9 上納金
浩人は組長の白石と共に九条会の本部に来ていた。
白石は九条会の本部長をしている。
九条会は関東最大の極道組織「十和麗月会」の二次団体組織。
今日は月に一度の上納金を本部に納める重要な日だ。
白石と一緒に会長室の前まで来ると部屋の中から会長の九条の怒鳴り声が聞こえた。
「太田! なめとんのか、てめえ! 上納金が足りねえじゃねえか!」
どうやら浩人たちより先に太田組が上納金を納めに来ていたようだ。
「すいません! 会長! あと一週間待ってください!」
太田の必死な声も聞こえてくる。
上納金をきちんと納められるかどうかで下部組織の組は評価を受けるので本来であれば上納金の滞納など許されない。
だが会長の九条に必死な声で太田は頼み込んでいるようだ。
浩人は太田と九条会長のやり取りが終わるまで待つかどうか白石に視線を送る。
しかし白石は浩人に僅かに頷くと会長室の扉をノックした。
「誰だ!」
「会長。白石です」
「おお、白石か。入れ」
白石と共に浩人もジュラルミンケースを持って会長室に入る。
九条の前には土下座をした太田組の組長で九条会の若頭補佐をやっている太田がいた。
一瞬、太田が白石の方を鋭い視線で睨んだ。
自分の無様な姿をライバル視している白石に見られたくなかったのだろう。
「会長。上納金をお持ちしました」
白石の指示で浩人が九条の前にジュラルミンケースを置いて中身の現金を見せる。
九条はその現金を手に取って確かめていた。
そして白石に声をかけてくる。
「おお。白石組は規定通りの上納金が用意できたようだな」
「はい。会長。今月分に不足はありません」
白石はチラリと太田を見た。
太田は顔を赤くして屈辱的な顔をしている。
「太田。お前も白石組みたいに上納金が納められないようなら若頭補佐の座も任せておけねえなあ」
「すみません。今一度猶予を」
太田は九条に再び土下座をしながら許しを請う。
「まあ、今回は特別だ。あと一週間待ってやる。しっかり決められた金額持って来い」
「ありがとうございます。会長!」
太田はそう言うと九条会長に頭を下げながら会長室を出て行った。
「まったくあいつにも困ったもんだ。その点、白石、お前のしのぎはいつも安定しているな」
「これも会長の御威光あってのことだと思っています」
「白石の出世も考えておくか」
「ありがとうございます。会長」
白石は九条に頭を下げた。
浩人も白石同様九条に頭を下げる。
そして会長室から退室した。
すると太田が部屋の外にいて白石を睨みつけるように見てくる。
浩人がさり気なく白石を庇う体勢になった。
同じ九条会を構成する身内だとはいえ組が違えばライバル組織と言っても過言ではない。
白石を護るのは白石組の若頭を務める浩人としては当然のことだ。
「浩人。放っておけ」
だが白石は太田を相手にせず浩人と車に向かう。
白石と浩人は九条会本部を後にした。
浩人は自分のマンションに帰って来た。
シャワーを浴びて酒を飲む。
浩人の住むマンションは組事務所からも近い中古のマンションだ。
白石組からは若頭ということもありそれなりの金は貰っているが浩人は自分に金をかけるのは好きではない。
だからこの中古マンションを購入した。
(あの女のマンションは高級マンションだったが極道と付き合ってもいいなんていう親がいるはずはねえ)
最近は時間があるとオリビアのことが頭に浮かぶ。
何か企んで近付いて来たに違いないと思いながらも彼女の純粋そうな緑の瞳を思い出すと何も知らない初心な女性にも感じる。
何をしていてもあの緑の瞳がチラついて仕方がない。
「クソ、いったい何なんだ、あの女は!」
若干苛立って浩人は酒を飲む。
すると浩人の携帯電話が鳴った。
着信を見るとオリビアからだ。
頭で考えていた相手からの電話に浩人は胸がドキッとしたが冷静を保つように一呼吸してから電話に出る。
「もしもし、ヒロ? お仕事終わった?」
無邪気そのものとしか思えないオリビアの声が聞こえた。
「ああ。今日の仕事は終わった」
「良かったあ。ヒロの予定を聞こうと思って。遊園地デートしてくれるんでしょ?」
「ああ。そういえばそうだったな」
「いつならいい? 明日とか空いてる?」
浩人は頭の中でスケジュールを確認する。
今日、一番の仕事の上納金を納めたので明日は時間に余裕があるだろう。
「ああ。明日でもいいぞ」
「そう。それなら〇✕遊園地行きたいんだけど」
「分かった。明日、マンションまで車で迎えに行ってやる」
「ホント!? 分かったわ。待ってる。じゃあ、明日の10時でどう?」
「かまわない。じゃあ、10時にな」
浩人は電話を切った。
(やれやれ、本当に遊園地デートとはな)
今のところオリビアに怪しい言動はない。
だが自分のことを誰に聞いて白石組の若頭と知ったのかは分からない。
用心に越したことはない。
こちらが油断した時に牙を剥くことなどよくあることだ。
浩人は酒を飲み干すとベッドに横になった。




