71 新たな旅立ち
浩人がドレイクヴァロの人間になって二週間が過ぎ年が明けて新年になっていた。
浩人はエドワードが用意した新しいマンションに引っ越して今はオリビアと同棲中だ。エドワードからは「辛い勉強も愛する彼女が側にいれば頑張れるでしょ」と言われてた。
その言葉通り浩人に課せられた勉強は山ほどある。ブラックウェル一族が必修とされている数か国語の勉強から始まり、ドレイクヴァロの仕事についての勉強。それに体術や射撃訓練なども教えられている。
毎日クタクタになってマンションに帰ってくるのだがオリビアの笑顔を見た瞬間に苦労などどこかへ吹き飛ぶ。
そして今日はオリビアと二人で白石組の組事務所にやって来た。
浩人の荷物を引き取りに来たのと白石組長に挨拶するためだ。
白石組長とはあのオリビア誘拐事件を最後に浩人は会っていない。
「白石組長はいるか?浩人が挨拶に来たと伝えてくれ」
「これは浩人さん。お久しぶりです。今組長に確認してきます」
組員の一人が白石組長に確認に行き二人は事務所内に案内された。
白石がソファに座っている。
「白石組長。お久しぶりです」
「うむ。浩人も元気そうだな」
「はい。今日は自分の荷物を引き取りに来ました」
「そうか。忘れ物をしないようにな」
「はい」
そこで浩人の後ろからオリビアが顔を出す。
「白石組長さん、こんにちは!」
「おお。オリビアさん。いらっしゃい」
「白石組長さん。今まで通りオリビアって呼び捨てにしてください。私たちは同志でしょ?」
「ハハハ、そうだな。オリビアが何者でも私の同志であることは変わらないな」
「そうですとも」
白石はオリビアと話しをしている。
その間に浩人は自分の荷物をまとめた。
(この事務所にもいろいろ想い出があるが俺はもうドレイクヴァロの人間だ)
そして荷物を車に積み込み白石に最後の挨拶をする。
「白石組長。長い間お世話になりました」
「ああ。こちらこそいろいろありがとう、浩人。ドレイクヴァロでもしっかり働くんだぞ」
「はい。じゃあ、オリビア行くぞ」
「分かったわ。白石組長さん、お世話になりました」
「オリビアも元気でな」
「はい」
二人は白石組長に挨拶をして車に乗り込む。
車を発進させるとオリビアが浩人に話かけた。
「ヒロ。私を選んだこと後悔してない?」
「後悔なんてしないさ。俺はオリビアといつまでも一緒にいたいんだ」
「そう。ありがとう」
オリビアは笑顔を浮かべた。
それからは毎日浩人はエドワードの元に通いドレイクヴァロの勉強をした。
ドレイクヴァロの仕事は多岐に渡るが一番の主力商品は『情報』と『武器の密売』であること。
まず情報は『アポロン』と呼ばれるドレイクヴァロの心臓とも言われている情報管理システムに全て集約されているらしい。
この情報管理システムのAIの名前がアポロンである。アポロンへは世界中のドレイクヴァロのスパイからの情報が日々送られてくる。
アポロンに情報を送ることはIDとパスワードでできるがアポロンから情報を引き出すことは総帥のアランとナンバー2のエドワードのどちらかの許可がないとできないシステムになっているらしい。
そしてこのアポロンがどこにあるかは総帥とエドワードしか知らないとのことだった。もちろん浩人も教えてもらえなかった。
エドワードはコンピューター関係の能力に優れており情報管理システム部門の責任者でもあるとのことだった。
武器の密輸にはブラックウェル貿易会社の力を利用して各国や各武装組織と取引をして秘密裏に売買をしている。
そのため各国にはブラックウェル貿易会社の支社が必ず存在している。そう、表向きは普通の会社として。
ドレイクヴァロの本拠地はアメリカだがドレイクヴァロはアメリカのために特別に何かすることはない。
浩人が噂で聞いた通りドレイクヴァロは世界各国で活動しているのだ。アメリカに敵対する組織にも武器を売る。
それに浩人はドレイクヴァロの勉強だけでなく銃の訓練や体術などもメイソンから教わった。
そんな忙しい日々だったがオリビアと結婚するために浩人が音を上げることはなかった。
それから時は流れてオリビアの留学期間がもうすぐ終わるという時に浩人はエドワードに呼び出されていた。
「うん。ギリギリ及第点ってところかな」
「ありがとうございます。双頭の山猫様」
浩人はエドワードにお礼を言う。
エドワードの手元の書類にはこの約一年半の間に浩人が身に着けた勉強の成果の結果が書かれていた。
「正直、浩人がここまで頑張るとは思わなかったよ。愛の力は偉大だねえ」
エドワードは紅茶を飲みながら浩人に言う。
「これなら二週間後、オリビアと一緒にアメリカに行ってもいいよ。まあ、でも向こうでも勉強は続くと思うけど」
「自分がまだまだ未熟なのは分かっています。でもオリビアは誰にも譲れません」
「うんうん。その気持ち分かるよ。双頭の鷲に会うことがあったらよろしく言っておいて」
「分かりました。あの、双頭の山猫様」
「なんだい?」
「ドレイクヴァロの幹部の勉強で『ドレイクヴァロの夢』という言葉があったんですがその内容が記載されたモノがないので『ドレイクヴァロの夢』が何なのか分からないのですが…」
「ああ、ドレイクヴァロの夢か。それは総帥から聞かされると思うよ。今、私が言えることは『ドレイクヴァロの夢』を叶える為にドレイクヴァロが存在するってことだけかな」
「そうですか。分かりました」
(ドレイクヴァロの夢……ドレイクヴァロの組織が存在する理由がそこにあるのか。気にはなるがいずれ教えてもらえるならそれまで待つか)
浩人はエドワードに頭を下げた。
二週間後浩人はオリビアと共にアメリカに出発するため空港にいた。
アメリカまではドレイクヴァロ所有のプライベートジェット機で向かう予定だ。
プライベートジェット機に乗り込むとオリビアが浩人の横に座りながら話しかけてきた。
「ねえ、ヒロ。私を選んだこと本当に後悔してない?」
「前にも言ったが後悔なんかしてないさ。もしそうならこの一年半の勉強や訓練から逃げ出しているはずだろ?」
「そうね。ヒロはとても頑張ったわ。アメリカに行っても勉強は続くと思うけど二人で頑張りましょうね」
「ああ、いつまでも二人一緒だ」
オリビアは緑の瞳をキラキラと輝かせて浩人を見つめる。
(ああ、この緑の瞳が俺を狂わせる。だが愛する女に狂わされるのもいいさ)
この緑の瞳に囚われどこまでも堕ちていく自分を自覚していても浩人には幸せ以外感じない。
自分がドレイクヴァロの中枢で働くにはもっと勉強が必要だろう。
だがオリビアが自分の側に居てくれるなら浩人に怖いものはない。
そっとオリビアを抱き寄せて浩人はキスをした。
オリビアは浩人の身体にそっと寄り添う。
(さあ、これからが二人の人生の新たな出発だ)
「オリビア、愛してる」
「私もヒロを愛してるわ」
二人を乗せたプライベートジェット機はアメリカに向けて静かに飛び立った。




