ?
授業が始まると、朝のスプリントが嘘みたいに退屈な時間が流れていく。
黒板の文字を追いながら、心だけは窓の外を散歩していた。楽しいけど、どこかつまらない。そんな日常の空気が広がる。
昼休みになり、昨日仲良くなった三人と机を寄せてご飯を食べた。
会話の内容はくだらなくて、どうでもよくて――でもそれが、妙に心地よかった。
「トイレ行ってくる!」
そう言って席を立ち、廊下に出る。昼休みのざわめきが少し遠くなる。
用を済ませて、手を拭きながら教室に戻ろうとしたとき――
「あの、今日、放課後…時間もらえますか?」
声をかけられて振り向くと、見覚えのある男子生徒が立っていた。
背筋は伸びているけれど、手はわずかに震えている。目もこちらを見たり逸らしたり、落ち着かない。
(あー…これは、たぶん告白だな)
彼にとってはきっと一世一代の大勝負。
でも、私の胸の中には期待よりも、面倒くさいという感情が先に浮かんだ。
そんな自分を、少しだけ冷たい女だなと思う。
「いいよ。どこに行けばいい?」
できるだけ明るく笑って返すと、彼の肩がほんの少しだけ軽くなった気がした。
対照的に、私の肩はじんわりと重くなる。
まるで、これから背負う荷物を事前に察してしまったみたいに。
……これには、未だになれない。
午後の授業も、いつも通り退屈で、黒板の文字は頭を素通りしていく。
でも、胸の奥には昼休みにかけられた言葉が、石ころみたいに沈んでいた。
気づけば放課後。呼び出された校舎裏の空気は、教室よりもずっと冷たかった。
目の前には、あの男子生徒。やっぱり、告白だった。
「ごめんねー。今は彼氏とかはいらないんだー」
軽く笑って断る。
これで終わりかと思ったら――
「……やっぱ、音無がいるからか?」
その名前に、眉がわずかに動く。
たった一日来ただけの誠君のことを、こんな場面で聞くなんて。
「誠君は関係ないよー。今は彼氏がいらないだけ」
そう答えると、納得したのかわからないが、無言でその場から去っていった。
なんだか悪いことをした気分になった。
でも、仕方がない、今日初めてしゃべった人の何を好きになればいいか、わからないのだから。
それでも、きっとこれから少しずつ、わかるようになるのかな。
そんな風に思いながら、私は校舎裏をあとにした。
家に帰ってる途中、なんとなく誠君の家に寄った。
いつも通り誠君のお母さんに通され、部屋の前についた。
「誠くーん!入っていい?」
「ダメだ」
一瞬で拒絶された。
今にして思えば、ここまで私に冷たく当たるのは彼だけだ。
ほかの人たちからはちやほやされ、すぐ好かれるから。
私はその言葉を無視して、部屋に入る。
「ダメだという言葉が聞こえなかったのか?」
「いいじゃん!てか聞いて―今日も告白されちゃったよー」
私は今日あったどうでもいいことを話す。
その時間は私にとって、とても楽しい時間だった。
こんなに適当にあしらわれてるのに、楽しく感じるのは、普段されないことをされているからだろう。
だから私は彼に興味があるのだ。
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