Episode15
「やっぱ、正解だったな。 大儲けだ」
「んだね。 十五人くらい? 殺ったの」
「十七人だな。 一人当たり五十六万だ」
三人パーティで、一人殺す度に三万三千円が入る。 百円単位は切り捨てられるが、それでも充分すぎる収入だ。 ちなみに殺した数は俺が十人、ロイフが五人、ランカが二人だ。 前衛である俺とローレイフの殺した数が多くなってくるのは必然だな。 まぁ、それで分配金額が変わることもないので、ただの自己満足ではあるけど。
「でもさー、ちょっと人減ってきた? 初日に比べて」
「無理もねーだろ。 周囲エリアにはチャットで伝えられるんだから、避けている奴が居てもおかしくはない。 伝えてる奴も居るだろうしな、それを」
そろそろ場所を変えた方が良いかもな、なんて思いながら道具屋でポーションを手に取る。
こんな風にアルゴーラの街で、俺たち三人はアイテム類などの補充をしながら、戦果を確認していた。 戦争自体は明日、大人数……具体的に言うと八人以上のパーティはできるだけ避けている。 戦争に顔を出すということは手練れも居るだろうし、それとぶつかるってのは結構なリスクだ。 俺の持論だと戦争とPKはまったくの別物だが、それでもいくらか対人戦を行う上での立ち回りというのは身に付く。 PKのことを何も知らない初心者なんて、PKされても「どうしてこの人はプレイヤーを攻撃しているのだろう?」みたいな顔で死んでいく奴すらいる。 その点、ある程度慣れている連中はすぐに反撃行動を取れるからこちらも被害が出る可能性は上がる。
RMTはスキルの数が物凄く多い。 俺ですら全てを把握していないほどにだ。 基本的には強いスキルほど習得に必要なレベルもアイテムも馬鹿にならない。 中にはスキルブックと呼ばれるアイテムを得なければ習得できないことだってある。
龍騎士のドラゴン操作スキル、ドラゴンライドなんて良い例だな。 あれはRMT内でも最高級のスキルだ。
「だが、充分と言っても良いくらいには稼げたがな」
ローレイフの言葉を受け、アイテムパネルを開き、今しがた購入したアイテムの確認をする。 その右下には、今の残高がも表示されていた。
数日間張っただけで、こんだけの儲け。 真面目に働くのが馬鹿らしくなってくるよ、まったく。
「補充良いか? あと一人二人、まだ人が多い内にやっとこうぜ」
「あいあいさー。 ロイフ、時間大丈夫?」
「ああ、まだ大丈夫だ。 それよりシンヤ、すまないな」
「んぁ?」
ローレイフは、街を出ようとした俺に声をかける。 その手に握られているのは、残剣・シャドウ。 ローレイフがPKを起こした目的の一つでもあるAランク武器だ。
「あー、残剣か? 良いって別に。 俺たちはもう仲間だ。 仲間のためなら武器の一個や二個、どうにでもしようと思う。 それに、お前攻撃雑魚いからなぁ……武器は良いの持っといた方が良いだろ」
「……その俺に負けかけた奴が何を言うか」
あ、あ、あ。 あー、それ言っちゃうかぁ! それここで言っちゃうかぁ!? おいおいマジで空気読めねーなこいつ。
「おいおいおいおいロイフさん。 そりゃあれか、あれだよな、俺に喧嘩売ってるってことで良いよな!?」
「まさか。 ただ事実を言ったに過ぎないだろ? あそこでランカが居なければ、シンヤは俺に負けていた。 事実だ」
「……よし、コロシアムだ。 ロイフ、今からタイマンで決着付けるぞ!」
「良いだろう。 現実を教えてやる」
殺す殺す殺す殺す殺す殺す!! こいつぜってー殺す!! そう決意し、俺とローレイフは街中のコロシアム案内NPCのもとへ歩いて行く、が。
「馬鹿二人! 遊んでる場合じゃないでしょ! ソウルショット!」
言葉と共に、俺の体もローレイフの体も数メートルほど吹っ飛ぶ。 同時に、言い表しようのない気持ち悪さに襲われた。
せめて、その言葉に反応してから撃てよ……と思いながら、俺とロイフは天を見上げることとなる。 というか、前よりも威力が若干増している。
「ふふ! 実は溜まってたスキルポイント振ったんだ!」
もっとまともなスキルに振れよ。 特にランカの場合なら「優しさ」にスキルポイント割いた方が良いぞ。 そんなスキルあったかしらねーけど。
なんて思いつつ、ラグる体を引き起こす。 横を見ると、ロイフも同じように体をラグらせていた。 おお……仲間発見。 どうやらロイフも吹き飛ばしで酔うタイプらしい。
「……やっと、やっと見つけた。 お前、シンヤだろ」
そんな俺の顔に、影がかかった。 そして呼ばれたのは俺の名前だ。 誰かと思い、俺は顔を上げる。 どうやら、あまり良い雰囲気ではないらしい。 そして同時に、俺の追っかけでもないということだ。
「誰だ、お前」
見たことのない奴だった。 男のキャラで、俺のことを見下ろしている。 しかし、俺のことを知っているってことはセントラルにでも居たのか? あの街を拠点としていたのなら、俺もランカも相当嫌われていたから知られていても無理はないが。
「は、ははは……ふっざけんなッ!!」
男は言うと、俺に掴みかかる。 めんどくせーな……たまに居るんだよな、こういう良く分からない奴が。 大抵、俺がしているPK関連のことでこういう奴に絡まれるんだ。 面倒なことこの上ない。
「なんで、なんでお前がローレイフと一緒に居るんだよ!! てめぇ、やっぱり最初から裏切るつもりだったのか!!」
「なんだよそれ。 おいロイフ、お前の知り合いか? こいつ」
ローレイフは俺の顔と男の顔を見比べたあと、短くため息を吐いた。 そして頭を掻きながら、言う。 呆れているようにも、ある意味では感心しているようにも見える表情で。
「シンヤ、お前な……。 そいつはあれだ、この前俺が殺した奴だ。 クエストで一緒にパーティ組んだだろう」
クエストで? ん、ってことはもしかしてあのときのパーティメンバーか?
「カインだよ、覚えてねえのか……どこまでクソなんだ、お前は」
カイン、カイン、カイン。 居たような居なかったような、そんな記憶しかない。 というか、もしもこいつがその場に居たとして、殺られたのはこいつの責任じゃねーか。 なんで俺に責任転嫁してんだ。
「あー、そういや居たか。 で、なに。 もしもお前が言うように、俺とロイフがグルだったとして、どうなる?」
説明するのも面倒だ。 それに結果的に見たら、俺とローレイフがグルだったとしてもそうでなかったとしても、何も変わらない。 こいつから見たら、俺はもう敵ってことだ。 そんな雑魚に説明する時間は勿体ねぇ。
「……やっぱりかよ。 俺たちのことを騙すような真似をしやがって!! あの一件で、皆やめちまった。 山ノ川も、トルトも、カラフルも」
「カラフルって、確か最初から引退する予定だったろ? なら、別にいーじゃんか」
「良いわけねえだろ!? 最後の最後に、最悪な思い出にしちまった。 お前とその女と、ローレイフ、てめぇの所為でな」
カインと名乗った男は俺とランカを睨んだあと、より一層の恨みを込めてローレイフに視線をぶつける。 つか、こいついつになったら俺のこと離してくれんのかね。 街中じゃPKできないってのが、唯一のクソ仕様だな。
「お前に実力がなかっただけだろう。 悔しければやり返せ。 俺たちはいつでも、お前の相手になってやる」
ローレイフは言い、歩き出す。 それを見て、ランカもまた歩き出した。 おい、俺を置いていくんじゃねぇ。
「離してくれるか。 街中での進路妨害行為は、通報される対象だぞ」
「……チッ」
俺の言葉に、カインとやらはようやく手を離す。 つーか、こいつまた十万突っ込んだのか……どこの貴族だよ。 その金、是非とも俺に貢いで欲しい。
「じゃーな。 機会があったらまた会おう。 達者でなぁー」
言い、俺もまた歩き出す。 ローレイフもランカも、既に街からは出ていた。 それを見て小走りで二人のもとへと行く。 あいつら、放っておいたら本当に置いていきそうだ。
「おい! お前ら俺を置いてくなよ。 どういう教育受けてるんだ」
「良いじゃん良いじゃん。 そういうのにも慣れておくべきだよ、これからもーっと増えるだろうし」
「だな。 俺は見た目の問題で絡まれることはないが」
ああ、そりゃそうだな。 ローレイフの奴、めっちゃ強面だからな。 俺ですら外で見たらPKするの一瞬躊躇うレベルだよ、お前の怖さは。
そんな談笑をしながら歩き始めたとき、またしても俺たちに声がかかる。
「どうなっても知らねえぞ!! てめぇらが誰を殺したのか、良く覚えとけッ!!」
「あはは、お友達がなんか言ってるよ、シンヤ」
楽しそうに言うなよ。 あいつにも一応、いろいろ思うことがあるんだろ。 そりゃー、俺だってランカが殺されでもしたら同じようにはなるだろうし。 今じゃ、ローレイフが殺されてもそうだ。 それなりに、仲間意識ってのは高いつもりである。
「シンヤ、あいつ」
「分かってる」
ロイフが何かを言おうとして、俺はすぐに笑いながら返す。 そうだ、もうちょいだな。 だから我慢我慢。 我慢だ俺。
俺はそのまま、カインとやらの言葉に反応せず、進む。 七十……八十……九十……百……。
「俺はてめぇらのことを絶対忘れねぇ!! ゴミどもがッ!!」
百一。 来た。
「出たな」
後ろからの叫び声に、俺は呟く。 それと同時に、俺は後ろへ思いっきり飛んだ。
「あは。 俺もお前のことは良いカモだって覚えとくよ」
クリスを引き抜き、街から一歩だけ出た男を斬り付ける。 声が届く距離は、百メートルまで。 街から百メートルを超えたときに声が届いたということは、対象が街から出たということだ。 そして、百メートルほどの距離なら一歩で移動できる。
「ひっ……」
小さな悲鳴と共に、男は地面に倒れた。 同時に、HPバーは一瞬で消える。
『お知らせです。 アルゴーラタウン付近にてプレイヤーキルが発生致しました。 プレイヤー「シンヤ」がプレイヤー「カイン」を殺害しました』
まったく、どいつもこいつも警戒心が足りなさすぎる。 もう少し、まともなのは居ないものか。 そんなことを思いながら、俺は再びロイフとランカのもとへ歩き出した。
その先に、何が居るのかを知らずに。




