Episode9
「なんか、微妙なクエストっぽいね」
「んだな。 ボスもレベルがそこそこあれば、一人で倒せるくらいだし。 なのにクエスト報酬が残剣か……釣り合ってないんだよな、どうにも」
俺とランカはいつもの居酒屋で、二人出話をしている。 その内容というのも、今回……今日行われるクエストの内容と報酬についてだ。
残剣・シャドウ。 俺のクリスよりはランクが下の武器になるが、かなりのレア武器。 だからクエスト内容に比べて報酬が豪華すぎる。 このクラスの武器が得られるクエストだと、それ相応のパーティで挑まないと危険なはずだ。 しかし、この『残剣の欲望』と呼ばれるクエストは敷居が随分低いように思える。 少なくとも、外から情報を見た限りでは。
「……引き受けるだけ無駄だったかなぁ?」
「そうでもねーよ。 報酬で残剣が貰えるなら、売り捌けば結構な金になる」
「おお、その手が。 それでシンヤがご飯を奢ってくれると」
嬉しそうにランカは笑う。 なに言ってんだこいつ、ついに頭がおかしくなったか。 いつかなるとは思っていたけど、予想よりはえーな。
「お前が買い占めたカップラーメンまだ残ってるだろ。 それ食ってろ、バーカ」
「バカ? バカ、馬鹿? 私に対して?」
笑い、ランカは立ち上がる。 ヤバイ、この流れはあれだ。 俺のキャラがラグる流れだ。 ランカが一番良く使う魔法によって。 というか、一番使う魔法が俺に対するソウルショットってマジでどういうことだ。 何かがおかしい気がしてならない。
「おっと! 山ノ川からメッセージだ。 ええっと、そろそろ集まってくれーだってさ。 ほら、ランカ行くぞ」
「待ておい!! 逃ーげーるーなッ!!」
逃げ足ならば、負けない。 しかし、俺はランカの恨み深さをすっかり甘く見ていた。 リアルで知り合ったことで、俺もひょっとしたら油断をしていたのかもしれない。
「よしよし、全員揃っていますな。 では、僭越ながらワタシからご挨拶を」
クエストNPCは、セントラルの最北端に位置する協会の裏に出現していた。 普段はこんな場所、確かに誰も寄り付かないだろう。 公式からの案内がある方が珍しいRMTでは、クエストの発見もまた、RMTならではの楽しみ方だ。
「えー、今日はカラフルさんのためにお集まり頂きありがとうございます。 彼女の引退はとても悲しいですが……だからこそ! 今日は良き思い出を作れるように頑張りましょうぞ!」
「はいはい、おい誰でも良いから早くパーティ作ってくれよ。 さっさと行こうぜ」
「……シンヤさんは、もう少し雰囲気というものをですな」
知るか。 この空気、非常に痒くて嫌になってくるんだ。 同時に俺の中のPKしたい度も増していっているんだからな。 一応、今回は俺が手を出すことはしないけど。 多分な、多分。
「あーははは、ごっめん山さん。 オレも早く行きたいわー。 ってわけでパーティ組みまっす!」
トルトは言うと、集まっているメンバーをパーティに招待し始める。 やがて俺のもとにもウィンドウが表示され、その承諾を押す。
「うお……すげえHPだな。 シンヤって言ったか? お前、レベルは?」
驚きの声をあげたのは、今のカインだけではない。 ランカを除く全員が、驚愕に満ちた顔をしていた。
……やっぱり嫌だ。 こういう空気は好きじゃない。 パーティを組んでもステータスが見られない機能を実装して欲しい。
「パーティ組めば、コマンドで見れるだろ?」
言いながら、俺自身パーティコマンドを押してメンバーのレベルを確認する。
俺とランカを抜けば、一番レベルがあるのはローレイフか。 というか、こいつだけ他の奴らと比べて頭ひとつ抜けているな。 次にレベルがあるのは、トルト。 レベルはそれほど高くなく、グラグルトの下っ端という認識は間違いではなさそうだ。
カイン、山ノ川、カラフルはほぼ同ステータス。 となると、前日の会議同様にローレイフがメインタンク、カインがサブタンクか。 つうか、この難易度なら俺とランカ二人で突っ走れば五分で終わりそうだぞ。 それをやったらなんだか人として駄目な気がするから、やらねーけど。 いやPK大好きでやってる時点でわりと駄目か。
「は、ちょ、な、ななななななんですかこれっ!? わ、わたしこんなレベル初めて見ましたよッ!?」
「カラフルさん落ち着いて落ち着いて! キャラがラグってますぞ!!」
ザザザ、とカラフルのホログラムが音を立てて揺れる。 こいつ、プレイしていたときは一日に何回強制切断喰らってたんだろうか。 俺は未だになったことがないから、どんな気分なのか気になるな。
「いやいやいや、つっても山ノ川、こりゃ無理もねーよ。 レベルが百を超えてるなんて、俺も初めて見たぞ」
「うっはぁ……うちのギルマスより高いっすよ。 こりゃPKされたら殺られるって。 あっはっは」
……やっぱ、中に入ってからパーティを組んだ方が良かったか。 なんて思っていると、足に少しの違和感を感じる。
「いてっ……お前人の足踏むんじゃねーよ!!」
「あ、踏んでた? ごめんごめん、全然気付かなかった」
すげえ棒読みだ。 絶対わざとだこいつ……。 一体、何がそうさせたのやら。 白い髪を掻き上げて笑う姿は絵になるが、行動はゴミクズのそれだな。
とまぁ、こんな感じでRMTには痛覚というのが存在する。 そうは言っても、モンスターに殴られたときにそのままの威力が痛みに変われば普通に死んでしまうので、感じる痛みは百分の一ほど。 強力な魔法を食らったりすると腕が吹っ飛ぶことはあるが、それで軽くつねられるくらいの痛さだ。 つまり、今ランカは相当な威力で俺の足を踏んだということ。 そう考えると恐ろしいな……。
「ほほっ。 いやはや、これならクエストも余裕ですな。 というわけで、さっさと行っちゃいましょう。 トルトさん、受けちゃってくださいな。 パーティリーダーのトルトさんが受けないと、クエも始まらないので」
「はいはいりょーかいっと。 って、ローレイフどした? 浮かない顔だけど……あー、もしかして自分よりレベル高いの居て嫉妬かぁ?」
「別に、そういうわけじゃない。 クエストの難易度的に、少し過多な編成だと思っただけだ」
ローレイフは半ば呆れたように笑う。 こういう反応をされると、なんだか俺とランカは居ないほうが良かった的な立ち位置になるな……。 となると、あまり出しゃばった真似はしないでおくか。 全員ワンキルで進めてたら、山ノ川が言う思い出作りにもならねーだろうし。
「万全を期すって意味なら、良いけどな。 それにさ、ローレイフさん。 これってこの前のアップデートで追加されたクエストだろ? ならやっぱり万が一ってこともあると思う」
「ああ、分かっている。 そうだな、万が一ということもある。 強い奴が居るに越したことはない」
言い、俺とランカに視線を向ける。 ローレイフ自身もかなり強い方に分類されると思うんだけどな。 少なくとも、俺とランカを除いた中じゃあ一番強い。
「よしよし、んじゃー全員納得したところで出発っと」
トルトは俺たち全員の顔を見てから、クエストNPCへと話しかける。 少しの間の会話が始まったとき、カラフルが俺に話しかけてきた。
「そ、その……この前は、ありがとうございます。 ご忠告して頂いて!」
律儀にも頭を下げ、カラフルは言う。 別に助けたわけでもお礼を言われるほどのことをしたつもりもないんだけどな。 ただ、少なくともこのクエスト中はパーティを組むんだし、モンスターにやられて夢が泡になりましたーとか、そんなのは少々笑えない。 こいつの夢なんて心底どうでも良いけど、俺じゃなく他の誰かにやられてっていうのが、気に入らないだけだ。
「こういうVRMMOには、いろんな考えの奴が居るからな。 今度もしやるときが来たら、そういうのに気を付けろ」
「は、はははい! わた、私……プレイヤーキラーという方たちは全部同じだと思っておりました。 で、ですがシンヤさんは違うのですね」
「……どうだか」
本当に、馬鹿すぎると思った。 俺が言ったその言葉だけで、俺のことを信用している。 こういうのは確実に食われる側だ。 間違いねぇ。
……どうせなら、俺が殺してしまおうか。 そう思ったとき、警告音が聞こえた。
『パーティメンバーの平均レベルが難易度よりも低くなっています。 クエストを受けますか?』
「だーいじょうぶ大丈夫。 てか、やっぱ調整ミスじゃないのかなーこれ」
「おい待て、その警告!」
俺が慌てて止めるも、トルトはクエスト受注を押す。 次の瞬間、俺たち七人はテレポートでインスタンスダンジョンへと飛ばされた。
「お、遺跡ダンジョンだね。 ってことは、ボスを倒した奥に報酬かぁ」
飛ばされた先は、もっともオーソドックスな遺跡ダンジョン。 トラップの数も、大きさも、ボスモンスターの配置も一番単純なダンジョン形式。 真新しいアップデートにしては、やけに普通だ。 だからこそ、それが嫌な予感をさせる。
……つうか、それより。
「おいてめぇ、なんでさっき警告を無視した?」
「へ? いやいや、だってシンヤもランカも居るし、余裕っしょ?」
最悪だ。 このトルトという奴、最低限の常識すら弁えてねぇ。 あー駄目だ……。
「シンヤ、別に良いじゃん。 もしもヤバくなったら、タウンスクロールで帰れば良いだけだし。 それより早く進もう」
殺すと思ったその瞬間に、ランカが俺にそう声をかけてきた。 そのひと言で、俺は考えを止める。 こいつ、分かっててこういうことをするから質が悪い。 ランカだって俺と同じ気持ちだろうに……どうして止めたんだ。 まさかとは思うが、情でも移ったのか?
「……クエストで警告が出たってことは、平均レベルが少なくとも十は上ってことだ。 良いか? 今のこの面子だと、平均レベルは八十二だ。 クエストの適正レベルってのは、十ずつ区切られている。 つまり、このクエストは適正レベル百のクエストってことだ」
「は、はは……百? まさか、だって今年の五月にレベルキャップが開放されたばかりっしょ? なのに、もう適正レベル百のクエが出てるなんて」
「あり得ない話じゃない。 良いか、次から警告が出たら即座にクエスト画面を一回切れ。 今回だけ……見逃す」
俺は言い、トルトに背を向ける。 狩り専なら知ってておかしくはないようなことを……こいつまさか、寄生してレベルを上げたタイプか? そうなら確かに知らないことには納得行くけど……やっぱ最悪だな。
「ほ、ほほ。 まぁまぁ、良いではないですか。 危険を感じたら即、街へテレポート。 先頭はローレイフさんで、最後尾にはシンヤさん、間にワタシたちというフォーメーションで進みましょうぞ」
「勝手にしろ」
前途多難とは、このことだ。 見ればローレイフも、少々苛立っているように見える。 ひょっとしたらこの中で一番まともなのはあいつかもな。 ランカはランカで、さぞ楽しそうにしているし……。 一体、何を考えているのだか。




