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VRMMO殺人指南書  作者: 幽々
ノーネーム編
19/31

Episode18

まっくら。 目の前がまっくらだ。 黒くて暗くてじめじめと。 寒くて怖くてどんよりと。 そんな中に居る。 何もない、何も見えない。 見えるのは、自分だけ。


「調子はどうかな?」


笑う泣く嬉しい悲しい喜ぶ落ち込む怒る褒める怖い感謝感激後悔無念。 落としたのかな、なくしたのかな、忘れたのかな。 どこだろう? 分からない。 なんでだろう? 分からない。 何も何も何も何も分からない。


「最近では、大分安定しているね。 良い傾向だよ」


本当。 ほんとうに? それは良かった。 なんとなく分かる。 これはたぶん、喜ぶことだね。 そう思って笑おうとした。 笑えなかった。 目の前に居た人を見た。 その人は笑っていた。 この人にはできて、ボクにはできない、笑えない。 何も感じない。 何も思えない。 そうだったように、なるようにしかならない。 世界に多分嫌われている。


「良いよ、無理をしないで。 ゆっくりと、進んでいけば良い。 焦っては駄目だ、出来ることからしていけば良い」


できること。 ボクに? 世界から嫌われているボクに? 教えて、嫌いというのはどんな気持ち? 教えて、好きというのはどんな気持ち? 世界はどうしてボクのことが嫌いなの? 分からないよ。


そんな興味も目を一度閉じて開けたらどうでも良くなった。 今日もボクは世界から愛されていない。 その感情も分からない。


「おや、またやるのかい? あまり、無理はしないようにね」


うん、分かった。 無理はしないよ。 だって、無理をしたことなんてないから。 だから、ボクはまたゲームをしよう。 遊んで、楽しもう。 あの世界でなら、ボクは。






「というわけで、ノズウェイとうちゃーく!」


両手をあげ、ランカは言う。


俺たち神楽は、咲う名無しの会……通称、ノーネームと呼ばれているらしい奴らと共に、行動することとなった。


ノーネームの奴らは、現在在籍しているメンバーは俺が見た七人と、他に一人が居るとのこと。 その残された一人こそがギルドマスターとのことだが、今は()()()()だと言う。 その代理でギルドマスターを務めているのが、ティアレットというわけだ。


理由は聞いても教えてくはくれないだろうから、聞いていない。 それに聞いたところで、何かが変わるわけじゃない。 んなくだらないことには興味もねえしな。


「うおお! すっげーなおい! こっからもう城見えるじゃねえか!」


大袈裟なリアクションと共に言うヤコリ。


「ほんとだ! やっぱでかいねぇ……ノーラム城は」


それに混じって言うランカ。


「あんなお城に住めたら良いのになぁ。 俺様にピッタリじゃない? ちょっと、アルメリー感激で泣きそう」


一人称と声が酷く合わないアルメリー。


「んー! どっちかって言うとティアちゃんじゃない? 雰囲気とかめっちゃお姫様っぽいじゃん?」


調子が良いタラクモ。


「同意」


言葉数が少ない大男、ミト。


「……くだらない。 早く行こう」


そして無愛想に、無感情で言うティアレット。


良くもまぁ、これまで個性的な奴らを集めたもんだ。 つうかランカの奴混じってるんじゃねえよ……。 なんで仲良くなってんだ、あいつ。


それぞれが言いたいことを言うってのが、もしかしたらランカにとっては居心地が良いのか。 なんてことを思いながら、その後ろを付いて行くように、俺とロイフ、そしてクズレは歩く。


「いつもああなのか?」


「……いつもだよ。 私は静かなのが好きなんだけど……どうにも皆騒がしいのが好きなんだ」


「俺たちで言うところの、ランカのような感じだな。 俺とシンヤだけでは静かなものだが、あいつが来ると途端に騒がしくなる」


……ああ、だな。 全くその通りだ。 喜怒哀楽、感情が豊かになったのは、リアルでランカと知り合ってからだったか。 淡々とした様子を見せるのは、最早PKのときくらいだ。


「……マスターが居なくなってから、解散寸前まで行ったんだ。 けれど……ティアレットの存在が皆を繋ぎ止めた……」


「ティアレットが? あいつもうるさいのは嫌いそうなタイプではないか?」


クズレの言葉に、ローレイフは言う。 それを聞き、俺はティアレットに意識を向けた。 それで分かった、ひとつのこと。


「逆だろ。 もしもそうなら、俺たちと一緒に歩いてる。 それに、声もちょっと昂ってる感じがする。 あいつも、騒がしいのが好きなんだ」


「……」


俺の言葉に、クズレが俺の方を見た。 相も変わらず笑っている能面で、何を考えているのかは分からない。


「んだよ、見るんじゃねーよ」


「……気が向いた……気が変わった……目的地までまだ少しある……少し速度を落とそう」


クズレは言うと、歩む速度を一段落とす。 それをすぐさま実行したのを考えると、俺が受けた印象は歩き慣れているな、というものだ。 誰かに合わせるわけでもなく、歩く速度を一定値、一段階だけ正確に落とした。 下手をしたら俺もローレイフも気付けないほど自然にだ。


「ロイフ、ランカの傍に居てもらって良いか。 もしものことがあったら、頼む」


「ああ、承知した。 気を付けろよ、シンヤ」


「心配すんな」


俺が笑うと、ローレイフも笑う。 そして、ローレイフは歩む速度を早め、ランカたちのもとへと行った。 既に、ノズウェイは通り過ぎた。 あとは今日の攻城戦時間までに、クズレが指定した場所で待機することになっている。 そこへ向かう道中だ。


「君は気が利くね……リアルでも慕われそうだ……」


「喧嘩売ってんのか、逆だよ逆」


「……そうか……でもここでなら上へ立つ人間になれるよ……シンヤくんは」


クズレは前を見ながら言う。 降り積もる雪は、視界を塞ぐように吹雪いていた。 その先を歩く集団は、どんどん背中が小さくなっていく。


「所詮ゲームだ。 リアルはなんも変わらねーよ。 金は増えるけどな」


「そうかな……私はむしろ逆だよ。 仮想空間もリアルも……大差なんてない……。 リアルで人が傷を負うように……ここでも同じことは起きるんだ……」


クズレはそこで、足を止める。 そして顔を少しだけ上へ向けた。 何を見ているのか、俺もクズレ同様に顔を上に向けたが、そこに広がっているのはどんよりとした色の空だけだ。 何も、見えない。


「続き……さっきの続きを話そう……昔話だと思って、暇潰しにでも聞いてくれ……」


「どうせ、することもねーしな。 聞こう」


凍えてしまいそうな雪原を歩き、俺はクズレの話に耳を傾ける。 その話はゆっくり、始まった。


その昔、クズレとティアレットは同じギルドで、一緒に良くペアを組んでいたらしい。 ティアレットはよく笑い、楽しそうに話をするのが大好きだった。 ティアレットはクズレのことを兄のように慕っていて、クズレもそんなティアレットの相手をするのが楽しかったという。


少なくとも、そのときのティアレットは感情豊かな奴だったらしい。






「クズレさんクズレさん! 今日はどこに行く? ボクさ、たまには洞窟とか行ってみたい!」


「洞窟か、分かった。 行こう」


「くすくす。 やった! ふふ、クズレさん! そうと決まればすぐすぐ!」


ティアレットは言い、私の手を掴んだ。 小さな手は、私を引っ張るほど力強く、小さいながらも大きく見えた。


「おいおい、そう急ぐなよ。 時間はあるんだろう?」


私が言うと、ティアレットは笑って「あるけどない!」と返した。 私にとってティアレットは、少なくとも妹のような存在だった。


ティアレットの態度は、まるで小さな子供のようだった。 だが、このゲームを行うにはひとつの条件がある。 最低でも十万円、そして月に一万の金だ。 それらをティアレットが用意しているようには見えなかった。 私はそれが気になり、ある日ティアレットに聞いたんだ。


「ティアレット、ちょっと良いかい?」


「んー? どしたの、クズレさん」


その日は目標としていたクエストをギルドでクリアし、その記念にパーティを行っていた。 私たちが居たギルドでは、わりと大きなアジトを持っていたんだ。 そこにギルドメンバー、約二十人近くが集まってパーティーを開いていた。


私もティアレットもそのクエストには参加して、私は暗殺師としてティアレットの周囲を守りながら、ティアレットは召喚魔法を使い、私のサポートをしながら。 私とティアレットのペアは、ギルド内でも良い評価を貰えていたんだ。


そんなパートナーのことは、やはり気になるときもある。 リアルのことに触れるのはタブーだとも理解していた。 しかし、私は聞いた。


「ティアレット、君はどうしてRMT(ここ)にいる? とても、居そうにはない性格に思えて仕方ない」


「くすくす。 やっぱそう? クズレさん、ちょっと付いて来て。 ボクさ、すっごい良い場所見つけたんだ」


ティアレットは笑い、アジトから抜け出すとそのまま街の外へ行き、フィールドを走って行った。 西部、サリュローザには山岳地帯が多い。 そんな山のひとつをティアレットは駆け抜け、私はそれに付いて行った。 山というよりかは、丘と言った方が正しいだろう。 そんな丘をティアレットは時折振り返りながら、進んで行く。


それを数分して、やがて、ティアレットは立ち止まる。 立ち止まって、両手を広げて私の方に向き直った。


そこに広がっていたのは、綺麗な花畑だった。 一面に幻想的な花が咲いていた。 月の明かりで気持ち良さそうに、咲き乱れていた。


「くすくす。 どうかな、凄いよね? クズレさん、驚いた? ボクが見つけた、ボクの場所!」


「ああ……そうだね。 驚いた」


「うぅーん、クズレさんって分かりにくい。 驚いてるのも全然分からないや」


ティアレットは私の顔を覗き込みながら言う。


私はこういう性格だから、それを表すのは苦手だ。 でも、少なくともこのときは笑いもしたし、怒りもした。 そういうのは、持ち合わせていた。


「すまないな。 でも、本当に驚いているよ。 こんな綺麗な場所も、あったのか」


「くすくす。 あのさ、クズレさん。 ボク……病気なんだって」


ティアレットは口元を覆いながら笑うと、そう言った。 それは一度も、聞かされたことのない話だ。 そんな話を……私にティアレットはしてくれた。


「感情がね、落っこちているんだって。 良く分からないんだけど、精神病とか、サイコパスみたいなものなんだって」


「……そうは見えないよ。 私から見たら、ティアレットほど笑う奴なんて居ない」


RMT(ここ)だからだよ。 ここなら、ボクは笑えるんだ。 だから、ボクはここに居る」


ティアレットはやはり笑い、そう言うのだった。 花畑の中で綺麗に笑うティアレットは、まるで花が咲うように美しいものだった。

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