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VRMMO殺人指南書  作者: 幽々
ノーネーム編
22/31

Episode21

節々に感じる違和感から俺は目を覚ます。 一定量のダメージと、一定量の衝撃を負うことで発生する気絶状態から解放され、目を開けた。


「……災難だね」


一番最初に聞こえたのは、その呟きだった。 俺はそれを聞き、その人物へと視線を向ける。 すると、そこに居たのは笑う能面を付けた少女、ティアレットだ。


「お前……ティアレット? あれ、俺は」


思い出した。 俺はドラゴンの尾を掴み、そしてクリスをこれでもかというほど刺したんだ。 で、ようやくドラゴンがティアレットを放したのは飛行を続けること数十分が経ったときだった。 そっから結構な高さから俺たちは落ちて……この場所ってことか。


辺りを見回すと、あるのは大きな湖だ。 それを囲うように、森が広がっている。 その湖のほとりに俺とティアレットは居た。


「ねえ、どうしてボクを助けたの?」


ティアレットは仰向けに倒れる俺の顔を覗き込み、言う。 その顔からはやはり、感情がまったく読み取れない。 その声からもまた、読み取れない。 更に加えて、未だにこいつの素顔を見れたことがない。 無理矢理剥ぎ取ってやろうとも思うが、今はそんなことをしている場合じゃねーな、さすがに。


「あ? 助けた? なに勘違いしてんだ殺すぞお前」


「ボクの代わりに地面に衝突したのに?」


「たまたまだ。 お前をクッションにしようと思ってトチっただけだ」


俺が言うと、ティアレットは「そっか」と言い、俺から視線を逸らした。 見ているのは、辺りの光景だろうか? あれ、そういや。


「おい、ここは?」


「ん、多分東部。 ガーラ地方」


……東部? ガーラ地方? おいおい、ってことはなんだ……俺たちは北部から東部まで飛ばされたってわけか?


「……最悪だ。 最悪だ最悪だ最悪だ! お前、どうするつもりだよ!?」


言いながら体を起こすと、ティアレットは同時に立ち上がる。 つうか、東部って……また随分すげえ距離移動しちまったなおい。 これからどうするんだ。


「ボクに言われても。 タイミングが悪かったのはボクの所為じゃない」


そんなことを無感情でティアレットは言ったあと、俺の横で詠唱を始める。


「サモン・ビースト」


そう唱え、ティアレットは地面に手を付いた。 すると、目の前にユニコーンが現れる。 なんとなく感じては居たが……こいつ、サモンスキルに随分とポイントを割いてるな。 幻獣クラスを召喚できるってことは、クズレが言っていた「見たことがない死神のようなモンスター」を召喚できたのも納得が行く。


そのモンスターは恐らく、デスサイズと呼ばれる奴だ。 フィールドにランダムで出現するボスで、夜時間にしかポップしないボス。 出現確率自体が低く、俺も一度見たことがある程度のモンスター。 あれも一応は幻獣クラス、そして能力値はかなり高い。


そいつの召喚にもかなりのスキルを振らなければならないと聞くが……問題は、ティアレットがそいつを召喚したのが昔の話ということだ。


「それじゃあ、またいつか」


「ん……?」


ティアレットは言うと、そのユニコーンに飛び乗る。 そして、走り出した。 その姿はまるで白馬の王子様……ん?


あれ、ちょっと待て。 あいつ、まさか俺を置いて一人で帰ったのか。 仮にも俺が下敷きになっていなければ即死だったというのに、その俺を置いて。


「ちょっと待てコラぁ!! お前さすがにそれは薄情すぎんだろッ!?」


慌てて追いかけ、そのユニコーンに追い付いたのは数分後だった。




「すごいね、ユニコーンに追い付くなんて」


「あ、あのな……てめぇ、マジで、殺すぞ!?」


「ボクの方が強いよ。 けど、面白そう。 ねぇ、クズレさんのところへ帰るまで一緒に行動しない?」


こいつ……とことん自分のペースで話を進めやがるな。 俺の意見なんて、聞いている様子が皆無だ。 面白そうと言うわりには心底無感情だし……もっと楽しくしろよこいつ、その能面カチ割るぞ。


「一緒に行動か、良いぜ。 ただし条件がある」


ティアレットの伸ばした手を払い、俺は指を一本立てる。 そしてその条件を提示した。 これが、俺がその提案を飲む最低条件。 絶対に譲れないただひとつの条件だ。


「お願いしますシンヤ様って、地面に頭を擦り付けろ。 したら、考えてやる」


「契約成立だね。 何か良い匂いがする」


おいそんなあからさまに無視するなよ。 一応今の、四割は冗談だったからな。 六割は本気だったが。 つーか、勝手に成立させてんじゃねぇ。 契約内容しっかり見ろよ。 あとで後悔してもしらねーぞ、このガキ。


「美味しそうな匂い」


しかし、俺が睨むもティアレットは続ける。 俺も言われるがままに鼻を利かせると、確かに……ティアレットの言う通り、良い匂いがしていた。


「ん、本当だ。 どっかで食べ物でも作ってるんじゃねーの?」


このガーラ地方は、緑が多い地帯となっている。 川と湖、そして洞窟に森。 そんな自然溢れるているのが、このガーラ地方だ。 そのおかげもあってか、集落のような村が多く存在している。 リアルで表すと、田舎って感じの地域だ。


そしてガーラ地方を北上していくと精霊が住まうという森もあり、そういう系のクエストもあると聞いている。 レベル上げには持ってこいの地方ではあるが……ついでにそれらをやって行こうって気分でもねーな。


「あっち。 行ってみよう」


「は、おい。 んな寄り道してる場合じゃ……」


「別に来ないなら良いよ。 頑張って歩いて」


こんのクソガキ……自分が足を持っているからって良い気になりやがって……これだからガキは嫌いだ。 ウザい、生意気、鬱陶しいの三拍子だ。 人間アレルギーの俺だが、一番嫌いなのはやっぱりガキだな。 もっと嫌いなのは俺の命令に従わないクソガキだ。


「それ終わったらさっさと戻るぞ。 こっちは生活かかってるんだ」


「生活? もしかして君、RMT生活者?」


「まーな」


RMTの収入だけで暮らす奴のことを一部ではそう呼ぶらしい。 呼び方なんてどうでも良いが。 今ではそんな奴らも珍しくなく、RMT内にも数万人という数が居る。


「……ああ、それと俺はシンヤだ。 君とか呼ぶんじゃねーよ」


「分かった。 シンヤ」


ティアレットは手で能面のズレを直し、歩き出す。 言葉遣いも仕草も、どこかクズレに似通っていた。




「これだ」


「ん? なんだこれ」


そこから少々歩いた俺たちが着いたのは、小さな街だった。 森に囲まれひっそりとあった村は、ガーリアンという立て札が設置されている。 地図にはない村……だな。 ってことは、規模はあまり大きくなく、重要クエストも存在しないか。 所謂滅多に人が訪れない過疎地域ってことになるな。


「お菓子。 サリュローザにもあった」


「サリュローザに? へえ。 そういやお前、元はサリュローザだったか」


何やらチョコレートのような物を手に取り見ているティアレットに俺が言うと、ティアレットは俺にその能面を向けた。 クズレ同様、妙な威圧感を受けるな。


「……お前。 ボクはティアレット」


「うるせ。 なんだって良いだろ」


首を傾げて言うティアレットに、俺は言い放つ。 するとティアレットはもう諦めたのか、そのお菓子とやらをひとつ手に取った。


「お前、このお菓子は食べたことある?」


「おい、シンヤだって言ったろ」


「お前、そういえばボクがサリュローザで活動してたのをどうして知ってるの?」


「だから……! ああクソが。 俺が悪かった。 ティアレット」


こいつ、諦めてなんかいなかった。 そして俺が名前を呼んだことに満足したのか、立ち上がって腕を伸ばして来た。


「ティアで良い。 シンヤ」


「……はいはい分かったよティア。 で、さっきの質問だな」


俺はその伸ばされた腕を軽く払う。 ティアレットはそれを受けて、もう握手は諦めたようだった。


「さっきの? ああ、サリュローザの」


ティアレットの言葉に俺は頷き、そして言う。 クズレには口止めされてねーし、もしもされていたとして、俺にそれを守る義理もない。 あいつが勝手に話したことだ。


「クズレから聞いたんだ。 ティアとクズレのこと。 元は狩りギルドに居たこともな」


「……そう。 クズレが。 ならボクも手伝わないとね」


「なら? どういう意味だ?」


「なんでもない。 シンヤ、ごちそうさま」


ティアレットは言い、俺に頭を下げる。 なんのことだと聞こうとたそのとき、横から声がかかった。


『お買い上げありがとうございます。 お代をお願いします』


……このNPC、なぜ俺に金をもとめやがる。 ダメだ……頭が痛くなってきた。 俺が知り合ったり会話をする奴って、どうしてこうもろくでもない奴ばかりなのだろうか。


「ティア、ちょっと待てって。 俺、時間的にもそろそろ落ちねーとだ。 だいぶ長いことログインしてたしな」


仕方なく俺は代金をNPCに払い、背中を向けるティアレットに言う。 ティアレットはそれを聞き、振り向いてしばらく俺のことを睨みつけたあと、口を開いた。


「そう。 分かった」


「……俺は一人で戻るから、先行ってろ。 二人乗りのサモンだと足おせえのしかないだろ? お前が戻らねえとランカもロイフも動けないだろうし」


「うん」


俺はそれを聞き、ログアウトパネルを開く。 リアルの方でランカとは連絡が取れるから……それをしたかったってのが本音だ。 RMTではある程度の距離までは念波という形で連絡は取れるが、それが離れすぎると連絡手段は手紙のみとなる。 その手紙というのも届くまで一時間ほどはかかるので、それならばリアルで連絡を取った方が早い。


リアリティを演出されるのは良いことだけど、もう少し連絡手段が便利にならないものかね。


「もう寄り道すんじゃねーぞ。 奢ってやれないからな」


「……」


返事なし。 やっぱりガキは嫌いだ。


そんなことを思いながら、俺はログアウトボタンを押すのだった。

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