第九話 休んだ日の訪問者
学校が終わった沙夜がうちに来てはや1時間、ずっと彼女はしゃべっている。
もういい加減かえってほしいところだが、何度言っても帰る気はないようだ。
「なあ、どうしたら帰ってくれるんだ?」
「んー実は今日家に誰もいなくてさー、晩御飯食べて行っちゃダメ―?」
「それはうちの親に聞いてくれ」
「そっか!わかった!」
そういった彼女は部屋から飛び出ていったと思ったらすぐに戻ってきた。
「いいってよ!やったね!」
「そうか―それはよかったなー」
なぜこんなにも軽い反応かというと、どうせ僕は部屋で食べるし、母がいる以上、沙夜はリビングで食べることになるだろうと思っているからだ。
しばらくまた沙夜がしゃべっていると部屋にご飯ができたと呼びに来た。
晩御飯を取りに下に一緒に降り、晩御飯を部屋に戻ろうとすると、沙夜につかまった。
「どこ行くの?一緒に食べようよ!」
「断る、今日もいつも通り部屋で食べるわ」
ぶっきらぼうにそう返すと母からの圧を感じた。
「…今日くらいは、いいじゃない」
仕方なく頷き、沙夜と一緒にリビングへ向かった。
沙夜は嬉しそうに小さく跳ねながら席につく。
「やったー! じゃあ、今日もいっぱい話そ!」
誠は少しだけ溜息をつきながら、でも心のどこかで、この時間が悪くないことを感じていた。
ここまで僕を相手にして笑顔にしている人がいるんだ、悪い気がするはずはない。
「今日もって言っても、花咲が一方的に話してるだけなんだけどな」
「まあいいじゃないかー!聞いてて楽しいでしょ?」
「いや、半分くらいは無理やり聞かされてる気がするけど…」
「えー! そんなことないよー! 誠くんだって楽しんでるでしょ?」
「楽しんでる…かなぁ…?」
「じゃあ、今度はもっと面白い話してあげるから、ちゃんと笑ってよね!」
「ある意味責任重大だな」
沙夜はにこにこと嬉しそうに笑う。
その笑顔に、つい俺も少しだけ頬が緩む。
どうしてこんなにも元気をもらえるのか、自分でもわからなかった。
母はこちらを見てにんまりしていた。なんだか気持ち悪かったが、ろくなことがないので、黙っておいた。
晩御飯を食べ終え、部屋に戻ろうとしたら、母に呼び止められた。
「ちょっと、夜遅いんだから、沙夜ちゃんおくっていきなさい!」
「別にいいだろ、家すぐそこなんだし」
「だめよーすぐだから行ってあげなさい」
こうなったらもう引き下がってくれないのはもう知っているのでさっさと行くことにする。
「花咲もう帰る準備できてるか?」
「えーもう少し居てもいいじゃん?」
「ダメだ、早くひとりにさせてくれ」
そういうとしぶしぶ鞄を取ってきてくれた。
「じゃあ行くぞ」
「はーい、誠君のお母さん!お邪魔しました!」
「はーい、またいつでも来てね!」
もう来ないでほしいと心で思いながら家を出た。
「いやー誠君のお母さんのご飯おいしかったね!」
「そうだな」
「やっぱ、誠君が料理うまいのも遺伝なんじゃないかな?」
「そうかもな」
「ちょっとー!適当返してるでしょ!」
ばれてしまったが、もう家なので、問題ない。
早く家の中に押し込んで帰ることにしよう。
「返してるが、もう家着いたぞ」
「あ、ほんとだ!送ってくれてありがとね!」
すんなり話題をすり替えることに成功したのでこのまま帰ってくれそうだ。
「明日は学校来てね?来ないと引きずっていくから」
「善処はする」
その言葉を聞いた沙夜は笑顔で手を振りながら帰っていった。
それを無事見届け、僕も家に帰った。
玄関のドアを閉めると、ようやく一息つけた。
今日は学校を休んで、正直ほっとしている。
それでも、沙夜が来るといつも疲れるけれど、彼女が残していく色は、僕の世界を少しだけ楽しくしてくれる。
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