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VRMMO殺人指南書  作者: 幽々
神楽結成編
14/31

Episode13

「ランカ、サポート頼むぞ」


「はいはい。 さっきは手を出すなーとか言ってたのに、ワガママだなぁ」


「……悪かったって。 それに対人は別だ。 もっと言わせてもらえば、あいつは俺たち二人を敵にしてるんだよ。 そんな舐められた真似、ただでお前は見てるだけか?」


ランカは俺の言葉を聞き「ん」と言ったあと、杖を構え直す。 そしてその先をローレイフへと向けた。 直後、ランカの雰囲気が変わる。 別人が乗り移ったかのように、顔付きも変わった。


「……シンヤ、敵はCON極振りのステータス。 それで、装備も防御重視の物。 魔法耐性もかなりあるから、私の魔法でも通るかは微妙なところ」


「ああ、分かった」


対人が始まり、それだけに意識を向けたときのランカはまるで別人だ。 桁外れな集中力と、そしてランカは頭の良さを持ち合わせている。 レベル自体は俺の方が上だが、総合面では俺と同じくらいの強さがランカにはある。


そして、ランカが真に力を発揮するのが、対人戦だ。


「麻痺、睡眠、毒……どれも高い。 シンヤ、まずは様子見で殴り合ってみて。 動きは私が見る」


「りょーかいっと。 頼むぜ、ランカ」


ランカはこくりと頷き、視線をローレイフへと向ける。 それを見て、俺もまたローレイフへと視線を移した。


「ッ!」


移した瞬間に、距離を詰める。 ローレイフは一瞬だけ体が固まるが、すぐにそれを解いて反応をした。 俺は地面へと手を付き、左から足に向けての蹴りを放つも、一歩退くことよってローレイフは回避する。 これは慣れだとか見えていたとかじゃねえな。 そういう勘で動いているのか。


が、そのまま俺は地面へと付いた手に力を込め、開いた距離を即座に埋める。 空中で体を回転させ、クリスでの薙ぎ払い。 ローレイフは腕を上げ、腕部にある甲冑でそれを防ぐ。


『二秒後、右からの剣撃。 スキル発動はなし』


「……おっと」


軽く地を蹴り、それを避けた。 これこそが、ランカの持つ最大の武器。


ランカは、敵の動きを正確に見抜くことができる。 VRMMOならではの独特な前触れを見て、感じ取り、予測を立てることができるのだ。 スキル発動の可否から、俺に攻撃が当たるまでの時間を正確に導き出してくれる。


「時間の問題だな」


「なんのことやら」


ローレイフが言ったことは、実際的を射ている。 俺はもうほとんどのアイテムを使い果たしており、HPもMPも限界は見えている。 それに対し、ローレイフはまだアイテムを一切使用していない。 どれほど持ち込んできているかは分からないが、対人を想定してのことだったのなら、相当数は積んでいるはずだ。


更に加えて、ローレイフは耐久型の騎士。 全クラスで最強の防御力を誇る騎士が、とことん防御を追求したら、その鉄壁っぷりは化け物だ。 そこらへんのボスなんか目ではないくらいの硬さを誇る。


状態異常も、魔法も効かない。 しかし、それと引き換えに攻撃力はかなり低い。 それでもこの場所とこの状況では、この上なく有利なのはローレイフの方だ。


……どうする、この場合は。 最善手は……あるか?


『シンヤ、ローレイフの攻撃……食らいっぱなしだとしたら、どのくらい耐えられる?』


「あ? 食らいっぱなし? そりゃ……そうだな、持って一分ってところかな。 俺のHPと、あいつの攻撃力で考えると」


『オーケー。 シンヤ、もう一度ローレイフとぶつかって。 出来る限り、攻撃を食らわないように。 それと、ローレイフを左右に振るように動いて』


「左右に? ああ、分かった」


ランカの言葉に返し、俺は再度ローレイフを視界に収める。 動き自体は鈍重だが、硬さが尋常じゃねぇ。 俺のクリスですら、斬りつけたところでまともにダメージを与えられない。 さすがに高レベル騎士ともなると、相性が悪いな。


「そのやり方なら、俺はあと数時間は戦える。 どうする? シンヤ」


「言ってろ。 心配しなくても数分で終わらせてやるよ」


ランカには、何か策があるはずだ。 ならば、俺はランカに言われた通りに動き、あわよくばそのままローレイフを狩る。


頭の中でそれらを考え、再び地面を蹴り飛ばす。 ローレイフの場所まで一瞬にして辿り着き、まず俺は正面で停止した。


「……相変わらず、桁外れのスピードだな。 まともにやれば、俺に勝ち目はなさそうだ」


「ばーか。 まともにやらなくても、お前に勝ち目なんてねーよ」


振り抜かれた剣を、頭を横にして躱す。 頬のすぐ横を剣が通り抜け、俺はそれを確認し、今度はローレイフの右へと回った。 その回り込む一瞬で、一……二……三……四発、斬り付ける。


ローレイフは一瞬遅れて反応し、俺の方向に向き直る。 HPは……やはり僅かしか削れていない。 せめて、クリスを刺すことが出来れば出血でHPを奪うことができる。 だが、問題は麻痺状態にしなければすぐに止血されるであろうということ。 それ用のアイテムも、あいつなら所持しているだろう。 それに刺せそうな場所は首か手、あとは顔だな。 麻痺らせてアイテムを使えない状況まで持ち込み、露出した部分にクリスを刺すこと。 それがやはり条件か。


「おっせーよ」


再び俺目掛けて縦に振られた剣を、体を数センチずらし、避ける。 そのまま剣は地面へとぶつかり、甲高い音が辺りに響いた。


俺はそれを音で確認し、今度はローレイフの左へ回り込む。 移動の際に斬り付けるも、焼け石に水でしかない。 こうなってしまっては、持久戦になるしかなさそうか?


「パラライズ!」


真後ろから声が聞こえた。 俺はそれを聞き、振り返る。 すると、明らかに「しまった」という顔をしているランカが見えた。


ランカが使う呪術魔法には、二通りの使い方がある。 数秒後に対象エリアを起点として発動する『設置』と、そのまま対象に向けて発動する『対象指定』だ。 普段は罠のような使い方をするため前者が多いが、こういうお互いを認識した上で行われる、俗に言うPvPでは後者の方が有効である。 つまり、今ランカが放ったのは後者の『対象指定』で、ターゲットはローレイフ。 しかし、そのターゲットとの間に俺がいるということは。


「あの馬鹿……ミスりやがった!」


咄嗟に、俺は回避行動に入る。 しかし、そのチャンスをローレイフは逃さなかった。


「ソードスタン!!」


ローレイフの剣は、俺の体を捉える。 威力自体はゴミみたいなものだ。 だが、そのスキルの最大の特徴は対象を移動不可状態へとすること。 攻撃を受けている状態では詠唱を挟む全ての行動にタイムラグが発生するRMTにおいて、そのスキルの対人効果は絶大だ。


「ぐっ……!」


俺の足はその場に固定され、微動だにしない。 そしてそのまま、ランカの魔法は俺を捉えた。


「シンヤ!!」


ランカの奴は、わざとやったわけじゃない。 あいつも、こういう久し振りの対人でとちっただけだ。 一回のミスが勝敗を決することもあるのが、対人戦だ。


運が悪かったわけでも、俺たちのステータスが足らなかったわけでもない。 ただ、場数が足りなかった。 冷静に対処していれば負けるはずのない戦いで、油断し過ぎていた。


「決まったな」


ローレイフは言い、俺の背中に剣を突き刺す。 秒間毎のダメージは大した量ではないし、この剣には出血効果もない。 だが、武器を刺された状態では確実な継続ダメージが存在する。


「ランカの魔法では、俺のHPを削り切ることはできない。 加えて打たれ弱さはお前よりも低い。 俺の勝ちだ」


シャドウとの戦闘が終わり、半分ほどまで回復していたHPバーは、見て分かるほどに減っていく。 あと三十秒もすれば、俺は死ぬ。


「俺が死ぬまで、分からないだろ?」


俺は倒れながらも笑い、言う。 俺のクリスにはオプション効果が全部で七つだ。 今は、ひとつ目しか付与していない。 そしてこの場面、ふたつ目の効果を使えば切り抜けられる。 俺のクリスに付与されたふたつ目のオプション『異常状態の無効化』を使えば。


あまり、使いたくはない。 このオプション効果は四つまでならランカも知っているが、逆に言えば四つまでの能力ですら、ランカしか知らない。 ある程度まで外せばローレイフを殺すことだって容易い。 だが、問題はローレイフが再び口座を開き、ゲームにログインしたそのときだ。 俺の武器の情報が漏れれば、それだけ戦いづらくもなる。 本当の万が一という状況で、使えなくなる。 だが……そうも言ってられないか。


「……仕方ねえ」


言い、俺がクリスのオプションを解除しようとしたそのとき。


「コンディコンバーション」


ランカは言い、俺に魔法を放つ。 見ると、黒い霧のような物がランカを中心に発生し、俺の方へ飛んでくる。 そしてドス黒い何かが俺の体を通過し、ローレイフの体に入り込んだ。


……なんだ? 今のは。


そんな疑問も、実感によって解ける。 ローレイフが膝を崩し、地面に突っ伏した。 それとは逆に、俺の体は自由を取り戻す。


「ランカ、一体何を」


俺は起き上がり、ランカに尋ねる。 するとランカは俺に近づき、言った。


「敵を騙すなら味方から。 この魔法さ、少し詠唱に時間がかかりすぎるんだ。 だから、シンヤに囮になってもらったの。 いくら耐性があっても、内部から強制的に食らえば別だよ」


魔法……まさかこれは、状態異常の移し替えか? 普通に魔法を撃ってもローレイフには効かないから、俺を利用して外からではなく、内部で処理を行ったってことか?


「そんな魔法を使えたなんて、聞いてねえぞ俺……」


「そりゃ、黙ってたからね。 たとえシンヤ相手でも、隠したいことってのはあるんだよ。 シンヤだって、あるでしょ?」


笑い、ランカは言う。 確かにあるにはあるが、俺の場合は「教えたくない情報」じゃなく「教えられない情報」なんだ。 こればっかりは、言えない。


「……クソ。 俺まで騙しやがって。 今度からそういうのは事前に言っとけ」


「ふふ、考えとく」


ランカは舌を出して言う。 言っても聞くとは思えないな、この態度じゃ。 まぁ……それで勝てたっていうのも事実か。 俺が知っているような素振りをしていれば、ローレイフはランカを叩いていた可能性だってある。 そういう可能性も踏まえて、ランカは黙っていたのだろう。


「そんな魔法もあるのか……勉強不足だな、俺も」


呟いたのは、ローレイフ。 仰向けに倒れ、半ば諦めて笑ってさえいる。 俺はそんなローレイフのもとまで歩き、しゃがみ込み、そしてクリスを突き付けた。


「っつうわけで、俺らの勝ちだ。 言い残すことは?」


「そうだな。 次はお前ら以外を狙うようにしよう」


「……あは」


つい、笑ってしまった。 面白い。 思わず笑ってしまうほどに面白い。 こいつ……おいおい、最高だ。 PKは懲りたとか、もうしないとか、助けてくれとか、そういうことを一切言わない。 こうやって殺されるっていうのに、まだPKを続けようとしている。 こんなに愉快な奴なんて、そうそういない。


「シンヤ」


ランカの声が聞こえ、俺はランカに視線を向ける。 すると、ランカは満足そうに笑っていた。 決まり、だな。


「なぁ、PKは楽しいか?」


「ああ、これ以上ないほどには、楽しいな」


俺の質問に、ローレイフはそう答えた。 だから、俺は言う。


「お前、神楽に来い。 俺たちと一緒に組んで、もっと楽しいことをしようぜ。 他の地方には、PKギルドってのも存在する。 ソロでやるよりもよっぽど楽しいぞ」


「……本気か? 俺は、お前らのことを裏切るかもしれないぞ」


「良いよ別に。 そんときゃ、またこうやってPKしよう。 ただし、次は殺す」


「ふふ……はは……はっはっはっはっは!! 分かった、入ろう。 そして入った以上、俺は全力を尽くそう」


ローレイフは盛大に笑い、そう言った。 俺もこいつとは一緒にやってみたい。 あんな良心の塊のような奴らを淡々と斬り捨てたこいつの行動は、心底面白い。


「よーし、じゃあ祝勝会!」


「お前またかよ……」


ランカは言うと、奥の部屋へとスキップする勢いで進んでいく。 そんなランカを追いかけ、俺も歩き始めた。


「ひとつ、良いか」


「ん?」


後ろからかけられた声に、俺は背中を向けたままで返す。 最終的な目的とか、その確認でもするのだろうか?


「俺はいつまで、こうして麻痺で倒れていれば良い?」


「……ランカ! お前麻痺治してから行けよ! おい!!」


こんな風にではあったけど、俺とランカのギルド、神楽に一人が加わった瞬間だ。 そして、神楽が本格的に活動を始めた日の記録。


今回のこれがどのように世界に広がっていくのか、俺たち三人は全く知る由もなかったのだ。

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