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VRMMO殺人指南書  作者: 幽々
ノーネーム編
18/31

Episode17

RMTの特徴のひとつが、その広大なマップだ。 東西南北、そして中部と五つに区切られたフィールドを移動するだけでも、三日ほどの時間はかかる。 テレポーターなどの空間移動を行ってくれるNPCは存在せず、そういう点ではAGI型というのは、移動に置いてもメリットだ。


徒歩を除き、存在する移動手段は三つある。 ひとつ目は、馬鹿にならないほど大量の金を払い、箱船と呼ばれる空飛ぶ船を購入すること。 これ自体、未だに購入したユーザーは存在しない。


次に、龍騎士が保有するスキル、ドラゴンライドを使用すること。 これを使えば、ドラゴンに乗り移動することが可能になる。 が、このドラゴンライドというスキル自体、習得が大変困難だ。 その所為もあり、龍騎士自体の絶対数は非常に少ない。


そして最後が、召喚士が召喚するモンスターに乗ること。 これがもっとも一般的で、広く活用されていると言って良い。 欠点としては、最大で二人までしか移動ができないということだ。


「……最悪だ。 最悪だ最悪だ最悪だ! お前、どうするつもりだよ!?」


「ボクに言われても。 君が来たのはボクの所為じゃないよ」


目の前に居るのは、笑う能面を付けた少女。 ローブと面の間から、翠色の髪が見える。 そしてやれやれといったジェスチャーをしながら、俺のことにうんざりしている様子だった。 生意気なガキだ……。


こうなったのにも、ワケがある。 俺がどうして、咲う名無しの会のメンバー、ティアレット……と一緒に()()()()()()()()()という、今世紀最大の謎が発生したのは、遡ることつい数時間前、ノーラム城の攻城戦が行われたときだった。






「よー、久し振り。 俺ら放置してお前ら呑気に飯かぁ。 喧嘩売ってんのかコラァ!?」


あの一件から数日、ノーラム攻城戦が行われる当日、どうせなら見学していこうとの話になり、俺たちは開始数時間前にログインをしていた。


そしてアルゴーラの居酒屋で、寒い寒いとうわ言のように呟くランカを宥めるため、俺たちは暖かい店内で雑談を交わしながら休憩していたのだが、そんな店内に集団が入り込んで来る。 俺たちを見つけて開口一番今の言葉を言ったのは、ヤコリだ。


「お、なんだ。 全員生きてんのかよ」


そんなヤコリを見て、俺は笑って言う。 一人くらい殺られていて欲しかったな。


「ったりめえだろ!!」


「ちょっとちょっとぉ! 走らされた僕が一番可哀想じゃない!? 地雷原走らせるとか、このギルドブラックすぎない!?」


ってことはなんだ。 ランカの魔法罠を敢えて踏み、突破したってことか。 ヒーラーも居るし、騎士にそうさせるのは悪い案じゃねーけど、下手したらワンキルの流れでよくそんな真似をしたな。 さっきクズレが言っていたフォースサンクチュアリがあったとしても、触媒が馬鹿にならないって話だったし。


「まぁまぁ……全員無事だし良いよ……ところでシンヤ君、また会えたね……」


クズレは声を荒げるヤコリとタラクモを制し、俺の正面に腰かける。 それを俺の左右に座っていた二人も一瞬見るが、ランカとローレイフは飯を食う手を止めない。 肝が座ってるんだか、馬鹿なんだか、礼儀知らずなんだか……まぁ俺も二人と一緒だが。


「良い仲間だ……それに良いマスターだ……。 君たち、うちに来ないか……? 私たちと君たちなら……ほぼ敵なしのギルドにもなれる……」


「クズレさん、そりゃいくらなんでも……」


クズレの言葉を止めたのは、ヤコリだ。 だが、妙な感じだな……。 こいつには、その狩るという意思が感じられないんだ。 本来思っていることは違うのか、どこかこいつの言葉には胡散臭さというのを感じる。 そしてそのヤコリに対し口を開いたのはクズレではなく、ティアレット。


「クズレさんにも考えがある。 今は黙って聞こう」


「……わーったよ」


力関係では、ティアレットの方が上なのか? 確かに純粋な強さならティアレットの方が上という雰囲気を感じるが。 しっかし、このガキもまるで感情ってのを込めない雰囲気だな。 考えていることが分かりづらい。


「で……どうかな?」


その会話をクズレは聞き、俺を見て話を続ける。


「断る。 逆なら良いぜ。 けど、あんたとティアレット以外はいらねー」


俺の言葉に、その場の空気が一瞬にして重くなる。 それを受けてローレイフはため息、ランカは笑う。


「それなら交渉決裂だね……というわけで、本題の交渉に入ろう……。 私たちはさ……ノーラムの攻城戦で来たんだ……」


やはり、そうか。 この時期にここに居るってことは、ほとんどがそれ目的だ。 城を確保することができれば、安定して莫大な金が入ってくる。 ある意味で、RMTにおいての最終目標と言っても良い。


「俺たちで協力して城を取ろうってことか?」


「違う……取るのは……プレイヤーの首だ」


……なっるほどね。 そういうことか。


こいつらの目的は城ではなく、そこに集まるプレイヤーこそが、こいつらの真の目的なのだ。 言ってしまえば、俺たちと同じとも言って良い。 そして同じ目的の者が二組も居て別々で行動を取れば、互いにとって不利益になることが考えられる。 それならば協力しようと、そういうことだろう。


「言いたいことは分かったよ。 けどあんま特になるとは思えねーな。 俺たちはもう充分稼いだし、言ってるのは攻城戦時間前に、城付近で待機しているプレイヤーを狩ろうってことだろ? 俺らの本命は、そこに行く前のフィールドだったしな」


「そうかい……けれどそれはどうだろう……私が知る情報だと、君たちの得にはなるはずだ……これを見てくれ……」


クズレは言い、一枚の紙を俺に手渡す。 そして、その紙に目を通す。


「神楽所属、ランカ、シンヤ、ローレイフを殺した者には百万ルピル……?」


なんだこれは? 一体誰がと思い、視線をそのまま下へずらして行く。 そして、そこに書いてあった名前は。


「グラグルトギルドマスター、サーザン。 ……そういうことか」


原因は恐らく、あのクエストでの一件だ。 あそこには確か、グラグルトのメンバーも居た……と思う。 正確に言えば殺ったのはローレイフだが、チクリを入れたのは俺に絡んで来たあの男だな……。 言っていた「どうなっても知らない」ってのは、そういうことか。


しっかし、ただの下っ端が殺されただけだというのに百万か。 とんでもねー資産だな、最大規模ともなると。


「さて……どうする? グラグルトのメンバーは既にPKギルドを雇っているとも聞く……ガーラの里も動いてる……」


「ガーラの里? あいつらはPKギルドではねーだろ?」


「ああ……そうだ……。 けれど、雇われればなんでもするよ……彼らもチケットは持っているからね……」


こいつ、そこまで知った上で俺らに協力を求めてきたか。 やはり、厄介なのは強さだけじゃねぇ。 交渉術を持っている。


「分かった。 けど、最終的に決めるのは俺じゃなくてギルドマスターだ。 つうことでランカ、どうする?」


「……おや、マスターはそっちの子か……これは失礼」


クズレの言葉に、ランカはムッとした顔になる。 文句があるのなら、もっとギルドマスターっぽくして欲しいものだ。


「ま良いんじゃない? 私はPKできればそれで良いよ。 ただし! 条件、私と腕合わせで勝てたらね」


「腕合わせ?」


ランカの言葉に反応したのはローレイフだ。 こいつはずっとソロでやってたみたいだし、知らなくても無理はないか。


「腕相撲だよ。 つっても、単純なSTR値の勝負じゃない。 能力値も当然そうだけど、今までの経歴ってのが反映される。 ステータスで勝ってても、城を保有していたりされてたら、負けたりもする」


要するに、そいつの総合面での強さだ。 そしてこれには今まで殺した数、というのも含まれる。 ランカ自身、相当な数を殺しているからかなりの強さだ。


「面白い発想だ……それならティアレット……やってみようか」


「……ボク? まぁ、良いけど」


「は、ちょっと待った! なんでギルマスのあんたじゃないわけ? ギルマスが相手してるんだから、そっちもギルマス出すのが常識でしょ?」


ランカは苛立っているのか、木製のテーブルを叩いて立ち上がる。 が、それを見たクズレはやはり動揺せず、淡々と口を開く。


「うん……だから彼女だよ……。 私はサブマスターで彼女が今のギルドマスターだ……代理だけどね……」


「……シンヤ、私こいつ嫌いー! どうにかしてよ!!」


「どうにもならねーよ……。 けどそういうことなら仕方ないだろ。 さっさとやれって」


というか、代理といったか? それで、このクズレという奴はサブマスターだと名乗った。 つまり、こいつらを纏めているギルドマスターは他に居るということか? ってなると、更に強い奴が居るんだよな? あー、こいつらの中から一人殺したら、そいつは来てくれんのかな。


「それじゃ」


「むぅ……」


なんてことを考えている間に、ティアレットとランカはテーブルを挟み、座る。 そして手を組み、睨み合う。


「なんかこえーなお前ら……んじゃ、始めるぞ」


俺は言い、二人の手の上に手を重ねる。 ランカもティアレットも、同じくらいの力強さを感じた。


「レディ………ゴー!」


勝負は、一瞬で決着した。 手を離したその一瞬で――――――ランカが負けた。


「あら? あれ、私……負けた?」


「……これで成立ね。 よろしく」


確かに、ランカは俺から見たらそれほど強いわけじゃない。 こいつの強さってのは、PK場での状況把握能力だ。 しかし、手を抜いたわけでも、今までしてきたことが意味をなさないわけでもない。 俺から見たら強くないというだけで、普通に見れば充分に能力は持っているはずだ。 だというのに、あっさりとランカが負けた。 その事実を認識するのに、俺は数秒を要した。


「……おい待て。 こんなんじゃ、示しが付かねーだろ。 俺とやれ、ガキ」


ランカは未だに状況を理解できていないようで、俺が椅子から退かす。 そしてティアレットの前に腕を突き出し、勝負を挑む。


「別に良いけど。 負ける気しないし」


とことんムカつくガキだな……。 こういう生意気なガキは一番嫌いだ。 殺したくなってくる。


「それじゃあ私が……スタート」


俺とティアレットの上に手を重ね、クズレはやる気のなさそうな声で掛け声をかける。 よし、死ね。


「うおらッ!!」


思いっきり、加減なしで小さな手を叩きつけた。 破裂するような音と共に、木製のテーブルは砕ける。 そして砕けた木片は次から次へ、それらのデータは光となって消えていく。 同時に、ティアレットの体はそのまま床へと叩き付けられた。


「……驚いた。 負けたのは初めて」


ティアレットは倒れた体を起こし、ローブに付いた埃を叩きながら言う。 能面の所為で表情は見えないが、驚いているように感じられる。 腕をもぎ取るつもりで叩きつけたのだが、やっぱり街中じゃダメージなしか。


「調子乗んなクソガキ、俺お前のことは嫌いだ」


「気が合うね。 ボクも大人げない人は嫌い」


俺の言葉に、ティアレットは淡々と返す。 この態度が気に食わねぇ……なんだこいつ、リアルで会ったら間違いなく殴り付けるレベルだ。 リアルだと人に会うこと自体ないけど。


「いやでも、確かに大人げないな」


俺の背後で、ローレイフはぼそっと呟いた。 そしてそれに賛同するかのように、ヤコリとタラクモが口を開く。


「あー確かに。 ふっつーはさ、負ける場面だよなぁ? 大人げねー」


「僕でも今のは空気読めるよ。 ひひ」


……とまぁ、こういう感じで大変丸く収まった話は、続いて行く。 ランカが負けてしまったこともあり、協力するということで。

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