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VRMMO殺人指南書  作者: 幽々
ノーネーム編
20/31

Episode19

あれ。 あれ。 あれ。 なんだろう。 変だ。 変じゃない?


「今日はどうだった? 楽しいこと、あったかい?」


楽しい……こと? 何を言っているんだろう。 楽しくもない、つまらなくもない。 ただ、なんだろう。 何も見えなくなった。 何も聞こえなくなった。 何も感じなくなった。


「うーん、そろそろ良い結果が出ても良さそうだが……ま、ゆっくり頑張ろう。 できることからやっていこう」


できること。 から。 やっていく。 あ。 それなら。 あったよ。 できること。


ボクは今日、騙されたんだ。 覚えてるよ、しっかり。 もう忘れない。 一生覚えている。 ボクにできること。 あるないあるある。


感情もなにもなくなったボクができること。 あった。 話そうかな。 やめておこうかな。 どうしよう。 でもクズレさんは誰にも言うなと言っていたっけ。 なら思うだけにしよう。


今日はね、沢山殺したんだ。 それが多分、ボクにできることだ。







ティアレットの話は、まとめると「病気の治療のため」ということらしい。 近年ではたまに聞くようになった、VR系ゲームでの治療法だ。 そして事実、ティアレットはゲーム内なら感情を自由に出すことができていた。 とても、そんな病気にかかっているとは思えないほどに感情表現が豊かな奴だったのだ。


そんな話を聞いてから、数日経ったある日のことだ。 私とティアレットのもとに、見知った顔が挨拶に来た。


「悪い、俺ちょっと一週間くらいリアル用事でインできねえんだ。 その間ギルドのこと頼むぜ、クズレとティアレット」


私たちにそう伝えたのは、ギルドマスターでもあるアーベルト。 皆から慕われる男らしい性格と、気さくな態度で私とティアレットを勧誘してきたのもこの男だった。


「了解! マスター、最近ちょっと忙しそうだね。 くすくす」


ティアレットは笑って言い、大袈裟に敬礼をする。 そんな仕草を見て、アーベルトはティアレットを捕まえようする。 いつも見る光景で、私も思わず笑いそうになっていた。


「なーに笑ってんだよティアレット。 俺ぁ、これでも大変なんだぞ? おいこら! ったく、お前って奴は」


「あははは、怖い怖い怖いー! 助けてクズレさんっ!」


ティアレットは言いながら、私の後ろへと隠れる。 そんなティアレットの頭に手を置いて、私はアーベルトに向け口を開く。 少しふざけすぎるところもあるが、基本としては頼りになるギルドマスターだ。


「アーベルト、お前が居ない間は私が責任を持つ。 力不足かもしれないが」


「んなことねーよ。 逆に俺よりクズレの方が向いてるんじゃねえかってくらいだ。 はっは!」


豪快に笑い、アーベルトは拳を突き出した。 それを見て、私は小さく笑って同じように拳を突き出す。


「このギルドのマスターはお前だけだよ。 待ってるからな」


「ああ」


私とアーベルトの拳はぶつかり、そして離れた。 いつもする挨拶は、手慣れたものだ。 ティアレットはそれを見て、私によく拳を突き出してくるから少々困ってはいるが。


今のように、アーベルトがリアルの都合で顔を見せなくなったのは今日に始まったことではない。 少し前から、段々とその頻度は増していたのだ。 リアルでの問題は誰にでも付き纏うことで、それは私がどうにか言えることではない。 ただ、また元通りにログインするその日を待つことしかできない。 いくら仲が良い相手だったとしても、リアルでは所詮他人だ。


私もティアレットも結局、薄い薄い絆なのかもしれないな。


「クズレさん、今日はどこへ行こうか?」


「そうだな、たまにはフィールドを散策でもするか。 新しい発見があるかもしれない」


「やった! くすくす、新しいこと見つかると良いなぁ」


……まぁ、少なくともゲーム内でそういうことは考えないようにしておこう。 私のパートナーでもある少女は、そんなことを微塵も考えていなさそうだったからな。


アーベルトが居ない一週間ほどの期間、私がしっかりしなければなるまい。 そう思い、柄にもなく張り切っていた私だった。


そして、そのときを狙ったかのように奴はやって来た。




「あーっと、クズレさんっすか? あの、自分アーベルトさんから紹介受けてて……このギルドに入る予定の宗馬(しゅうま)ってもんっす」


その男は急に私に話しかけてきた。 爽やかな見た目と、腰には長めの刀を帯刀している。 騎士の男だった。


「アーベルトの? そうか……ティアレット、何か聞いているか?」


その日はアーベルトがログインをしなくなってから、三日が過ぎたときだった。 宗馬という奴はサリュローザの街、モルマティを私とティアレットが歩いているときに声をかけてきたのだ。 タイミングが悪かったが……アーベルトの紹介となれば、無碍に扱うこともできない。


「ボクは何も聞いてない。 くすくす」


「参ったな……宗馬と言ったか。 悪いが、今アーベルトは都合でログインできていない。 また、日を改めてもらっても良いか?」


「俺は構わないっす。 けど、ちょっと見学とか良いっすかね? 何分、わざわざ南部からやって来たもんで。 へへ」


南部といえば、確か治安は良いと聞いている。 少なくとも、最近ではあまり妙な噂は聞かない。 少し前には大規模なPKギルドが幅を効かせている、だなんて噂もあったものだが……今は誰一人、そんな噂はしていない。


「南部から? それは長旅だったな……分かった。 ティアレットも良いか?」


しかし、だからと言って私一人で決めることはできない。 その考えから、私はしゃがみ込み花を見ているティアレットに尋ねた。


「ボクはクズレさんが良いならー。 あ、どうせなら今からハントに行かない? 皆を呼んで」


私はティアレットの提案に少し思考し、承諾した。 何も知らなかった私は、それがどれだけ愚かな行為だったかを知らなかった。


それから、ギルドのログインしているメンバーを全て集め、私たちは狩りへと向かった。 低難易度の、なんら問題がなさそうなフィールドの狩場だ。 新しく加入する者が居ると言ったら、全員が快諾してくれたよ。




「で、そこで何かがあったのか」


「ああ……そうだ……。 その宗馬という男は……プレイヤーキラーだった……それもギルドに加入していてね……」


俺が言うと、クズレはそう答える。 このクズレもそうだが、ティアレットも昔の話を聞く限り、性格がまるで変わってしまっているようだ。


それほどのことが起きたのか、それとも今日この日までの過程でそうなってしまったのかは、分からない。 だが、その出来事が一因になっているのは間違いなさそうだ。


「十一人……私とティアレットを除いた十一人が殺された……。 私もティアレットも……何が起きたのか理解できなかったよ……」


クズレは言うと、能面に手をかける。 それを少しだけ動かし、ずれてもいないのに位置を直しているような仕草をした。


「そりゃ、絶好のカモだったろうな」


「今思えばね……馬鹿すぎたな……あの頃は」


そのまま、落ち着いた様子でクズレは続きを話す。




「どうしよう……クズレさん、ボクたち、どうしよう。 どうすれば良い? クズレさん」


「少し、静かにしてくれ」


生き残ったのは、私とティアレットだけだった。 事件のことは、誰も知らない。 ギルドのメンバーは私とティアレット以外は全員殺された。 あれから、誰一人として戻って来ない。


……そして今日、アーベルトが戻ってくる日だった。


「ボク、分からない。 クズレさん、なんであんなことをする人がいるの? ボクは、ただみんなで遊びたかったのに。 どうして、みんなは殺されたの? クズレさん、クズレさん。 どうしてだろう?」


「黙れと言ってるんだッ!!」


私も、どうすれば良いのか分からなかった。 アーベルトにどんな顔をして会えば良いのか、なんと言って説明すれば良いのか、分からなかった。 そしてその苛立ちをあろうことか、ティアレットにぶつけてしまった。


「あ……ごめんなさい」


ティアレットは私の言葉を受けて、アジトを飛び出した。 それを追うこともできず、私はただ呆然と立ち尽くすだけだった。


やがて、ティアレットがアジトを後にしてから数時間が経っていた。 そこで、私は気付いたんだ。


宗馬がこのまま、私たちを見逃すだろうか。 宗馬の所属していたギルドは間違いなく、PKギルドだ。 そんな奴らが、私たちを逃したまま事を終えるだろうか?


「……ティアレット」


私は立ち上がり、走り出す。 ティアレットの居場所自体は、フレンド登録もしてあったのですぐに分かった。


そこは――――――――街中ではなかった。


アジトの裏にある、丘。 ティアレットが教えてくれた花畑だ。 そこに、ティアレットが居ることを示す丸印は付いていた。


私はただただ、無事で居てくれと祈りながら向かった。 丘の頂上にある花畑は、走れば数分の距離だ。 それに私は暗殺師だったから、足はそれなりに早い。 問題なく、その花畑まで辿り着けたよ。


だが、目にしたのは異常な光景だったんだ。


「あ、クズレさん」


ティアレットは私に気付くと、振り向いた。 そして、その手には()()()()()()()()。 いつもとは、まったく違った雰囲気。 それを纏い、ティアレットは私に顔を向けている。


「ティア……レット……?」


聞こえていた。 けれど、聞こえない振りをしていた。 ここに辿り着く数分までの間に、ワールドアナウンスは流れていた。 それは確固たる事実でしかないのに、私は否定したかった。


「ボクを攻撃してきたんだ。 いっぱい、たくさん。 PKギルドって言うんだよね、そういうの。 でも、先に手を出したのはあの人たちだよ」


ティアレットは言うと、手に持っていた頭を放り投げる。 すると、その頭は光となって消滅した。 直後、またしてもティアレットがプレイヤーキルを行ったアナウンスが流れる。 反撃で殺してもそれが流れると、私はそのとき知ったんだ。


「あの人たち」


言うと、ティアレットは一点を指さす。 私がそこへ顔を向けると、そこに居たのは。


「なんだ、これは」


そこに居たのは……大勢の人だ。 何十人もの、人だ。 全員が武器を持ち、そしてティアレットのことを見ている。


「……おいおい、あのガキはなんだ。 俺たちは残党の排除って言われて来たのに、なんだよこれ」


その内の一人が言う。 その名前は……なんだったか、覚えてはいない。 しかし、名前が染まっていたのは覚えている。 先制攻撃を加えた奴、及びそのパーティメンバーがなる仕様……白色の名前になっていたのだ。 それで私は理解したよ。 あいつらは、ティアレットに襲い掛かったのだと。


「クズレさん。 あいつらが原因だよ。 ボク、あいつらを殺さないと駄目だ」


「どうしてだ。 どうして」


私が言ったのは、ティアレットの言葉に対してではない。 ティアレットを殺そうと居る集団の中に、知った顔があったのだ。


宗馬でもない。 そいつは……私が慕い、知った奴だった。 どうして、お前がそこに立っている? ティアレットを殺そうとする集団の中に居る?


「アーベルト……どうしてお前がここに居る!? 何故だッ!?」


「なんだ、お前も生きてたのか? クズレ。 んだよ宗馬の野郎……ティアレットしか生きてねーとかホラ吹きやがって。 まぁ良いか」


悟った。 私とティアレットは騙されたんだ。 アーベルトは、宗馬とグルだった。 私とティアレットを使い、ギルドを崩壊させたのだ。


「何を……言っているんだ」


「んな驚くなよ、クズレ。 何故って言われても、そうだなぁ……ティアレットのようにさ、人が崩れるのを見るのが楽しいからだ。 はっは! やっぱ楽しいもんだな、人を壊すのは」


アーベルトは気味悪く笑い、ティアレットに視線を向ける。 そこには、無感情でアーベルトを見つめるティアレットが居た。


「きさ、ま……貴様ぁああああ!!」


ティアレットの病気は、確実に良い方向へと向かっていた。 その成果とも呼べるものを、私がティアレットの病気を知ったその日から、あいつは嬉しそうに話していたんだ。 毎日、今日はどうだったとか、ああだったとか、笑って、嬉しそうに、幸せそうに。


「クズレさん、あいつらを殺そう。 クズレさんがやらないのならボクがやるよ」


それが崩された。 呆気無く、一瞬で。 ティアレットは笑わない。 無表情で、無感情で、笑わずに淡々とそう言う。


「ボクに勝てると思っちゃダメだよ」


言い、ティアレットは地面に手を置いた。 そして何かを呟く。


「……おい、なんだよ、これ。 聞いてねえぞ!? こんなガキが居るなんて!!」


群れの中の誰かが言う。 事実、ティアレットが呼び出したモンスターは私でも見たことがないモンスターだった。


人の五倍ほどの大きさの体。 そして薄気味悪く笑う骸骨。 巨大な鎌を持ち、その体に実態はない。 まるで……死神のようなモンスターだった。 そしてティアレットはそのまま、次々そこに居た奴らを殺し始めた。 私は止めることも、声をかけることもできず、ただただその光景を眺めていた。


ティアレットが殺した数は、百に迫った。 たった数分で、それだけの数を一人でティアレットは殺した。 それが終わる頃には、ティアレットの名前は真っ赤になっていた。 そして、処理が追いつかないワールドアナウンスが流れ続けていた。


「クズレさん、どうすれば良いの? ボクはこれから、どうすれば良いんだろう」


無表情で、ティアレットは私に向けて言う。 私はようやく足を動かし、ティアレットのもとへと行き、その小さな体を抱き締める。


「ティアレット、私と一緒に来い。 私が傍に居てやる。 お前は何も悪くない、悪いのは……何も知らなかった私だ」


この日から、ティアレットは笑うことがなくなった。 笑顔を見せることもなくなった。


「クズレさん? どうしたの? 大丈夫?」


私にあれだけ見せていた顔は、たった一回の裏切りで、全てなくなったんだ。 今までティアレットが懸命に積み重ねていた大切なものが、一人の手によって崩された。


「……馬鹿を見るのは、知らない奴だけだ。 ティアレット、全てを捨てて、一から始めよう。 仲間を集めて、今度は私たちが食う番だ。 お前は救われる人間だ」


どうしてゲームでこんな想いをしなければならない? どうして踏むにじられなければならない? 心も、体も、思い出も。 この小さな少女が、一体何をしたと言うんだ。


「いつか、絶対に」


狩られる側になるくらいなら、狩る側になってやろう。 殺される側になるくらいなら、殺してやろう。 ただただ弱い者が馬鹿を見る世界ならば、強くなってやろう。 そしていつか、ティアレットの感情を……取り戻す。


私はその日、強く誓った。

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