Episode11
「はぁ!? お前それまだ根に持ってたのかよ!?」
つうかどんだけ活き活きした表情だこの野郎……。 決めた、あいつぶっ飛ばす。 その決意をして立ち上がろうとするも、体が動かない。 ソウルショットのような吹き飛ばしだが、風に乗るような感じで動くこれならラグはないはずなのに……どうして。
その謎を解決したのは、俺のステータスバーだった。 俺のHPバーが、黄色枠で囲まれている。 これは確か、麻痺状態……。
「ランカてめぇ!! 麻痺も乗せたのかよ!?」
「勿論だよ。 あっはっは!」
最低の奴だ……。 不意打ちで、しかもボス部屋で、仲間に向けて麻痺を乗せた魔法を撃つなんて。 ランカのいきなりの行動に、メンバー全員が目を丸くしている。 そしてそんな顔が、影で覆われる。 こりゃあれだ、後ろを向いたら何かが居るパターン。 そんで、この場合で居る奴ってのは。
「黒炎斬!!」
顔を後ろへ向けると、そこにはボスであるシャドー。 剣を振り上げ、俺へと振り下ろす瞬間だった。
「待て、待て待て! 先にあいつやれよ! 俺も協力するから――――――ぐあっ!」
当然、NPCには会話なんて通じない。 中には人工知能で会話をしてくるNPCも居るには居るが、モンスターに関しては完全なるプログラムだ。 その所為で、シャドーの剣は俺の頭部を思いっきり叩く。 で、勢いそのまま俺の頭は地面に衝突する。
「……」
HPバー自体は、ぴくりと動いただけだ。 食らっているダメージも、恐らく一桁台である。 これならば俺の三万を超えるHPを削る頃には、来週の定期メンテナンスが始まるくらい時間がかかる。 それは、良い。 だけど、それ以上にムカついた。
「この野郎……人の話聞けよ、なぁ、なぁなぁなぁ」
麻痺も、解けた。 俺の体は自由を取り戻し、立ち上がる。 そのままクリスを腰から抜き、シャドーへ一歩ずつ近づく。
「黒炎波!!」
シャドーは近づいた俺に、至近距離から魔法を放つ。 俺の体は黒炎に包まれるが、HPバーはぴくりと動いただけだ。
「あぁああああああああああ死ね!!」
クリスを握りしめ、一撃突く。 容易くそれはシャドーの頭部へと命中し、一瞬でシャドーのHPバーは消滅した。
「……おおー! さすがシンヤ! お疲れー!」
「あははは、次お前な」
さすがに腹が立ったね、煮えくり返った。 敵モンスターと協力してくる仲間なんて俺は初めて会ったよ。 生まれて初めてだ。 最早仲間じゃねえ。
「いやいや、実はあれ誤爆でね。 たまたまシャドーさんの直線上にシンヤが居てさ」
「そりゃ、面白い話だ。 腹が捩れそう」
殺しはしないものの、HPバーをミリ単位まで減らしてやろう。 そう決めた俺は、足に力を込める。 ランカとの距離は約五十メートル、俺のAGIならば、一歩で辿り着ける。
「……覚悟しろよおい!」
言い、地面を蹴った――――――――が、動かない。 俺の位置は、そのままの位置から微動だにしない。 なんだ? ランカの奴、移動を止める魔法なんて使えたか?
そんな疑問も、すぐに解消する。 後ろから聞こえた声によって。
『ぐ、がが、ぐぁああああああ!!』
これは、イベントか? 俺はその場からは動けないものの、体の向きを変え、声の主を見た。 すると、そこには膝を付いたシャドーの姿があった。 というか、こんな雑魚ボスで討伐後にイベントが発生するのか……? そりゃレイド級と言われる大勢のパーティで挑むのが前提とされているモンスターならば、こういう討伐後のイベント会話ってのはお決まりではあるが。
『そう、か……。 貴様ら、アルダイルの冒険者達か……! 忌まわしき大天使ハーリオンめ……我が欲望を抑え込もうと言うのか!! 我を今度こそ、消滅させようというのか!! だが、そうはさせん!!』
『残剣よ、我を喰らえ。 そして我と同化せよ……。 真の力は、我の中だ』
……待てよ。 このパターン、ここまで来ればさすがに察しがつく。 そして、名前が「シャドー」だったことにも、このクエストの適正レベルが百を超えていたことにも。
『うが、がぁああああああああああああああああああ!! はぁあああああ……!!』
シャドーが持っていた剣は闇を増幅させ、シャドー自身を包み込む。 そして、黒い気を纏いながら、そいつは立ち上がった。
『……ふ、フハハハ! 生まれ変わったようだ。 ゴミのような餓鬼どもめ……さて、続きを始めよう』
「なーるほどね。 そういうことかよ……」
止まっていた時は動き出し、それが同時に戦闘開始の合図だ。 しかし、俺はそいつの名前を見て目を疑う。 そこに表示されていたのは……真っ赤に染まった、闇騎士・シャドウという名前だった。
こいつ、俺よりもレベルが高いってのか? 名前が赤い場合、その差は最低でも……三十だ。 これは、さすがにやべえ。
「おい、全員タウンに帰還しろッ!! こいつは無理だ!!」
「……シンヤ? もしかして、そいつの名前」
「そうだよ! 俺から見てもこいつは赤い! 相当やべえぞ!!」
その言葉に、真っ先に反応したのはローレイフ。 即座にアイテムパネルを選択し、タウンスクロールを取り出す。 そして詠唱を始めるが。
「……帰還不可能? このエリア、帰還不可だぞ!!」
おいおいおい、おいおいマジかよ。 そんなクエスト、今まで存在しなかったぞクソが! まったくとんだ災難だ。 軽々しく引き受けるクエストじゃあなかったな。 いつものように、もっと事前に内容を調べておくべきだったよ……! 誤算だ、ミスった、甘く見過ぎていた。 ならば、どうする。
「闇の炎よ、我の前に顕現せよ」
そんな考え事をしている時間も、どうやらない。 殺らなきゃ、殺られるまでだ。 ここで死ねば、全てが終わる。 俺はまだ良い、最悪また十万貯めてスタートだ。 数年使って貯めた装備はパーになるけどな。 それより問題は……ランカの方だ。 あいつは多分、相当な額を貯め込んでいる。 病気を治すための金を貯めてるんだ、ちまちま引き出したりもしてねーだろう。 一刻も早く治療をしなければいけない病気、そして治療法が見つかったときに即座に払えるだけの金を用意すること、ランカの性格的に、無駄は省くはず。 ランカを助ける義理は……あるな。 さすがにそれは、ある。 腐っても、あいつだけは俺の仲間だ。
「防御魔法……おい山ノ川! 全部のMP使う勢いで防御魔法張れッ!!」
「ほ、ほほ! 了解しましたぞ!!」
位置関係的に、俺の位置はシャドウとランカたちに挟まれる形だ。 山ノ川は詠唱を始めたが、シャドウの詠唱の方が僅かに早い。 このままでは、防御魔法を使う前にシャドウの魔法が発動される。
……やっぱり、最悪な日だなおい。
「クソが」
詠唱を遅くする方法は、ひとつある。 詠唱中の奴に攻撃を加えることだ。 そうすれば、攻撃を受けている間は詠唱時間が伸びる。 仰け反りが発生するまで攻撃を加えれば、詠唱のキャンセルもできる。 まぁそのキャンセルは無理にしても……だ。 遅らせることくらいは、できる。
「ッ!!」
俺はそのまま地を蹴り、シャドウとの距離を詰める。 そしてシャドウにクリスでの攻撃を加えた。 スキルを使用し、シャドウの脚部、腕部、胸部を斬りつける。
攻撃回数自体は、相当なものだ。 だが、さすがにレベル差が三十もある敵相手だと仰け反りは難しい。 詠唱の遅れも、微々たるものでしかない。 更に言わせてもらえば、HPバーも十分の一ほどが削れただけだ。
「ダグズフレイム」
「ほほ! アースウォール!!」
直後、炎が部屋全体を覆う。 あり得ないほどに広い範囲のそれは、受けることが前提の攻撃だ。 受けられるほどの耐久力があることが、前提だ。
悟り、俺は咄嗟に後ろへ飛ぶが、その炎を腕にもろに食らった。
「がはっ! 畜生……って、まじかよこれ」
飛んだ勢いのまま、壁に激突する。 それを見たランカは俺に駆け寄り、回復ポーションを受け渡す。 ランカがそこまで慌てていたのも、無理はない。 たった炎の一玉を食らっただけで、HPバーが三分の一は削れている。
そしてそれは、完全に防御魔法圏内に居た他の面子もだ。 ローレイフを除き、トルトとカインはHPバーが半分以上減り、ランカと山ノ川とカラフルのHPバーは、残り数ミリまで減っている。 唯一HPをかなりの量保持していたのは、ローレイフ。 恐らくは耐久型のステ振りと、防御重視の装備類か。 さすがの騎士様、タフなこった。
「し、シンヤさん! これは……どうすれば」
山ノ川は防御魔法を張り続け、俺に問う。 どうすればなんて、俺が聞きたいくらいだ。 この場面で使えそうな駒は、俺とローレイフ、そして山ノ川とランカだ。 他の奴らは駄目だ、最早戦意すら感じられない。 なら、その面子でどう戦う? あのシャドウって奴は、ただの魔法一発でここまでの威力を叩き出してきた。 持久戦に入れば、確実にこれは死ぬ。 ならば短期決戦になるが……そうなると、全員が無事でいられる保障がない。 ローレイフを使えば、必然的に持久戦になる。
いや待て。 そもそも、俺はどうしてこいつらと協力することを考えてんだ。 それにこんな戦い、久し振りだ。 ひょっとしたら俺よりも強いかもしれない敵との、サシでの勝負。 ちょっと、面白そうだし楽しそうじゃねーかそれ。
「はは、あははは。 おい、お前ら全員後ろ引っ込んでろ。 山ノ川は、そのまま防御魔法を張り続けろ。 ランカは対物対魔の呪術結界張っとけ。 魔法が撃たれたときのために、HPは確保しとけよ」
「……ちょっと、シンヤ。 一人でやるっていうの? 私の魔法を撃ち込めば、ひょっとしたら」
「手出しすんなよ。 久し振りに楽しそうなんだ。 それにそんな「ひょっとしたら」に賭けるつもりもない」
自分で見たことしか、俺は信じない。 可能性に賭けるつもりもない。 俺はただ、目の前に現れたこいつを殺すだけだ。 ずっとそうしてきたように。 NPC相手でも、PC相手でも。 PCほど殺ったときの快感はねえけど、良い力試しにはなる。
「もしも邪魔したら、ランカ――――――お前でも殺す」
俺はランカの目を見て言う。 声色は、自分でも驚くほどに冷たかった。 しかし、ランカは動じずに答える。
「……馬鹿シンヤ。 分かった、けど死ぬな」
ランカは言うと、俺の背中を強めに叩く。 そのおかげで、少しだけ気持ちが落ち着いたようにも感じた。
思えば……いつも、そうだったっけ。 俺がやろうと思ったことを、ランカは否定しても最終的には受け入れる。 俺がしたいように、ランカはさせてくれた。 別に俺の方が偉いってわけでもないのに。 ランカは、俺を認めているんだ。 だから、最後にはこうしてやりたいようにやらせてくれる。
なら、そうだ。 目の前に現れたこいつを、殺さねえと。 いつものように……楽しくね。




