Episode28
喧騒が絶えないアルゴーラの居酒屋から抜け出した俺は、すぐそこにある段差へと腰をかける。 大人数で馬鹿騒ぎというのは、どうにも性に合わないな。
ティアレットは正式に、俺たち神楽の一員となった。 それについてはランカもローレイフも文句は言わず、むしろ歓迎している様子すらあった。 前衛が三人に後衛が一人。 そろそろヒーラーも欲しくなるな……。 全員がポーションがぶ飲みでやるのも悪くはないが、さすがに費用を考えるとその辺りも真面目に考えた方が良いかもしれない。 一度、資金繰りも考えなおさないとな。 俺やランカじゃとてもじゃないができないし、ティアレットもそういうのが得意だとは思えない。 ってわけで、ローレイフにでも押し付けるか。
……さて、次はどうするか。 高レベルの召喚士も仲間になったことだし、これならあいつらがまた目の前に現れても殺り合うことはできる。
「五人か」
ハーメルンの殺人鬼。 あいつらは一人のギルドマスターと五人の幹部で成り立っている。 そこを潰せば、自ずとあいつらも潰れる。 一番の目標はそれで変わりない。 しかし、障害がそれにはある。
超規模のギルド、グラグルトの存在だ。 あいつらは俺たち神楽を敵として認識しており、いずれはあそこともぶつかることになるだろう。 そして恐らくはグラグルトに肩入れをしているガーラの里とも、戦うことは避けられそうにない。 所謂、PKギルドの横暴を許せない狩りギルドとの抗争ってのは結局付き物だ。 まったく面倒だが、狙われるからには俺たちにもやり方というのはある。 グラグルトもいずれ、潰すことにはなる。
「厄介なのはドラゴンか」
そうなると、やはりドラゴンの存在は捨て置けない。 あの場で現れたのは、ランカの話を聞く限り全部で三匹、グラグルトが一匹、ガーラの里が一匹保有していると考えて良いはずだ。 そして気になるのは最後の所属不明のドラゴンと、それらドラゴンの規格外れの強さってところだな。
……俺が何度攻撃しても、あのドラゴンは堕ちなかった。 精々手を離させるだけで精一杯だったんだ。 それが、三匹。 どうにか対策も練らなければならない。 大きすぎる力は、俺たちの技量でどうにかなるとは思えない。
だが、最大の問題はそこではない。 あのドラゴンがNPCというその一点だ。 プログラムで構成されているそれは、人間以上に厄介としか言いようがない。 何も考えず、ただ構成されたプログラムの通り動くあいつらは、人間以上に苦手だ。
「……思い詰めた顔だな」
そんな俺の横に座り、話しかけてくる奴が居た。 咲う名無しの会、現ギルドマスターのクズレだ。
「うるさいのが苦手なのは一緒か」
「ああ……そのようだ……」
クズレは言うと、俺の隣に座る。 こうして、二人で話すというのは二回目か。 あのときはこんなことになるなんて、思いもしなかった。 俺としちゃ、ティアレットがこうして仲間に加わることになるなんて思いも寄らなかったな。
それはきっと、クズレも同じか。
「私は……これで良かったとは思えない……」
「だろうな。 ティアが選んだのは、復讐の道だ。 クズレとは正反対の道ってことになる」
「……分かっているさ……だから私はお前を好きにはなれないよ……」
そんなことは知ってるよ。 俺も、お前を好きにはなれない。 けど、それで良いんじゃねえのかな。 PKギルド同士、相容れる関係にはなりやしない。 全部を全部、受け入れなければならないなんてことも、きっとねえんだ。
「ま、俺は仲間は大切にする主義だ。 安心しろよロリコン」
「……」
俺の言葉に、クズレは俺の顔を見る。 笑う能面の顔で、見続ける。 言いようのない圧迫感を受けるなこれ……。
しっかし、召喚士か。 俺としては次は聖魔法師辺りを確保しておきたかったな。 だがまぁ、仲間が増えるのは悪いことではない。 ましてや、俺よりレベルがたけえ奴だ。 戦力としては申し分ないと言っても良い。
「……一人知っている」
「あ?」
クズレは俺の顔をしばらく見ていたと思ったら、唐突にそんなことを言った。 てっきり俺の顔に見惚れているのかとも思ったが、どうやらそれは違うようだ。
「ガーラ地方の最南端に……竜の跡地と呼ばれる洞窟があるのは知っているか……?」
「……聞いたことねえな」
そこに洞窟があること自体は知っていた。 だが、通常洞窟というのは地図には載らない物。 なのにそのガーラ地方にある洞窟だけは載っていたのだ。 俺はてっきり洞窟の形をした街なんだとも思っていたが、今のクズレが言った名称からして、それは違うようにも思える。
「私たちはこの世界を歩いて回っている……見つけたダンジョンは探索している……だが……あそこだけは踏み入れられなかった……」
「踏み入れられなかった? レベル制限でもあったのか?」
「いいや……」
クズレは能面の位置を直し、空を見上げて言った。
「踏み入ったら全員が殺されると確信したのだ……あの奥には何かが居る……」
何か、か。 そりゃまた随分面白そうで、楽しそうな話だ。 奥に居るのはなんなのか、クズレでさえも足を止めた洞窟の奥に、何があるのか。
「俺にそれを教えたってことは、行けってことだな。 そこにある何かが役に立つってことだ。 俺に取ってか、あんたに取ってかは知らねーけど」
「……私はティアレットのためにしか言わないよ」
それは今となっては、俺のためにもなる。 そんなこと、こいつは分かっているはずだ。 わっかりづれぇツンデレだな……。
「行ってみるよ。 どーせ、全部の地方は回ろうと思っていたしな。 中部で活動するのにも限界はある。 それに北部じゃもう活動しづらいからな」
「そうか……だが気を付けろ……ガーラの里の連中が居る可能性もある……」
「居たら殺す。 邪魔をするなら、殺すまでだ。 それが俺たちのやり方だろ? クズレ、あんたにもそれは分かるはずじゃねえか」
「……そうだな。 私たちは所詮……PKギルドだ……当然……だな」
その言葉を聞いて、俺は立ち上がる。 目的は定まった。 次の目的地は、俺とティアレットが一度飛ばされもした東部、ガーラ地方の最南端だ。 そこにある竜の跡地、何があるのか、何が起きているのか。 少しだけ、興味も湧いてきた。
「クズレ、次に会ったときはやり合おう。 結局、あんたとはやれなかったからな」
「……楽しみにしているよ」
プレイヤーキラー同士の別れは、初めてだった。 同じことをしている者でも、考え方は違う。 感じることも、それによって得る感情もまた違う。 たかがゲーム、たかが仮想空間における出会い。 だが、そんな小さなものの中に三千万を超える感情というのがあるのだ。 ひとつひとつが似ていても、ひとつひとつが限りなく近いものだったとしても、それは少し違えば他の感情だ。
「ちょ! ティアちゃんそれ僕が買った虹草スープだよ!?」
「んだよタラクモ! ケチくせーこと言ってんな! なぁアルメリー!」
「俺様も鳥獣肉食べられたし。 なのに文句言ってないし。 でもアルメリー泣きそう」
店の中の騒ぎは、外に居る俺とクズレの耳にも届いた。 俺とクズレの話とは到底関係なく、到底馬鹿げた言い合いだ。 そんな会話を耳に入れた俺とクズレは顔を見合わせる。
「くすくす。 おいしい」
俺はなんだか牙を抜かれたような顔をしていたと思う。 クズレの表情は能面で見えないが、多分一緒だったんじゃないだろうか。
「夜時間になるとさすがにさみいな。 中、入るか」
「……そうだな」
この世界でも、俺が生きるクソッタレな世界でも、本質は変わらない。 ネットゲームというのは昔から嗜んではいた物だが、こうまで人との関係、仲間との関係が重要になるのはVR系のゲームだけだろうな。
笑うことも、泣くことも、喜ぶことも、悲しむことも。 平等に与えられて然るべき。 それを出来なくなってしまうのは、少し理不尽で平等じゃあない。 もしかすると、俺がそういう理不尽なことを沢山経験してきたから、ティアレットを仲間にしたいと思ったのかね。 まー、そんな理由なんてどうだって良い。
「ティア、笑うと楽しいだろ?」
店内の隅っこで、騒がしい場所から少し離れて休憩しているティアレットを見つけ、俺は聞いてみた。 すると、ティアレットは俺に顔を向けて、言うのだった。
「ふふ。 うん、とても楽しい。 シンヤ、ありがとう」
悲しい過去なんてどーだって良い。 そんなくだらねえもんに拘るよりも、今を楽しく生きた方が何倍も幸せだ。 今を生きて、前へ進んでいる奴ってのは誰だって笑ってるんだ。 苦しくてもつらくても、どこかできっと笑ってる。
それこそ、花が咲うように。
「お礼なんて言うんじゃねーよ。 俺とティアの目的は一緒だろ? なら」
俺は言うと、ティアレットに拳を向ける。 ティアレットはそれを見て、自らの拳を俺へと向けた。
「よろしく、これから」
「ああ、よろしくな」
ティアレットが俺に向けた表情がどんなものだったかなんて、わざわざ言わなくても、もう分かるだろう。
俺とティアレットはこうして、仲間になった。 次の目的はクズレが言っていた洞窟ということにはなりそうだが、少し準備も必要か。
それに、もうすぐ一年も終わってしまう。 行くとしたら年明け一発目ってところかな。 それまでは少し、休むとしよう。 なんだかんだ言うものの、俺も少し疲れてしまったから。
「あ、そういえばさシンヤ! 年末にザッツ・ライがなんかいろいろやるみたいだよ? サーバー状況の発表だとかなんとか!」
「へえ。 まぁ目ぼしい情報なんてねーだろ」
「いやぁ、それがなんかさ、中部のでっかい塔あるでしょ? あれについて、何かしらあるみたい」
「塔? あーあれか。 どうせ高難易度のクエストかなんかだろ? あんま興味はねーな」
「どーだろー? ま、私は少し楽しみだ。 へへ」
「そうかよ。 詳しい日時分かったら教えてくれ、俺も一応目は通す」
「ほいほい、りょーかい」
そんなやり取りをしていたそのときは、まさかランカがあんなことを企んでいるとは思わなかったものである。
何はともあれ。
俺たち神楽の成り立ちは、こんなところだ。 今日は少し、休むとしよう。
以上で書き溜め分が終わりとなりますので、次回から数日に一度ペースの投稿となります。 ご了承ください。




