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VRMMO殺人指南書  作者: 幽々
ノーネーム編
21/31

Episode20

咲う名無しの会(ノーネーム)。 そしてクズレとティアレットが経験したことは、俺が経験したことと似ていた。 狩りギルドで、それを内部から崩すように壊していく。 俺はそのやり方をする奴らを知っている。 身を持って、知っているんだ。


「クズレ、さっき気が変わったつったな? タイミングが良いことに俺も気が変わった。 それをやった連中は……ハーメルンの連中だ。 間違いねえ」


「知ってるのかい……彼らを……」


「昔、ちょっとな」


俺が所属していたギルドも、そいつらによって壊され、殺された。 あのときに居た男……一人だけ、名前を確認できた奴がいる。 ビスクという名前の男だ。 馬鹿でかい剣を持った、騎士だったことだけは覚えている。 あのときはあいつが……俺を除く全員を殺りやがった。


「ビスクって奴、知ってるか? クラスは騎士の男だ」


もしかしたらクズレならば、そいつを知っているかもしれない。 そう思い、俺は聞いた。 が、クズレは首を振る。


「そいつは知らないな……だが……傀儡という奴ならば知っている……」


……傀儡? 聞いたことがない名前だな。 もしや、クズレたちのギルドを壊したのもそいつが主犯か?


「幹部か何かか? そいつは」


「いいや……そいつがハーメルンのマスターだ……彼らの目的は殺すことじゃなくて……壊すこと」


ハーメルンのマスターだと……? そいつは初耳だな。 構成も何も知らない俺からしたら、ありがたい情報だ。


しっかし、壊すこと……ね。 知ってるさ、んなことは。 そのやり方が俺は気に食わねえんだ。 真正面から殺しにかかるのではなく、ある意味で違うものを殺しに行くそのやり方が。 周りの奴らは同じだと言うかもしれねーけど、俺はそのやり方が気に入らない。 反吐が出るほどに殺したくなってくる。


「傀儡……。 クラスは? どんな見た目だ?」


俺が尋ねると、クズレは俺の顔に能面を向けた。 何を考えているか、どんな表情をしているかを隠すそれだ。


「クラスは分からないな……見た目と言えば……幹部には共通していることはある……笛を吹く骸骨……それが体に刻まれている……」


「笛を吹く骸骨か……」


……ビスクは、どうだったか。 あいつの体にもそのマークはあったか……?


いや……駄目だな。 思いだせねえ。


そして、その思考を遮るようにクズレは言う。 クズレが知るハーメルンの殺人鬼の情報を余すことなく。 それがどんな思いで紡がれている言葉なのかは、分からない。


「ハーメルンは……一人のマスターと五人の幹部から成り立っている組織だ……。 ギルドメンバーは多数居るが……取り仕切っているのはそいつらだ……」


「つまり、上をぶっ殺せば良いってわけだな。 要するに、その笛を吹く骸骨のマークがある奴を殺せば良い」


「……ああ。 それともうひとつ……傀儡のマークは……背中にある」


「背中、か。 分かった、覚えとくよ。 俺はそいつらを探してぶっ殺すけど、クズレ……あんたも殺るか? 俺と手を組んで」


俺の言葉に、クズレは顔をあげた。 再度、空を見上げている様子だった。 俺はまた同じように空を見上げるが、そこにはやはり薄暗い雲が広がっているだけでしかない。 俺には、クズレが何を見ているのか……分からないんだろうな。


「そう言うということは……君も何かあったということか……けれど、私はもう良いんだ……今はもう、ティアレットが幸せになれるここさえあれば……それで良い」


クズレは言う。 雪が散り、雲が覆う空を見つめて。 その雰囲気も、姿も、とてもゲーム内のキャラクターには見えなかった。 そこに居たのは、仲間を守ろうとする一人の人間だ。 そういう奴は、あまり嫌いじゃねえな。 かと言ってそれがPKをしない理由にもならないが。 人間としては、嫌いじゃない。


「はっ、逃げるってことか。 やられたままで良いってことか? あんたは」


「ああ……それで良い……だが……フィールドで会えば殺そう……それくらいの気概は持ち合わせているさ……」


「まぁ、なんだ。 それもひとつの道かもな」


どちらが前を見ているかなんてことは分からない。 やはり、同じプレイヤーキラーでも考えていることは別だ。 全員が似ているようで、全員が違う。 一括りにできるものでもない。 だからこそ……面白い。 それぞれが違うことを思いながらするPKってのが、これ以上なく楽しい。 こんな感覚、一度やってみなきゃ分からないもんだ。


そして、クズレがその道を進むというのならば、俺は殺す道を辿ろう。 今クズレから聞いた話も、切っ掛けには十分なる。 そこから考えることもできる。


アーベルトという男は、ティアレットを殺そうとしていた……つまりハーメルンと繋がりがあったということだ。 しかし、そのアーベルトは既にティアレットが殺してしまっている。 やはり南部には一度足を踏み入れた方が良さそうではあるか。 ランカとローレイフがどういうかは分からないけど……怖気づくってことはないだろ、あの二人は。


「クズレ、最後にもうひとつ聞きたい」


「……」


クズレは何も言わず、俺の方を見る。 無言は肯定、俺はそう捉え、その質問をした。


「あんたにとってのPKって、なんだ?」


「ふっ……私にとってのPKか……そうだな」


……そこで初めて、クズレは笑った。 能面の所為で見えないが、確実に笑った。 面越しでも、それはなんとなく分かったんだ。 くだらない質問だと馬鹿にしていたのかもしれねえし、何か違う気持ちを抱いたのかもしれねえ。 だけど、クズレは笑ったのだ。


「私にとってのPKは……ティアレットの幸せだ……あいつが幸せなら……私はそれで良いんだ……」


呟き、クズレは歩く。 この男の強さは、冷淡さや物事を見極める力ではない。 誰かのために全てを捧げられるその姿勢こそが、強さだ。 俺には絶対に、一生かけても得られないだろう強さがそこにはある。 やっぱり、一度やり合ってみたいものだ。 今日は無理だとしても、明日には。 明日が無理だとしたら、次に顔を合わせたときに。 こいつの強さがどれほどのものか、やってみたいと心の底から俺は思う。


……人と話すってのも、たまには良いかもしれないな。 少なくとも参考にはならないが、勉強にはなるよ。


「良いギルドだな、あんたのとこは」


「君のところには負けるさ……」


クズレは言い、能面の位置を直す。 雪が付き、花のようになっている能面を。




「遅い! なにしてたの? 遭難ごっこ?」


ようやく追いついた俺とクズレを見て、真っ先に口を開いたのはランカ。 遭難ごっこってどんな遊びだよと思いつつ、俺は返す。


「お前な、普段雪道なんて歩かねーんだから無茶言うなよ。 あんだけ早く歩けるお前らが異常なだけだ」


「いやいやつってもよ? つってもシンヤ並みの足あればジャンプで一発じゃん?」


……なんだこいつ慣れ慣れしいな。 ヤコリだっけか、確か。 お調子者と分類しておこう。 お調子者ヤコリ、すげえ弱そう。 RPGの雑魚キャラだろ絶対。


「……クズレさん、無事?」


そして、俺の横に居るクズレに駆け寄ったのはティアレット。 言われてみると、その言葉にはやはり感情がまったく込められていないようにも思える。 ひょっとしたら、こいつらが能面を全員付けているのはそういうのを隠すためだろうか? だったら……いいや、俺が考えることじゃねえな。 それに、その能面だってクズレが考えたマークじゃねえのかもしれないし。


「……当然だ……それよりミト……周囲の探りを頼むよ……」


クズレはティアレットの頭をぽんと叩き、大男であるミトに声をかける。 ミトは「了解」とだけ言うと、すぐさまスキルを発動させる。


こいつは……暗殺師か。 だが、AGIに振っているようには見えないな。 だとしたら、支援特化型か? また随分と珍しいタイプが仲間に居るもんだ。


「既に城には六百七十二。 付近に十五。 街に四百三十一」


街……? おいおいこいつ、街まで索敵範囲なのか? まるで生きるレーダーだな。 レーダー男と呼んでやろう。 支援特化ってのは初めてだが……馬鹿でかい探知能力、か。 覚えておこう。


「……ありがとう。 ティアレット……敵の動き方を見てくれ……」


クズレの言葉に、ティアレットは頷くと地面に手を置く。 すると、小さな蝶のような生物が無数に飛び出した。 召喚士のスキルってのもまた初めてだな……。 俺たち神楽よりも、構成も組み合わせも非常に良い。 それぞれがそれぞれのPKをするのではなく、全員がひとつのPKをしているといった感じだ。 確かにこりゃ、厄介だな。 PKに置ける連携ほど、大事な物もねえ。


「ところでさ、ランカっち。 アルメっちゃんと蓮火(れんか)ちゃん知らない?」


そのティアレットが生み出した幻想的な光景を見つつ、タラクモはいつの間にか打ち解けたのか、ランカに向けて言う。 そういや、アルメリーと蓮火が見当たらないな。 というか、蓮火って奴は街に置き去りになっている気がしてならない。 出発時に既に居なくなかったか、あいつ。


「アルメリーは途中でなんかお花見つけてたよ。 それでいきなり走りだしてた。 で、誰も気付かなかったから私も気付かない振りしてた」


「それ遭難っしょ!? おいおいおいおい! てめぇ言えよコラぁ!?」


言う必要ねえだろ、一応協力はしてるが、根本的には敵同士なんだし。 なんて思いつつ、俺はそのやり取りに口を挟む。


「つうかよ、蓮火って奴は最初から居なかったろ。 それに、お前ら仲間の場所くらい確認しとけよ……。 そんなんで仲間やってんのか? あっはっは」


ランカが無駄に言われた所為か、俺は馬鹿にするようにヤコリに言う。 ヤコリはそれを聞き、今にでも魔法を打ってきそうな雰囲気を放つが、それを見たタラクモが口を開いた。


「ほらぁ! 言われちゃったよヤコリ! いやまぁアルメっちゃんなら大丈夫でしょー。 多分ね、多分」


そして、そんな光景をクズレは頭を抑えて眺めている。 心なしか、そんな見慣れた光景に笑っているようにも見えた。 真実は、能面を外して見ない限り分からないけどな。


「私が探してくるよ……。 蓮火はタラクモがメールを入れておいてくれ……私はアルメリーを連れてくる……」


「あいあいさ! って、僕がメール入れるの!? やばいってそれ! 下手したら殺されるって!」


「はっはっは! ざまぁみろ! タラクモいっつも蓮火に喧嘩売ってっからなぁ! しーらね!」


ほんと、このヤコリとタラクモって奴は騒がしい。 うるさすぎるくらいだ。 ランカですら静かに見えてくるレベルだよ……。 良くもまぁ、こんなコンビと一緒に旅ができるな、こいつら。 その辺りは尊敬しておいてやろう。


俺は鼻で笑い、心の中で若干馬鹿にしつつ、ランカに視線を向ける。 ランカに、ランカに。


……そういや、ローレイフは?


「ランカ、ロイフはどうした?」


「ん? あ、そう言えば途中でなんか道逸れてたね。 どこ行くんだろうって思って見てた」


……頭を抱えたくなってきたよ俺。 とりあえず、ランカはもう駄目だ。 こいつに集団行動はとことん向いてない。 当たり前のようにはぐれていく奴を見捨てる辺り、人情の欠片もねえなこいつは。


「あっはっは! 馬鹿だ馬鹿! 人のこと言ってらんねーぞお前!」


「うっせえな、殺すぞてめぇ」


ムカつく奴だ。 いやまぁ、最初に喧嘩売ったのは俺だけどな。 けど、ムカつくもんはムカつく。 棚においてってやつだが、とりあえずムカつく。 ちなみに、ランカに対してもな。


「はぁ……俺もうめんどいからお前探して来いよ、ランカ」


「む……どうして私? 元はと言えば、シンヤが歩くの遅いのがいけないし」


「俺は関係ねーだろ! 大体お前はいっつも俺の所為にするんじゃねぇ!」


寒いだとか、お腹減っただとか、眠いだとか、お菓子食べたいとか、喉乾いたとか、甘いもの食べたいとかな。 俺に言うなよボケがって感じ。


「……なら私と一緒に探しに行こう……そろそろ時間も遅い……プレイヤーに遭遇する可能性もある」


言い合いをする俺とランカに割って入ったのはクズレ。 うるせえな殺すぞと一瞬思うものの、さすがにここまで来てそうするのはないなと思い、俺は手にかけていたクリスから手を放す。 案外、俺も思い留まれるようになったもんだ。 自分で自分を褒めたいね。


「分かった。 ただし、先にアルなんとかが見つかってもロイフが見つかるまで付き合えよ」


「……ああ……良いよ」


クズレは言い、俺に背を向け来た道を戻る。 そのとき、俺は何かを感じた。 それは人の気配ではない。 何か……異様な気配だ。 感じたことのない気配。 だが、確実に近寄ってきている。


……なんだ? 何かが、来る。 尋常じゃない速度で……城の方からか?


「クズレさんッ! 伏せてッ!」


そして、それに気付いたのは俺だけではない。 クズレに飛びかかるようにティアレットは飛び出し、クズレのことを押し倒した。 直後、爆風が突き抜ける。


「うおっとぉ!! な、なに? なんだ!?」


ヤコリはそれを受け倒れ、タラクモは咄嗟に地面へ伏せ、それを回避する。 ランカはその場に立ち、その突き抜けていったものを見ていた。


「……ドラゴンだ」


ランカの言葉を受け、俺は振り向く。 するとそこには、巨大なドラゴンが居た。 馬鹿でかい翼に、数十メートルはある巨大な体。 殺人生物とも呼べる異様な気配だ。


「……はは、なるほど。 こいつがそうってわけか」


さすがに、身震いしそうだ。 こんなモンスター、今まで見たことすらない。 名前は当然、赤色。 そして俺がかつて戦った闇騎士……あいつには少なくとも、勝てる気配を感じたんだけどな。 今、目の前に居る巨大なドラゴンには……まったく勝てる気がしねえ。


グルル……という唸り声を上げ、ドラゴンは俺たちのことを一瞬見る。 その視線だけで、正直言って死んだと思った。 規格外すぎる。 こいつとは、絶対にサシでやりたくねえ。 勝ちパターンがまったく思いつかない。 少なくとも、俺とランカとローレイフでやらなければ話にならない。 かと言って、それでも勝てる可能性は……低すぎるけどな。


しかし、幸いなことにドラゴンは視線を宙へと向ける。 そのまま翼を大きく動かし、辺りに爆風とも呼べる風を巻き起こし、空へと飛び立つ。


「……ティアレット!?」


そのドラゴンを見て、初めてクズレが動揺した。 それはきっと、ドラゴンの手にティアレットが掴まれていたからだ。 クズレはすぐさまドラゴンへと向かうが、既にドラゴンはかなりの距離を飛行してしまっている。


「クソ……!」


俺には、関係ない。 俺にとって、クズレの気持ちもティアレットがどうなろうと、知ったことではない。 俺とランカとローレイフ、それ以外の誰が死のうが……どうだって良い。 けど、なぁ。


あのドラゴンは城の方から飛んできた。 つまり、グラグルトの連中が俺たちに向けて飛ばした可能性が高い。 イコール、狙いは俺たち神楽だった。 グラグルトの奴らは俺とランカ、そしてローレイフに対して勝手に恨みを抱いている。 殺したら百万ルピルという大金を払うとも手配書を回すくらいだ。 ドラゴンを捕獲するほど資金を叩いても不思議ではない。 さっきの襲撃は、俺たちを発見したグラグルトの連中がドラゴンを飛ばして仕留めようとしたってところだろう。 それに巻き込まれ、ティアレットは掴まれ、連れ去られた。


このままでは、ティアレットは死ぬだろう。 ドラゴンに食われるか、それを免れたとしても後衛のHPと防御力であの高さから落ちたら即死だ。 即、ゲームオーバー。 この状況が、限りなく詰んでいると言っても良い。 ただし。


「ランカ、悪いけどやっぱお前がロイフ探して来い。 用事ができた」


「……はぁ。 まぁそう言ってくれるだけ良いよ。 シンヤ」


ランカは俺の背中を叩く。 そしていつものように、笑顔で言った。


「死ぬな!」


その笑顔と気合いの入れ方に、俺がどれだけ救われただなんて言えねえな。 言うつもりもねーし、言わなくても良いことだと思ってる。 少なくとも今は、伝えなくても良い。


「いって……はいはい分かった。 すぐ帰る」


俺はランカにそう言うと、前を見据えた。 ドラゴンは既に、かなりの距離を飛んでいる。


距離は……五百くらいか? 少々届くか微妙な距離になっているな……。 それにもしも届き損ねたら、そのまま落下ダメージで死ぬ可能性もある、か。


だが、自分の責任は自分で取れ、だ。 今回のこれは、助けるわけじゃねぇ。 ただ、俺が起こしたことの責任を取るというだけだ。 それに、俺はまだあいつとやり合ってない。 俺が一度殺し合いたいと思った相手を横取りされんのは、気分がわりい。 なら、するべきことはひとつ。


「っふう……ッ!!」


そして俺は、飛行を続けるドラゴンへ向け、飛んだ。

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