11ー2
「緊急招集の合図だ、行ってくる」
「オーランド、気をつけて」
「心配するな、無事帰ってくるさ」
そう言って俺の存在を忘れ抱き合う二人……
「ああ~、ゴッホン……俺も行こう」
「バン!?」
「あら、やだ!」
俺は、離れる気配が無い二人を見かねて、わざとらしく咳払いをし同行を願い出ると、ようやく俺の存在を思い出して恥ずかしそうに離れる二人。
なんかフラグっぽいことをオーランドが言ったからな。知り合ったばかりだが、流石に傍観者を決め込むつもりは無い。目の前で未亡人が生まれるのなんて見たくない。
「まぁ~その~なんだ。部外者だが手伝うことぐらいはできるだろうさ」
「正直助かる、ついてきてくれ」
「バンさんも、お気をつけて」
「ええ、微力ながら尽力させてもらいます」
ミランダの言葉に頷き、俺はオーランドと共に彼の家を後にした。
オーランドと共に家を飛び出し、足早に後をついていく。鐘の音は未だ止まず、里中に緊張が走っていた。ツリーハウスを結ぶ吊り橋や螺旋階段を、弓や槍を手にしたエルフたちが、忙しなく駆け下りている姿が見える。
そして俺達も里の広場へたどり着くと、十数人の武装したエルフ達が既に集結していた。
「遅いぞ、オーランド!」
「すまない、エルド」
「兄さん!」
「もう来ていたのか、スティーブ。客人を供応している最中だったのでな」
その中のひときわ体格の良い男性のエルフがオーランドを咎め、隣に立つ美青年も声を上げた。彼が弟なのだろう。
すると、体格の良い彼からの厳しい眼差しが俺へと向けられた。
「客人?……ヒューマンが!?」
エルドと呼ばれたエルフは、警戒と不信を露わに俺を一瞥した。他の戦士たちも同様に、弓や槍を手にしたまま、値踏みするように俺を見る。エルフの里でヒューマンは珍しいのだろう、その視線は居心地が悪かった。
「こいつはバン、旅の冒険者だ。アルビー様がお認めになった者でもある」
「アルビー様が?まさか……」
「バンだ、微力ながら手を貸そう」
「ふん……」
エルドは怪訝な顔を崩さないが、アルビー様の名前が出ると、皆がざわつき僅かに警戒を緩めた。流石アルビー様、ただの食いしん坊な白蛙ではないんだな。
恐らく、基本的にエルフ達はヒューマンを嫌っているのだろうが、いくらでも手が欲しい状況なのだろう。俺の申し出を断られる事はなかった。
「それで、何があった?」
「凶暴猿の群れが、また里の果樹園を狙ってきたらしい。報告では、前回よりも数が多い。早急に駆除する必要がある。御神木の結界もそう長くは持たない」
ワイルドエイプ(通称:凶暴猿)
森に巣食う猿の魔物だ。大柄で全身を硬い毛皮が覆い防護力も高く、その力は片手で鉄製の武器をも砕く。一匹だけなら俺でも問題なく討伐出来るが、奴らは群れで行動するから厄介だ。そして群れを率いるボスは凶暴猿へと進化し、その危険度は凶暴猿の数倍だ。
「わかった。バン、お前はどうする?奴らの相手はかなり危険だぞ」
「いまさら聞くな、オーランド。フラグをへし折りにやってきたんだ。今さら逃げるわけにはいかないさ」
「フラグ?」
「いや、こっちの話だ、気にするな」
「……わかった」
俺の言葉にオーランドは不思議そうに聞き返したものの、その後力強く頷いた。
「よし、奴らが里に来る前に皆で一気に叩くぞ」
「「「おおーーーー」」」
オーランドの声に集まっていた皆が武器を掲げ吠えた。
「……フン、アルビー様のお墨付きとはいえ、ヒューマンよ、参加するのは勝手だが、助けはせんぞ」
「自分の身ぐらい守ってみせるさ」
エルドは、釘を刺すように俺に言い放ち一団の先頭へ進み出ていった。
一団の後をついて果樹園へ向かう道中、弟のスティーブが手早く状況を説明してくれた。
「初めまして、バンさん。オーランドの弟のスティーブです。凶暴猿はここ数年、里の果樹園に味を占め、数ヶ月に一度襲ってくるようになりました。奴らは知能が高く、力任せに木を揺らし、実を落として食い荒らし持ち去っていきます。動きは素早く、体毛が硬く生半可な攻撃は当たりもしなければ効きもしないんです。でも、ボスを仕留めれば、群れは統制を失い逃げ出すはずです」
「わかった。俺は近接で前に出る。オーランド達は魔法と弓で援護してくれ」
「なら僕もバンさんと一緒に前に出ます、背中は任せてください」
そう言って、両腰の剣に手を当てるスティーブ。長剣と短剣の二刀流か。
「頼もしいな。しかし、エルフで剣士とは珍しいんじゃないか?」
「そうですね、みんな魔法と弓による遠距離攻撃が得意ですけど、僕は弓が苦手で……それよりもエルドさんのほうがもっと珍しいですよ」
そうスティーブに言われ、エルドを見ると背中に大斧が背負われている。俺の大剣よりも数倍大きく重厚だ。
「……たしかにな」
あの巨体で振われたらひとたまりもないだろう。
俺も、収納袋から相棒の大剣を取り出すと、その迫力に、エルフたちは息を呑んだ。
「バンさんの剣も凄いですね……」
「俺には無骨なこいつが丁度いいんでな」
里に来る時と同様に木々を飛び渡ってエルフの戦士達の後に続き、少し経つと、
「「「キキキーー」」」
甲高い鳴き声が聞こえ始めた。すると、
「バンはスティーブ達と一緒に前線で足止めを頼む。残りは両翼に展開し魔法と矢で確実に仕留めろ。それとボス猿へ突貫するエルドの援護だ」
オーランドの号令と共に、俺たちは果樹園へと降下する。
そこには既に荒らされ、熟れた果実や折れた枝も地面に散乱し、青々とした葉が舞い上がっている。そして、体高2メートルほどの猿の魔物、凶暴猿が十数匹、果実を拾って貪っていた。
「ギャギャギャ」
「グオオオオオーーー」
侵入者に気づいた猿どもが、威嚇の声を上げながらこちらを睨み、リーダー格と思われる一際大きな猿が、唸り声を上げながら、片腕で巨木の幹を叩くと簡単に折れ、それを掴むなりこちらへと投げてきた。
「いきますよ、バンさん」
「おう」
スティーブの合図に、俺は身体強化魔法を全身に纏い、皆の前に出て倒れてくる大木目掛け、大剣を横薙ぎに振るった。
「ハァッ!」
すると、右へと吹っ飛ぶ大木の裏に隠れ、既に凶暴猿数匹が迫ってきていた。
「しまった!」
渾身の力で大剣を振るった為、大きな隙が出来てしまい、反撃の態勢が取れない。
「ここは僕が」
そう言って、俺の前に出たスティーブは、双剣を自在に操り襲いかかる凶暴猿数匹を一瞬で切り裂いていく。俺の泥臭い剣術とは違い、まるで剣舞を見ているような鮮やかさだ。
「ありがとうスティーブ、助かった」
「次が来ますよ」
第一波をスティーブと共に切り裂いた後、少し下がり体勢を立て直す。
すると第二波の凶暴猿たちが躊躇なく仲間の死体を踏みつけながら迫ってきていた。しかし、
ーヒュン ヒュン ヒュン
「石弾」
「水刃」
無数の矢と魔法が俺達の後ろから、凶暴猿たちを迎撃し始め、放たれた矢は眉間へ、魔法は頭部や首へと当たり半数が一撃のもとに倒れ、猿どものこちらに迫る勢いは削がれる。すると、
「出るぞ」
そう言って猛スピードで、群れへ猛然と突っ込んでいくエルド。
大斧を振り回し、足の止まった凶暴猿達を薙ぎ払いながら突き進んでいく。
それは近くにいたら味方も巻き込むほどの圧倒的な力技だった。たしかに一人で突貫する訳だ。
そのままエルドを先頭に果樹園の奥へと突き進んでいると、
「グォォォォ」
「うぉぉぉぉ」
ーガーーーーン
突然頭上から数倍はでかい凶暴猿が現れ、エルドへと襲いかかった。
ボス猿の振り下ろされる両腕と、エルドの振り上げた大斧が衝突し、物凄い音が辺りに響く。その威力は拮抗し力比べとなるが、
「グァー」
「くっ!」
徐々にエルドが押し込まれ始める。エルフ達も猿達もその戦いに目を奪われる中、俺はエルドの真横へと近づき全力で大剣を振り抜いた。
「グォ!?」
ーガキーーーン
「硬っ!」
ボス猿の体毛の硬さが尋常じゃなく大剣の刃が欠ける。しかし俺の全力の一振りに、ボス猿の体勢が崩れた。すると、
「うおぉぉぉぉ」
エルドが吠えると、腕の血管が隆起し、はち切れんばかりに膨らんだ。そして渾身の力で大斧を振り上げる。
「ギャーーーー」
ボス猿の両腕を吹き飛ばす大斧。切断出来なかったがその威力で腕があらぬ方向に向いた。
折れているであろう腕の痛みに耐えられず、森の中にボス猿の絶叫がこだまする。
痛みに苦しみ悶える隙をつき、俺は片膝の裏へと大剣を振るった。
「グァァォ」
ーガクッ
切り飛ばす勢いで全力で振るったが、ボス猿の体毛の硬さと筋肉密度の高さにより切り裂くことは出来なかった。しかしダメージにより膝をつかせることが出来た。
「終わりだ」
「グァ……」
ボス猿の頭が下がり、エルドと視線が同じになったその時、大斧を天高く振りかぶりながら呟くエルド。
それを見て、初めて恐怖に怯えた表情を見せるボス猿。
ーザシュッ
そして、渾身の力で振り下ろされた大斧は、ボス猿の脳天に食い込んだ。頭から血を流し白目を向いて力無く倒れ込むボス猿。
「うぉぉぉぉ」
頭に食い込んだ大斧を引っこ抜き、天高く掲げ吠えるエルド。
それを見た周りにいる敵味方ともに驚きと恐怖で動きが止まる。
「今がチャンスだ、掃討しろ。ただし深追いはするなよ」
オーランドの指示で討伐隊は直ぐに我に返り、次々と猿達を屠っていく。
「はぁ はぁ はぁ……」
俺は魔力切れでその場で膝をついていたのだが、突然身体が軽くなった。
「ヒューマンのくせにやるな」
俺へと手をかざし魔力を注ぐエルドが口を開きそう言った。
「悪かった、一騎打ちの邪魔したな」
「魔物と誇りある決闘などするか!その……助かった……」
周りが戦闘で騒がしい中、俺が謝罪をすると、エルドから礼を言われ驚いていた。
そして手を差し出されたので掴まり軽々と引き起こされる。
「さっさとともに掃討するぞ」
「ああ、そうだな」
俺はエルドの隣に立ち、統率が無くなった猿どもを蹴散らしていった。
全部が片付き果樹園を後にする頃には、既に日は沈み夜の帳が下りていた。
「バン、おつかれ様。助太刀感謝するよ」
オーランドが一人一人に皆へと労いの言葉をかけ終わると、俺の横へと来た。
「まぁ、成り行きだ。それよりも腹が減った、お預けだったあの巨大ナマズを早く食べたいよ」
「大丈夫だ、ミランダが調理してくれているさ」
「本当か!?」
オーランドの言葉に討伐の疲れが一気に吹き飛び、喉の渇きは口の中に溢れ出たヨダレが癒してくれた。




