第四話 誤解と羨望の教室
周りの視線が刺さっているのは当然のことである。
沙夜が引っ張ってきたとはいえ、2年生になってから一回も来ていないし。
一年生だった頃も最初の3カ月しかいなかったのだ、一部を除いて覚えてる人などいないだろう。
僕は一度、おそるおそる周りを見渡してみた。
見知った顔はないようだ、それだけで少し安心できた。
そんなことを思っているとクラスメイトの一人が僕に近づいてきた。
「お前が音無か!初めましてだな、俺は相沢 晴斗、これから仲良くなっていこうな!」
晴斗は、にかっと笑った。
容姿はとても整っており、短めの金髪がよく似合っている。
性格もとてもよさそうだ、おそらくこれは社交辞令なので僕は軽く流しておく。
「わざわざありがとな、一年間よろしく」
引きこもってた割には思ったよりすらすら言葉が出てきた。
沙夜と話していたことで、言葉が詰まらなかったことは癪だが素直に感謝だ
「よかった、思ったより話しやすいタイプの人だ。視線がすごいだろ?音無が初めて来たっていうのもあるが、ほとんどは花咲のせいだから気にするな!」
「やっぱり、こいつってそんなに人気があるやつだったのか?」
「そりゃもちろん!」
横から沙夜が何かを言っているのが聞こえたがしかとしておく
晴斗はその言葉に当然といった様子で言葉を返す。
「そりゃそうだろー、あれだけ整った容姿してたら人気も出るってものだ」
「確かに整ってはいるが…うるさくないか?」
本人は「なっ」と抗議したそうにしていたが、それに対し晴斗はきょとんとしたあと、急に吹き出した。
それがなぜかはわからなかったが少し恐怖を覚えた。
「いや、ごめんごめん。お前、思ったより面白いなって思ってさ」
……こういうタイプは、敵に回すより味方にした方がいい気がする。
「そうか、それは光栄だな」
そういったときチャイムが鳴り教室に先生が入ってきた。
教室の人達はまだ僕のことを気にしていたがそれぞれ席に戻る。
教卓についた先生が出席を取り始めた時隣から話しかけられた。
「誠君、第一友人げっとだね!」
先生が前に立っていたため声は控えめだったがうるさく感じるのはなぜなんだろうか。
そう考えているうちに僕の名前が呼ばれる番だ。
「音無ーは、いないから、って……いるじゃん、ひさしぶりだなーほどほどに来いよー」
ものすごく軽い態度をとった担任に思わず驚いた、めちゃくちゃ軽い先生だ。
あっけにとられていたが思い出したように沙夜に話しかける。
「友人になったわけでもないだろ、一回話しただけだぞ?」
「そうかなー?あの中で話しかけに来てくれた人は大事にしたほうがいいんじゃないかなー晴斗君はいい人だし人気もあるよ?」
こいつも人気があるのかよ。めんどくさい。
でも、口に出すとさらにめんどくさくなりそうだ。
「人気があるのはどうでもいいが、たぶん今後かかわることはないぞ、自分からわざわざかかわろうとは思わないし」
「もったいなーい」
沙夜はいつも通り能天気に笑っている。
僕はため息をついて机に突っ伏した。
その間にも朝礼は進んでいく。
「……お知らせは以上だー今日も一日問題を起こさないように過ごせよー」
問題なんて、起こす気は一ミリもない。
けど……勝手に向こうから転がってきそうな気がしてならなかった。
朝礼が終わった後、授業まで10分の休み時間がある
教室はまた、一気にざわめきに包まれた。
視線は、まだ僕に刺さり続けている。
そろそろ飽きてくれと心の中で祈ってみたが、どうやら神様は今日もお休みらしい。
「音無くーん!」
前の席の女子二人がくるっと振り向き、興味津々といった目で僕を見てくる。
「えっと……はい?」
「ほんとに花咲さんと幼なじみなの?」
「噓でしょ!?昨日まで存在すら知らなかったんだけど!?」
「ちょっと、失礼でしょ」
僕は答えに窮した。どこから幼馴染の話が出てきたかもわからないし、何をもってほんとになのかもわからないが、無視するのもそれはそれで目立つ。
「ほらほら、誠君はシャイなんだから、いじめないであげて?」
沙夜が勝手に助け舟を出す。
なぜ幼馴染ではないと否定してくれない……
そのせいで、女子たちの目が一斉にかわいい系男子みたいな色になるのがわかった。
……絶対に面倒なことになる。
というか、初対面の人にここまでぐいぐいこれるのコミュ力高いな。
そう思っていた僕の背後から、ひょいっと顔を出したのは晴斗だった。
「おーい音無、モテモテじゃん! この調子だと、昼までにはクラスデビュー完了だな!」
「……僕は望んでないんだが」
そう言った瞬間、沙夜と晴斗が目を合わせて、同時に笑った。
二人のこのテンションはもはやお手上げだが、この女子二人の誤解を解いておかないとな。
「僕はこの人とは幼馴染ではない、毎日学校に来ることを催促しに来てた人ってだけだ」
「そうなの?あの花咲さんが気にかけてる人だから深い関係がある人なのかと思ってた」
「じゃあ二人はそれ以外に何にも関係性がないってこと?」
二人がそう聞いてきたとき、少し周りの空気が変わった気がした。
なぜだろうと考えると、下で彼氏がどうと噂されていたことを思い出した。
ここまで出ていて答えがわからないほど鈍感ではない。
周りの人は僕が彼氏じゃないかとひやひやしているのだ。
ならば早く安心させてやろうと思い言葉を返す。
「ほんとに何にもないな、なのによく毎日家に来ていたと思う」
僕としては、完全に誤解を解いたつもりだった。
だが、次の瞬間、教室の男子全員の視線が刺さる。
「花咲さんが毎日家に来てくれるって、どんなご褒美だよ……」
「ちょっとでいいから代われよ……」
「はぁ……俺の努力は何だったんだ……」
怨嗟と羨望が混ざったため息が、波のように僕に押し寄せた。
無実のはずなのに、なぜかクラス中の男子を敵に回した気がした。
そのころこの話題の中心である沙夜は笑っており、晴斗は面白がるようにこちらを見ていた。
なんだか少し腹が立った。
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