Episode10
「なーんだ、やっぱりこれ調整ミスっしょ。 全然らくしょーらくしょー」
あれから数分、俺たちは最初のフォーメーションを保ったままでダンジョン内を進む。 基本的に一本道のここでは、部屋に入る度に戦闘が始まるのだが……。
「グラビティ」
ランカの魔法一発で、部屋の中に五、六匹出てきたモンスターが一撃で葬られる。 こうして目の前で見せられると、トルトが主張する「調整ミス」というのも現実味を帯びてくるな。
「わ、わわわ! ら、ランカさんすごいですね! わた、私憧れますッ!!」
「ふふ、そう? いやいや、私ってやっぱりINT極だからさぁー。 魔法の威力強すぎちゃうんだよね」
「さ、さっすがです! いつかランカさんみたいになりたいですッ!!」
「やめとけ、ろくなことないぞ。 てか、お前は引退するんだろ」
それに召喚士じゃ、ランカみたいな「全部消し飛べ、えへ」みたいな魔法は使えねーだろ。 ちなみに今のセリフはランカに対する俺の脳内イメージだ。 大体合ってるんじゃないか。
「そ、そそそうでしたッ!! あ、あはは。 つい、もっと続ける気分でしたよ。 あは、あははは」
そこでどうしてキャラがラグる。 こいつ、本当に良く今までプレイできたな……。
俺はザザザとの音を立てるカラフルから視線をずらし、ダンジョンの奥を見つめる。 不気味なほどの静けさと、冷たい空気だ。 独特な、嫌な感じもする。
あまりにも単調なダンジョンだ。 単調なのが遺跡系の特徴でもあるが、適正レベルに見合っていないとしか思えない。 トラップの数も、出てくるモンスターの強さ、量も大したことはない。 なんなら、俺とランカ抜きでも攻略できそうな難易度といっても過言ではない。
そうは思うのだが、引っかかる。 あのザッツ・ライがそんな単純なミスをするだろうか? 今まで、こんな馬鹿みたいな調整ミスはなかったというのに。 俺自身、とあることからこの運営会社は半信半疑ではあるが……ゲーム内のバランス的には、絶妙な設定をしてきているはずだ。
一見壊れ性能とも言えるランカのデスラムだって、一度使用すればMPはほぼ空になる。 魔法スキル硬直も他に比べて長く設定されているし、放つタイミングは正直難しい。 タイマンならば最強だとは思うけど。
「……神楽の二人、ちょっと良いか」
「ん?」
考え事をしながら最後尾に居る俺に話しかけてきたのは、ローレイフだった。 フォーメーションを守れと言おうとしたが、見るとどうやら既に最初のフォーメーションは崩れている。 さすがにここまで楽なダンジョンだと、そうするのも面倒だと感じたのだろう。
「お前らは、プレイヤーキラーだったな。 他のプレイヤーを殺すとき、何か思うことはあるか?」
それは良く聞かれることだ。 そして俺やランカが答えると、大体相手は激昂する。
「思うこと? えっと、この人強かったなぁーとか?」
その問いに返したのは、ランカ。 言葉を聞き、ローレイフは表情を変えることなく言う。
「申し訳ないとか、悪いことをしたとか、そういう罪悪感だ。 自責の念と言っても良い。 そういうものに苛まれることはあるか?」
「ないね」
今度は、俺が返す。 それを聞き、ローレイフは小さく笑った。 怒るわけでもなく、ただただ笑った。
「そうか。 プレイヤーキラーは、そんなものか」
「中には感じる人も居るんじゃない? けど、そんなことを感じるくらいなら止めてしまえって思うよ」
だな。 全く同意見だ。 俺たちがPKをする一番の理由は、楽しいからだ。 もしかしたらそれは、俺もランカもリアルなんてクソだと感じているからかもしれないし、そうではないかもしれない。 ゲームを始めたその瞬間から、俺たちはそういう奴だったのかもしれない。 そんなことは分からないが、ただただPKをしているときは楽しいというだけだ。
「なるほど、ありがとう」
ローレイフは言い、再び先頭へと戻るために歩みを早める。 なんのための質問だったのか、俺とランカには分からない。 正確に言えば、分かろうとしていなかった。 他人がどのような気持ちを抱いているのかなんて、どーでもいいことでしかないから。
「お! これ、ボス部屋じゃない?」
「っぽいな。 てか、本当にあっさりだったじゃん。 こりゃ、シンヤも余計な心配だったみてえだな」
トルトに続き、カインも言う。 なんだお前殺してやろうかと一瞬思うが、なんとか我慢する。 次に会ったときの楽しみということにしておこう。
「ほほ、では最後にボスをさくっと倒しまして、終わらせましょう。 カラフルさん、良い思い出にはなりましたかな?」
「ももも、勿論ですッ! わた、私なんかのために、こうしてお手伝いをしてくれただけで感動ですッ! 泣きそうですッ! 特に、クエストを見つけてくれたローレイフさんには感謝していますよ!」
「……クエストを見つけた? このクエスト、ローレイフが見つけたのか?」
てっきり、話の流れからして山ノ川が見ず知らずの奴から情報を貰ったものだとばかり思っていたが……違ったのか。
「ええ、そうですぞ。 実はですな、ワタシたちいつもの五人がカラフルさんの思い出作りをしたいと話をしていたところに、ローレイフさんが通りがかってですな」
「ん? お前ら、全員が身内じゃねーの?」
「いやいや、ワタシたち五人はそうですが、ローレイフさんとはつい先月知り合ったばかりですな。 もう何度か、クエストを手伝ってもらっておりますぞ」
ふうん。 まだ知り合って間もない。 そして、この残剣がクエスト報酬のクエを見ず知らずの奴に教えた。 くせえな。 その二つだけで俺は何か裏があると思った。 だが、狩りしか頭にない奴はたまに不利益すぎることをしたりする。 わっからないな……。
「……どうせそんなことをする奴はいないって思ってるんでしょ? シンヤの考えそうなこと」
「うっせえ。 お前もそう思うだろ?」
「さー。 狩り大好きな人のことは分からないや」
ランカは俺にだけ聞こえるように言い、笑う。 俺が考えていたことと同じことを言いやがった。 けどまったくだな……考え方が違えば、思うことも違う。 それにそんな考え、俺やランカには一生かけても分からないことだ。
「ふん、ただの気まぐれだ。 引退式をすると言っているのを聞いて、丁度良さそうなクエストを見つけていたからな」
ローレイフは言いながら、ボス部屋の扉に手をかける。 やっぱり分からねぇ。 こんな美味そうなクエスト、普通だったら身内だけに回して得をするか、その情報自体を高値で売っても良いくらいだ。 それを無償で善意から教えるなんて、頭が狂っているとしか思えない。
「あ、待ってくだされ。 一応、入る前にバフを回しておきます故」
山ノ川は言い、俺たち一人一人に精霊魔法をかけ始める。 精霊魔法のバフというのは随分久し振りにもらったが、知らない内に様々な効果が増えていた。
攻撃の強化から、防御力の強化、武器に属性の付与、魔法威力の増加から、スキル使用時のMP消費量減少、HP自動回復量の増加、MP自動回復量の増加、そしてその速度の増加。 山ノ川が習得している魔法は、そんなところだった。 聖魔法師と違い、精霊師のバフは基本的に長持ちする。 聖魔法師が瞬間的に強力なバフを施すように、精霊師は効果こそ聖魔法師に劣るが、持続的なバフだ。 対人ならば聖魔、狩りなら精霊、RMTでは常套句にもなっている。
対人戦、所謂攻城戦のことを指して主にそう言われるが、そこで活躍するのは聖魔法師、そしてドラゴンライドと呼ばれるスキルを持つ龍騎士だ。 まぁドラゴンについては割愛しよう。 俺ですら見たことがないし、RMT公式サイトにある掲示板にも、ドラゴンの画像は上がったことすらない。 存在はするらしいが、それを使役した者は見たことがない。
話を戻そう。 つまり言ってしまえばPKでは聖魔法師の存在はでかいが、そもそもPKを行う者が非常に少ないことと、一般プレイヤーが行う対人は攻城戦に限られるということだ。 しかし、その攻城戦自体が不定期なため、人気があるクラスではない。
そして攻城戦では設定された制限時間内は周囲エリアの全てがデスペナルティ免除エリアとなる所為で、俺もランカも参加したことはないけどな。 噂で聞く限り、そんなところというだけだ。
「あ、ありがとうございます。 わた、私がここまで頑張れたのも、皆さんのおかげですッ!」
「良いって良いって。 カラフルちゃん、そんじゃあ最後に挨拶、頼むぜ」
感動からか、顔や腕、足のホログラムを崩しながらカラフルが言うと、カインが反応する。 というか、カラフルのは中身の感情が昂ぶっているんじゃなくて、回線が不安定すぎる所為なんじゃないかと思い始めた。 こいつは地下数キロメートルとかから接続でもしてんのか。
「で、ででではッ! 皆さん、今日まで本当にありがとうございましたッ! それと、ローレイフさん、シンヤさん、ランカさんも私のためにありがとうございます!」
とびっきりの笑顔で、カラフルは言う。 正直こういう流れは嫌いだが、まぁ最後くらいは別に良いかとも思ったりする。 そんな笑顔を壊してやりたいと若干思ったものの、それは人としてどうかとも思うしな……。 ああでも、既にわりと人としてどうかということもしているから、別に良いか。
……ま、今日はやめておこう。 残剣も欲しいし。
「気にするな。 俺はただ、そうするべきだと思っただけだ」
ローレイフは返し、扉を開く。 その扉は俺たち七人が並んでも尚余るほどに幅広く、でかい扉だ。 要するに、ボス部屋……ということになる。
そんな扉はあっさりと開き、中の光景が目に入る。 奥に構えているのは、人間がそのまま二倍になったほどの大きさのボスだ。 見た目は、黒い騎士……か。
そして黒騎士が立ち上がると、俺たちの体が微動だにしなくなった。 イベント会話か。
『良くぞここまで来たな、間抜け共め。 我が名は黒騎士・シャドー。 我の剣を欲する愚か者どもめ、我が剣の錆にしてくれるッ!!』
シャドウではなく、シャドーか? テキストミスか、それとも何かワケがあるのか。 どっちにしても、ボスの名前は俺から見たら青色……レベル差が三十以上か。 同レベル付近の白でもなく、自らよりレベルが高い場合の赤でもない。 ただの雑魚か。 この面子の中で一番レベルが低いカラフルにも、名前は白色に見えているだろうな。
『震え、怯え、逃げ惑え!!』
イベント会話が終わり、俺たちの体に自由が戻る。 さて、俺は高みの見物をした方が良いか? これなら、俺が手を出したら一発で終わってしまう。
そう思ったときだった。
「ウィンド……ブレイク!!」
「がっ!」
後ろから、知った声が聞こえた。 そして同時に、前方へ勢い良く俺の体が吹き飛ぶ。
「いってぇ……おいお前なんのつもりだ!?」
俺に魔法をぶっ放したのは、一人だ。 この中で攻撃魔法を使用できる奴、そして俺を吹き飛ばし、わりと大きいダメージを与える奴。 そんなことができるのは、一人しか居ない。
「さっきの仕返しだ! 私のことを馬鹿って言った仕返し!」
どうやら、敵はこのボスだけではないらしい。




