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VRMMO殺人指南書  作者: 幽々
ノーネーム編
27/31

Episode26

「さ、拷問たーいむ。 拍手拍手」


「ぱちぱちぱち」


俺が言うと、ティアレットが口で手を叩く音を発する。 そこはせめて手を本当に叩けと言いたいが、まぁ良いか。 どっちでも良いや。 そんなのは今、重要じゃないなぁ。


「……な、何をする気っすか」


宗馬(しゅうま)は俺とティアレットの目の前で座り込んでいる。 宗馬には既に麻痺効果が発動しており、自力では動けないだろう。 そしてそれが戦闘状態とプログラムを認識させているおかげで、操作によるログアウトも不可能だ。 タウン帰還をすれば平気だが、それは俺がさせない。


「ひとつめ。 お前らのギルド、ハーメルンに居る幹部の名前、クラスを教えてくーださい」


俺は言い、宗馬(しゅうま)の眼球から数ミリ離した位置で短剣を止める。 クリスほど威力がない、普通に店で買えるもっとも弱い短剣だ。 ()()()()()()のために買った物と言っても良い。 少しだけ宗馬のホログラムがラグったが、まだ大丈夫かな。 この精神状態の悪化によって起こる強制ログアウトだけは、正直クソ仕様だ。 いっそのこと、ログアウトできなくなってしまえば良いのに……。


「か、幹部っすか。 えっと、さっきのギニョールさんはとりあえず幹部っす……。 それ以外は、俺も知らないんすよ。 俺、本当に下っ端みたいなもんなんす! それでもギニョールさんは気に入ってくれていて……なのに裏切られたっす!」


「だって。 ティア、今のセーフ? アウト?」


「アウト」


「あは。 アウトだってよ、おら」


俺は言い、宗馬の眼に短剣を突き刺した。 まるで豆腐に包丁を刺したかのように、するりとそれは入り込む。 痛みは宗馬も感じていないだろう。 だが、恐ろしすぎるほどのリアルさと、目に感じるのは痛みではなくただの()()()だ。 それを延々と感じよう。 段々と、気持ち良くなるかもしれないからな。 あは。


「ひ、ひ……と、取って。 うっ」


宗馬は動揺し、体が先ほどよりも崩れる。 やってることのわりに精神がよえーな。 まぁまぁまぁ、まだ大丈夫だな。 余裕余裕。 それにこれだけで許してあげてるなんて、俺はなんて優しい奴なのだろうか。 自分の優しさに惚れちまいそうだ。 やろうと思えば、宗馬を()()()()()ことだってできてしまうのに。


「しっかり俺らが欲しい情報くれたらな。 はい次、ハーメルンのアジトはどこにある? 制限時間五秒な」


「な、南部っす! 南部のイロニア城直下の街、イシュテルって街っす!」


イシュテルと言えば、本当に城付属の街だったな……。 そこをアジトにしているってのはどういうことだ? 基本的に城を所有しているギルドの管轄内になるからそういうのは普通あまりしねーが……下手をしたら、城主ギルドと繋がりがあるってことか?


「だって。 ティア、今のは?」


「アウト」


「あーマジか。 おい宗馬くん、今のでアウトだってよ。 理不尽すぎてヤになっちゃうね。 あはは」


次に俺は、宗馬の右足の指を落とした。 指は飛び、データは消える。 痛くはない、そして見なくても済むから、さっきの眼よりはマシだろう。 足に気持ち悪さは感じるかもだけど。 そんなのには時期、慣れていく。 平気だよ。


「な、なんでっすか! どう答えれば良いんすか!?」


「知らねーよ。 俺が決めてるわけじゃねーし? 頑張ってセーフになれたら、その眼に刺さってるのも取ってあげるから。 な? 俺はお前の味方だよ」


「……は、はいっす」


なんて、優しい言葉をかけたら素直になった。 馬鹿だ馬鹿だ。 面白いくらいに馬鹿だ、こいつ。 思わず笑いそうになっちまう。 ああダメだ。 堪えないと。 はぁ。


さて、次だ。 次は、何を聞こうかな。 そう思考を巡らせたとき、ティアレットが口を開く。


「はい。 ボクも質問ある」


「お、良いね。 何聞くか迷ってたし、良いぞ」


ティアレットに俺が言うと、ティアレットはこくんと頷き、口を開く。


()()()、どうしてボクとクズレさんを騙したの」


「おいティア」


そんなの聞くだけ無駄だ。 そして、聞いて良い答えが得られるわけがない。 こいつらは、特に狂った集団だ。 プレイヤーキラーの中でもひとつ飛び抜けて頭のネジがぶっ飛んでる奴らだ。 だからそんなことは聞いたところで何も得られない。 達成感も、満足感も、得られない。


「あ、あれは……上からの指示で、アーベルトを使ってのいたずらだったんすよ! 本当なら、殺すことは考えてなくて!」


「くすくす」


宗馬の言葉に、ティアレットは笑う。 愉快そうに、笑った。 嘘だなんてことは俺でも分かる。 誰にでも分かる。 そんなことはティアレットにも分かっているはずだ。 だからこいつは、笑っている。


「くすくすくすくす」


笑いながら、眼に刺さっていた短剣をティアレットは抜いた。 そしてそれを再度刺した。 抜いて、刺す。 それをティアレットは繰り返す。 くすくすと笑いながら、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。


やる度に、声が漏れていた。 感じるのは、違和感だ。 気持ち悪いと言っている、やめてくれと言っている。 おいおい、そこでどうして俺を見る? 助けないよ、俺は。 だって、ティアレットの奴すっげえ楽しそうだもん。 そんなの止めたら、可哀想だろ? あはは。 俺も俺で楽しいんだから。


けどまぁ、そうだな。 そろそろヤバイか。


「ティア、その辺にしとけ。 切断されるぞ」


「ふふ、そうだね。 危ない」


誰がおかしいなんてことは分からない。 それを一面で決めることは不可能だ。 この宗馬という奴だって、あのギニョールという奴だって、俺もティアレットも、全員が狂っているかもしれないしそうでないかもしれない。 問題はそれを誰の視点から見るかってことだ。 世界に居るどんな奴でも、自分が主人公でしかない。 そんな主人公の視点から見たとき、きっと狂っている奴なんて存在しないんだ。 自分がいくら狂っていたとしても、自分の視点で見れば自分は正常だ。 おかしい奴は存在しない。


だから、この世界は平和だ。 狂った奴が誰一人として存在しないこの世界は、愛されている。 これ以上ないってくらいに、愛されている。


「う、ひっ……や、やめて。 やめてくだ、あい。 あ、あやまるから」


「謝る。 謝る、くすくす。 シンヤ、謝るって、なに?」


「さー、分からない。 多分だけどさ、あれじゃね? 殺してくれってやつ」


「そうなの? 殺して欲しいの?」


ティアレットは笑う能面を付けた顔を宗馬へと近づける。 そして、宗馬の眼を触る。


「や、やめ……やめて、やめてやめてやめて」


「ん、ティア。 ストップストップ。 俺もまだ聞きたいことあるの思い出したんだよ」


宗馬の体が崩れたのを見て、俺はティアレットにそれを止めさせる。 ティアレットは意外にも素直にそれを止めると、一歩後ろへと引いた。


「なぁ、宗馬くん。 この質問に良い答えができたら、見逃してやろう。 良いか?」


「は……はい。 おね、おねが、いします」


「よーし、じゃあ質問だ」


俺は言い、指を一本立てて宗馬の前へとやる。 そして、問う。


「PKは好きか?」


「……もう」


さぁ、なんて答えるのか教えてくれ。 俺はその答えが聞きたい。 お前が好きで好きで堪らなかったPKを今どう思っているか、聞かせてくれ。 お前の声で、お前の顔で、俺に教えろ。


「もう、いや、だ。 もう、もうもうもう沢山だッ!! 俺は、俺は……」


「ああ、そうか」


俺は立ち上がり、宗馬に解毒ポーションを飲ませる。 宗馬はそれで、自由を取り戻した。


「あ、あ……りがとう。 ありがとう! ありがとうございます! この恩は、絶対に」


「ティア、一応はティアの仇でもある。 ティアが好きなように、殺しちまえ」


「くすくす。 やった」


俺は言い、ティアレットとそのバトンを交換する。 ティアレットは嬉しそうに、楽しそうにぴょこぴょこと飛ぶように宗馬のもとへ歩いて行った。


「そん、な」


「おもちゃ。 ボクのオモチャだ。 クズレさん、ボクやったよ。 やっと、やった。 殺れるんだ」


そして、ティアレットは地面に手を置いた。 直後、宗馬の足元に影が現れる。 真っ黒な、黒よりも黒い闇が現れた。


それを見て、俺は理解した。 最初に俺がギニョールと相見えたとき、ティアレットが何を出そうとしていたのかを。


間違いねぇ。 これだ。 この得体の知れない闇をティアレットは出そうとしていたのだ。 俺が知らない、サモンスキル。 だが、それには圧倒的にオカシイ何かを感じた。 このスキルは普通じゃない。 それも――――――俺のクリスのオプションと同じ程度に。


「ひっ――――」


宗馬は一瞬にして、その闇に飲まれる。 とぷんという音と共に、ティアレットの笑い声と共に。


『お知らせです。 ガーラ亡樹林にてプレイヤーキルが発生致しました。 プレイヤー「ティアレット」がプレイヤー「宗馬」を殺害しました』


「ふふ、ふふふふふ。 あははは。 あっはっはっは!」


こうして、ひとつの復讐は幕を閉じる。 そして、それは続いていく。 復讐に終わりはない。 殺して殺して殺して、そして殺しきるまで、終わらない。


俺がしたこと、ティアレットがしたこと、そして宗馬がしたこと。 どれが正しいのか、どれが間違っているのか、どれが狂ってどれが狂っていないのか。 そんなのは、自分で決めることでしかない。 自分が進んだ道こそが絶対に正しく、絶対に正常で、絶対に誰にも口を挟まれることではない。


「ティア、行くぞ」


「うん。 良い旅だ。 楽しい嬉しい旅だ」


「そりゃ、良かった」


俺も笑い、ティアレットも笑う。 ああ、こんなに幸せなハッピーエンドは他にない。 誰かのバッドエンドは、俺のハッピーエンドでしかない。 そしてそれが、世界の在り方だ。 俺が生きる、ティアレットが生きる、世界の在り方だ。


もしも文句を言う奴が居たら殺そう。


もしも止めようとする奴が居たら殺そう。


もしも反抗する奴が居たら殺そう。


もしも騙そうとする奴が居たら殺そう。


もしも裏切ろうとする奴が居たら殺そう。


「シンヤ」


「ん? どうした」


「PKって楽しいね。 最高に」


「だろ? 止められねえよな。 あはは」


「うん、止められないよ。 くすくす」


そうやって、全部を殺そう。 俺のやり方で、俺たちのやり方で。 それはきっと、幸せなことだ。


俺はそのまま、ティアレットと並んで歩き出す。 ある奴は狂っているというかもしれない。 ある奴はおかしいと言うかもしれない。 ある奴はもう止めろと言うかもしれない。


でも、俺はティアレットと過ごした少しの時間は、正しいものであったと信じたい。

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