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第三話 目立ちたくない僕と能天気バカ

ここから先の道のり、沙夜はずっとうるさかった。


「誠君!信号だよ!知ってる?」


「知ってるわ、あまりにも僕を馬鹿にしてるよね?」


ことあるごとにこのような質問をし続けてくる。

前も言ったが僕は外に出たことがないわけではないのである。


「そんなことないよー。いったでしょ?世界を教えるって!」


「それ文字通り実行しないでもらっていいかな?一般常識くらいの知識は普通にあるから」


それを聞いた沙夜はどこか不満そうだった。

普通にそうなる意味が全く分からないがとりあえず無視しておくことにしよう


「誠君!あれ見て!郵便ポストだよ!知ってる?」


「知ってるわ!! ていうか、今どき小学生でも知ってるよね?」


……つい反応してしまった。

僕のことを赤ちゃんか何かかと思っているのか?


その時、横を通り過ぎたおばあさんがチラッと僕たちを見る。

……完全に漫才コンビかなんかだと思われている気がする。


「お前、周りの視線とか気にならないわけ?」


「まったく?誠君が最優先!周りは二の次なのです!」


これ以上に有難迷惑という言葉が当てはまる状況はないだろう。

そうこう言っていたら学校が見えてきた。

こんなにも学校が近くてよかったと思ったのは生れてはじめてだった。

この後言われることなんて予想がついていたので先に釘を刺しておくことにした。


「言っておくが、学校は知ってるからな?」


「え、あたりまえじゃん、いきなり何言ってるの?」


危うく手が出るかと思った。

さっきまで信号がどうだのポストがどうなの言ってたくせにいきなりまともになりやがって。


学校が近くなってくると生徒が増えてくる。それとともに僕に視線が集まっていく。

その視線は僕が引きこもっていて初めて目にした存在だからというわけではなかった。


「おい、あの花咲さんの隣歩いてるの、誰だ……?」


「しらねーよ、うらやましいなー…」


隣に歩いている少女、花咲 沙夜のせいであった。

人気であるとは予想していたが、まさかここまで影響力のある人物であるとは思っていなかった。

もしかしたら、僕はとんでもない人と登校しているのかもしれない。


(……やばい、初日から悪目立ち確定だ)

背中に無数の視線を感じながら、僕は心の中で静かに泣いた。


一方そのころ元凶は


「いやー今日もみんな元気だね!」


何にも気づいちゃいなかった。思わず能天気おバカと言ってやろうかと思った。


「なあ、教室までは一人で行くから、先に行っておいてくれないか?」


「なんでよ!一緒に行こうよー友達でしょ?」


やっぱり能天気おバカである。


「周りの視線がすごいんだよ…お前ってやっぱり人気者だったんだな」


「そうなのかもねーまあ視線なんて気にしたら負け!行けば変わらん!」


そう言ったと思えば、また僕の腕をつかんだ。

周りが一瞬騒然とした気がしたが、気づかなかったふりをしないとやってられない。


そうして、そのまま引っ張られ昇降口に入ると、


「えっ、花咲さんの隣に男の子!?」


「しかも、知らない顔じゃない?」


という小声があちこちで飛ぶ。


ここまでくると気づかなかったふり作戦もできなくなり、誠は顔を伏せながら、心の中で念じる。

(頼む……誰も話しかけないでくれ……)


だが元凶は当然のように声を張り上げる。


「みんなー!誠君が復活したよー!!」


……やっぱり地獄の始まりだった。


「ちょっ、お前何言ってんだ⁉」


沙夜の影響力はすさまじく、近くの生徒たちが騒がしくなっていく。

しかし、そもそも僕のことを知っている人なんて片手で数えるほどしかいないので、周りの声はほとんど統一されていた。


「誠君って……だれ?」


「え、誰?」


「知らないんだけど……」


「いや、男子?女子?え、あの子?」


「もしかして、転校生?」


「てか復活って何?死んでたの?」


「マジで誰? 花咲さんの彼氏?」


「うそ、彼氏!?」「マジ⁉」


「いや、でも誠君って誰だよ……!」


このように多種多様に見せかけて、言ってることはほとんど同じである。

というか、彼氏説を勝手に立てるのはやめていただきたい。あまりにも火に油を注ぐ行為だ、ここで止まってほしい。


騒がしい声を背中に受けながら、つかまれていた腕を払いのけ、僕は階段を駆け上がる。

完全に追われるモブ役の気分だ。

後ろから当然のように沙夜も追いかけてきていた。


二年生の教室は二階と三階にある。……なんでこんな中途半端なんだよ。

僕の教室は2階なので一つ上がったところで廊下に出た。

……静かだ。さっきまでの地獄のコーラスが、嘘みたいに遠ざかっていた。

なんだかとても疲れた、まだ教室にすらついていないというのに。


つかれて一息ついていると、後ろから沙夜が追いついてきた。


「ちょっとーなんで先に行くのさー」


「おまえ、ほんとに周りを見てないのな!」


何でなんて言うまでもなかったというのにそう聞いてくる沙夜に苛立ちを覚えた


「まあいいじゃないかーほら、教室もうそこだから、行こ?」


そういわれ、自分のクラスである2年4組についていることに気が付いた。

ここまで短かったはずなのに長い道のりだった……


とはいえ、ここまでいろんなことがあると緊張より疲れが来たのである意味よかったのかもしれない。


そうして、少し歩き、教室の扉の前へと立つ。

少し残っている緊張を振り払い、扉を開こうと手を伸ばすと、横から腕が割り込んできてそれが扉を開け、言い放った。


「みんなー!誠君が来たよー!」


……少しはやると思っていたがほんとにやらないでほしかった。


「えっ、誠君って、あのずっと来てなかった!?」


「花咲さんの隣の男の子ってあの子!?」


教室中の視線がこちらに集まる。

声が飛び交い、ざわざわとした空気が一気に広がる。

心臓がバクバクして、まるで全身が燃えているみたいだ。


僕は思わず目を伏せて、席へと急ぎ足で向かおうとした。

そこで気づいた、自分の席を知らないことに。


教室で座席表があるか探していると背後から、沙夜の明るい声が響いた。

「ほら、誠君、こっちこっち!」


座席がわからない僕は奥の席へと案内されるがままについていく。

その間も後期の視線は止むことはない。


僕の席は一番奥の一番後ろの席の一つ右隣だった。

そして、左隣が沙夜である


一番後ろの席に腰を下ろすと、沙夜がクルッと回って僕に笑顔を向けた。


「ようこそ学校へ!ようこそ2年4組へ!」


僕はその司会のような言葉に苦笑いする余裕もなく、ただ机に突っ伏したくなる衝動を必死にこらえた。

視線がまだ刺さっている。クラス中の誰もが、無言の「で、誰?」を飛ばしてきていた。

最後まで読んでくれてありがとうございました!

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