表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMO殺人指南書  作者: 幽々
東部革命編
30/31

Episode29

ゲームは始まる。


本当の姿と、本当の世界となって。




拝啓、神楽様。


この度は、突然の文通失礼致します。 当方は『拳聖五条』というギルドのマスターをしております『キレーヌ』と申します。


差し当たりまして、神楽様にお願いしたいことがあり、文通を出させて頂きました。 当方は主に東部、ガーラ地方で活動している狩りギルドなのですが、最近その狩りを妨害するギルドが現れたのです。 彼らはPKは行わず、ただただ狩りの妨害をするのみです。 わたしたちだけではなく、少人数の狩りギルドは軒並み被害にあっており、かと言ってチケットを所持しないわたしたちにはどうしようもない状態が続いております。


そこで、彼らをどうか、排除して頂けないでしょうか? もちろん、報酬はご用意しております。


神楽のメンバー様一人当たり三十万ルピル、それがわたしたちが用意した報酬です。 先の件、どうか宜しくお願い致します。




「破り捨てろ。 アホらしい」


中部の都市、セントラル。 そこにある馴染みの居酒屋に居た俺は、たった今ティアレットが読み上げた手紙に反吐が出る思いだった。 ただの狩りギルドが、何を思って俺たちを使おうとしている。 舐めた真似をしてくれる。


「分かった」


ティアレットは言い、その紙に手をかける。 が……いや……待て。


「待て、ティア……とりあえず、あれだよあれ。 万が一のことがあるかもしれねーから、一応取っておこう。 な?」


「言ってることが違う」


「違わない、違わないぞ。 つーかガキが口答えすんな」


……三十万か。 三十万。 生活が一気に楽になるな。 それに、指示された奴を殺せばその分の金も入る。 今は主に四人パーティだから、一人殺れば二万五千円か。 少しばかり少ないが、いっそのことこの依頼主も殺してしまうというのはどうだろう。 かなり良い案だと思うな。


「まーたティアちゃんいじめてるの? シンヤってほんと大人げないよね。 ロイフもそう思うでしょ?」


「ああ、同感だな。 第一、金に目が眩んで五秒前のセリフを撤回している時点で、大人げないに加えて男らしくないも同時に得ている」


ティアレットのことを可愛がるのはランカ。 ティアレットがギルドに来てから二ヶ月記念ということで、今日は喫茶店でのパーティーだ。 出資はギルド運営資金から。 その管理もローレイフがやっているんだけどな。


つーかだな、加入二ヶ月記念とか絶対やらねーだろ普通。 ランカの奴、絶対に何か食いたいだけだ。 リアルでもRMT内でも食い意地張ってるからな。 あのラーメンの恨みはいつか晴らしてやる。


「お前ら黙れ。 それにさ、ランカもロイフも言うけど、東部にはどの道行く予定だろ? ならついでに引き受けたって良いじゃねーか。 最終的には全員殺るとして」


「ボクもそれで良いと思う。 PKできればそれで良いや」


さすがはティアレット、とことん気が合うな。 仲間に引き入れたのは正解だ。 PKに対する思想も、目標としていることも、こいつは俺と非常に似ている。


「ま、私も実はさんせー! PKできるなら言うことなしじゃない?」


ランカは言うと、並んで座っていた俺とティアレットの首に腕を回す。 その所為で椅子から落ちそうになるものの、なんとかそれに抵抗し、堪える。


「いてて……いてぇって!」


そう、痛い。 痛覚が存在している。 つまり、ここはゲーム内ではなく現実世界だ。 ならばどうしてティアレットやローレイフまで居るのかという話だが……。


ランカがほぼ無理矢理に、俺たち全員で開催するオフ会を提案したのだ。 ティアレットを生で見たいという欲求が半分以上を占めていそうだったけれど、結果的にはこうして開催されているというわけである。


場所はローレイフの喫茶店。 どうやら夜はバーで、昼は喫茶店としてやっているようだ。 とは言っても、主に活動するのが夜の所為でほとんどは喫茶店だが。


ティアレットについては、事前に話を持って行ったらすぐに承諾してくれた。 そして、現実世界でのこいつはやっぱり笑わない。 友達という体で面会して、こうして病院から連れ出しているわけだが……医者から少しだけ聞いた話によると、最近だと大分良い方向へと向かっているとのことだ。


ま、そんなことはどうでも良いか。 要するにそういう経緯でこうして現実世界で会っているというわけだ。 ちなみに、ローレイフもティアレットもRMT内での容姿とそっくりだ。 ていうか、俺たちの現実世界での内訳が「引き篭もり」と「病人二人」と「喫茶店経営」ってすごい格差だな。 俺が最下層なのは言うまでもあるまい。


「とりあえずほら、そういう小難しーことはあとで考えるとして! ロイフ、そろそろ始まるでしょ?」


ランカの言葉を受けたローレイフは、店内にある巨大液晶に向けて電子パネルで操作をする。 すると、すぐさま画面には大きな文字が表示された。


ちなみに今日は大晦日。 店内は貸し切りで、俺たちは思う存分RMTについて語っていたというわけだ。 とは言っても、無理矢理連れ出された俺は帰りたくて帰りたくて仕方ねーけど。


そして、大晦日ということはあれだ。 ランカがいつか言っていた、年末の特別放送が行われる日。 だからこうして、全員で集まっていると言っても過言ではない。


思いながら全員の姿を見回すと、それら全てが既に画面へと顔を向けていた。 考えることは同じで、全員がRMTというVRMMOに吸い寄せられている。 俺の中でこれは、異常ではなく普通のことだ。


『ザッツ・ライ! RealMoneyTrade年末放送スッタァアアト!!』


元気の良い男の声が響き、画面が移り変わった。 最初に映し出されたのは、こういう番組系の放送で良く使われるスタジオだ。 とは言っても、そこに映る人物は全てがゲーム内のキャラクターで、その全てが一般プレイヤー。 ザッツ・ライ運営関係者は一切の露出はせず、言ってしまえば個人での放送みたいなもの。


それでもこれだけの注目度を浴びるというのには理由がある。 どこまでの情報を流して良いか、というのが事前に通達される仕組みだ。 その内容は公式ページにも軽く掲載され、その内容と逸脱するようなことは話さないことが義務付けられる。 言わば、依頼を受けての放送だ。 極端に閉鎖的な運営というのもまた、俺が引っかかる部分でもある。


『いやぁ、今年ももう終わりですね、一年はあっという間あっという間。 ナナちゃんはこの一年どうだった?』


最初に口を開いたのは、男のキャラクター。 名前は『什伍(じゅうご)』で、レベルも大したことはないが、こういった放送番組では殆どの場合で司会を担当しているプレイヤーだ。


『わたしですかぁ? わたしはぁ……うーん……眠いなぁ』


マイペースと語尾を伸ばす喋り方をするのが、什伍に呼ばれたナナちゃんというキャラクター。 この人は『お昼下がりのアンニュイ』でメインキャスターをしている人だ。 ハイテンションとローテンションな二人の組み合わせは、かなり独特な雰囲気を醸し出している。


『あっはっは! それ答えになってないからね。 んじゃまぁ、そういうわけで年末放送スタート! まず最初に触れる話題と言えば……やっぱり、この前行われた『ノーラム攻城戦』かな! かなりの大規模戦になると予想されていたけど、蓋を開けてみれば静かな戦いだったね?』


『ですねぇ。 そこはさすがのグラグルトさんでしたよぉ。 圧倒的だったのはドラゴンの存在ですかねぇ』


画面が放送会場から移り変わり、恐らくは攻城戦時の録画映像へと切り替わった。 そこに映し出されたのは、城の周囲を飛び回る三匹のドラゴンだ。


「ん……ロイフ、この放送って録画してるか?」


「ああ、しているがどうかしたか?」


「いや、ちょっとな」


録画してあるなら、後で見返すとしよう。 少し、気になるものがあった。


『これ、録画映像なんだけどやっぱすごい迫力だね。 これを見たら、城を落とそうって思いも消えちゃうかも。 というか、こうしてドラゴンの映像が公開されるのも初かな?』


『初ですねぇ。 記録によればドラゴンが同時に複数匹確認されたのもこれが初ですよぉ。 一体グラグルトさんはどこで捕獲したんですかねぇ。 わたしも欲しいなぁ』


『さぁ? それはやっぱ、グラグルトさんに直接聞いてみるのが一番かもね。 もちろん、タダってわけにはいかないだろうけど』


什伍は言いながら、手で金のマークを作る。 こういう小さな仕草が好まれ、同時に注目を集め、そして良い具合に情報を発信できるのだ。 それが人気を集める切っ掛けともなり、人を惹きつける人間ってのはこういう奴のことだな。


『まぁー、攻城戦についてはその辺ですかねぇ。 西部のサリュローザは『騎士兵団』が、東部のガーラは『サイレントエイク』が、南部のイロニアは『眠り猫』が抑えているのは相変わらずですしぃ』


『んだね。 全部が全部かなりの大規模ギルドだけど、ずば抜けているのは『グラグルト』だね。 他の城にも攻め入ってくる可能性もあるし、活発化に期待ってところだ。 他の戦争ギルドに取っては堪らないことかもしれないけどね。 それじゃあ次の話題、行ってみようか!』


什伍の言葉と同時に、画面が再度移り変わる。 表示されたのは『RealMoneyTrade アイテム数調査』との文字。


『ハイ! というわけでこれが一番気になって見てくれている人も居るんじゃないかな? ワールドに存在するアイテム数の発表だね』


『私としては気になるのは『チケット』ですかねぇ。 この前のほら……あれもありましたしぃ』


言っているのはランカが出演したときのことだな。 思い、ランカに視線を向けるとランカは「あはは」と笑い、頬を掻いていた。


……ほんっと、トラブルメーカーだ、うちの。


『あーあれね! 僕も放送見てたけど、随分ぶっ飛んでた人だったよ、はっはっは! まぁそれはともかくとして、順番に発表していこうか! 今回発表するレアアイテムは、五種類だよ!』


そうして、什伍の口からアイテム名、そしてその存在する数が発表される。 聞くのも初めてなレアアイテムは存在すらせず、稀に聞くようなアイテムは意外にも結構な数が存在していた。 若干危惧していた俺が持つクリスのオプションについては、公表されることはなかった。


『じゃあ最後にお待ち兼ね! これはもう、そっち側のプレイヤーもそっち側じゃないプレイヤーも気になるアイテムだね。 限定解除権、通称『チケット』とも『殺人許可証』とも言われるそれだ!』


什伍の言葉と同時に画面が切り替わる。 そして、チケットの総数が表示された。


「八枚。 予想以上に多いな」


現在、ワールドに存在する数が八枚か。 その内訳は、どうなっている?


俺たち神楽、咲う名無しの会(ノーネーム)、ハーメルンの殺人鬼、ガーラの里、これらが所持しているのは確定だ。 そして、前回の攻城戦時にグラグルトから攻撃があったことを考えると、グラグルトも既に所持している可能性が高い。 となると、残るは三枚だ。 一般プレイヤーが万が一それをドロップし、持っていたとしても売りに出すのが普通。 なのに現時点での売りはゼロ。 つまり、一般プレイヤーじゃない奴らが持っていることになる。


「セブンズ」


「セブンズ? ティア、それはなんだ?」


俺が考えているのを察したのか、ティアレットが口を開く。 そのティアレットに俺が尋ねると、ティアレットはすぐさま口を開いて答えた。


「ギルドだよ。 七人のPKKギルド。 プレイヤーキラー専門のプレイヤーキラー、たまにある話でしょ?」


「そいつらが持ってるってことか。 さすが、歩き回ってた奴は詳しいな」


「引き篭もりじゃないから」


そうして、その要らない前置きをしてからティアレットは言う。 セブンズは七人のプレイヤーからなるPKKギルド、内訳は全種のクラスが一人ずつ。 一般的なPKは全く行わず、するのはプレイヤーキラーを対象としたPK行為のみ。


そして、そいつらには特徴が一つある。


「ロイフ、今すぐ画面を切り替えてくれ。 さっき録画してるって言ったよな? ノーラム城の映像を映してたときのものに切り替えてくれ」


「ん、分かった」


「え、ちょっと待ってよ! 今からほら、塔の情報! 私これが楽しみで今日来たんだけど!!」


……面倒くさい奴だなこいつ。 ワガママも限度を過ぎると可愛気皆無だ。 殴りてぇ。


「分かった分かった。 携帯端末で良いや、ロイフ」


「良い親になれそうだな、シンヤ」


こいつもついでに殴ってやろうか。 なんて思うものの、多分リアルじゃ絶対勝てない。 クソ、RMT内ならボコせるのに。 早くRMTやりてぇなおい。


結果、その携帯端末を見るのは俺、ローレイフ、ティアレットの三人。 ランカは結局、どうでも良い塔の情報を紹介している番組に釘付けだ。


「ここだ、止めてくれ」


俺がローレイフに言うと、すぐさまローレイフは流れる録画映像を停止させる。 画面に映っているのは、巨大な城と三匹のドラゴン。 そして、その画面の右下だ。


「こいつだ。 ドラゴンを使役していた最後の一人。 ティアレット、どうだ?」


「……間違いない、セブンズだね」


やっぱり、か。 ティアレットが言っていた特徴の一つが、このプレイヤーは合致する。 何かが欠けているという曖昧とも言える特徴。 だが、こうして見ると分かりやすいほどの特徴だ。


そのプレイヤーには、左腕が存在しないのだから。


「やはりつうか、龍騎士だな。 プレイヤー名が見えないのがあれだけど、容姿は確かに特徴的だ」


これもまた頭に入れて置かなければならないだろう。 左腕のない龍騎士、セブンズ。


「ティア、他に分かる奴っているか? 特徴とか」


「シンヤ! シンヤ大変だっ!!」


と、ティアレットに追加の情報を求めようとしたそのとき、ランカが飛びかかるように話しかけてくる。 鬱陶しいと思いながらも、俺は渋々ランカの方へと顔を向けた。 どうせ、新しいモンスターが強そうとかそんなところだろうと思って。


「なんだようっせえな……。 今、わりと大事な話をしてんだからな」


「そんなのよりだよっ! 見て! 見てあれ!!」


「塔の情報とかどうでも良いんだって……」


「それはもう終わった! 良いからほら見る! 早くッ!」


その言葉に、俺たち三人はランカが先ほどまで必死に見入っていた放送番組へと目を向ける。 すると、画面にはこう表示されていた。


『元旦アップデート『限定解除権』に対する仕様変更』


「は? 仕様変更だと?」


真っ先に思ったのは、マズイということだ。 効果が薄まるか、報酬が減るか、それとも何らかの制限が付くか。 最悪、ただの紙屑になってもおかしくはない。 この『チケット』は正直、ゲーム内バランスを崩していると言っても良い物だ。


『いやぁ、内容が気になるねこれは。 とは言っても、どうやら発表されるのは現時点で『チケット』を保有している人たちだけに……みたいだけど』


『気になりますねぇ。 もしも内容分かる人が居ましたらぁ、こっそりリークお願いしますねぇ。 報酬は什伍さんのポケットマネーから出ますのでぇ』


『あはは! 冗談キツイよそれ! 冗談……え、冗談だよね? ナナちゃん?』


「ランカ、メール来てるか?」


くだらないやり取りになった画面から目を外し、俺はランカに尋ねる。 それを聞いたランカはすぐさま端末を操作し、メールを開く動作を見せた。


「来てる。 限定解除権に対するご案内。 転送するね」


数秒後、俺とローレイフ、ティアレットのもとにそれが届く。 そして、俺はそのメールを開いた。




ザッツ・ライRMT運営部。


この度は弊社VRゲーム『RealMoneyTrade』をご利用頂きありがとうございます。


こちらのメールは『限定解除権』を所有しておられるギルドのギルドマスター、及び所有しているプレイヤーを対象に送られております。


年末放送での発表があった通り、一月一日に行われる臨時メンテナンスにて『限定解除権』の仕様変更を行います。 突然の仕様変更、並びに告知となりましたことをまず、お詫び申し上げます。


さて、本題の仕様変更ですが、効果自体は現在の物と変更はありません。 ただ一点のみの変更となりますので、ご安心ください。


通常『RealMoneyTrade』内は痛覚機能がかなりの制限をされていることはご存知かと思います。 そして、今回の仕様変更ではその痛覚機能についての変更となります。


現時点では百分の一に抑えられております痛覚ですが、仕様変更によりその機能が排除されます。 簡潔に申し上げてしまえば、現実世界と同等の痛覚への変更となります。


こちらの機能は『限定解除権』を持つプレイヤーが他プレイヤーを攻撃した場合、及び攻撃を受けたプレイヤーが反撃をした場合のみに発生致します。 よりリアルな世界への発展を求めた上での仕様変更となりますので、ご了承ください。


尚、プレイヤー様からの質問もあるとは存じ上げますので、アップデート以降、初回ログイン時にゲームマスターからの説明がございます。 それでは。


これからも、末永いご愛願を宜しくお願い致します。


ザッツ・ライRMT運営部。




これが、本当の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ