72 ドレイクヴァロの夢
シカゴの空港に到着すると予想外の人物が待っていた。
「まあ。お父様!」
そこにいたのは双頭の鷲ことオリビアの父のアランだった。
「お帰り。オリビア」
「お父様が迎えに来るなんてどうしたの?」
オリビアの疑問はもっともなものだ。
浩人は双頭の鷲は敵組織の襲撃を警戒してアメリカ国内を転々としながら生活していると教えられていたから、まさかいきなり双頭の鷲と直に会えるとは思っていなかった。
「やあ。浩人。ようこそ我が本拠地へ」
「双頭の鷲様に直に会えるのは光栄です」
浩人は英語で答える。
「英語が上手くなったね。エドの言った通り頑張ったようだね」
「恐れ入ります」
「オリビア。お前は先に本宅に戻りなさい。私は浩人に話があるから」
「お父様。ヒロはこの一年半でドレイクヴァロの幹部になるために努力したわ。それは認めてあげて」
「分かってるとも。浩人を『始まりの場所』に連れて行くだけだよ」
「分かったわ。じゃあ、先に本宅に行ってるわ」
オリビアはそう言うと用意されていた車に乗り込む。
「さて。私たちも行こうか。浩人」
「はい」
浩人はアランと一緒にリムジンに乗り込む。
そして車はシカゴ郊外の墓所に着いた。
「ここはお墓?」
「付いて来たまえ。こっちだ」
浩人はアランの後ろに付いていく。
するとある墓標の前まで来た。
その墓標には名前は無くドレイクヴァロの紋章だけが石に彫られている。
「ここは『始まりの場所』と呼ばれる所だ」
「始まりの場所?」
「そうだ。この墓標はドレイクヴァロの名の元に散っていった者たち全ての墓標だ」
アランは小さな花束を墓標に捧げる。
「総帥はこの墓標を守って行くのも仕事の内だ。今も世界のどこかでドレイクヴァロの構成員たちは命を散らしている。浩人、なぜこの場所が『始まりの場所』と呼ばれるか分かるか?」
「いえ。分かりません」
「ここは『ドレイクヴァロの夢』が生まれた場所なのだ」
「ドレイクヴァロの夢ですか?」
「ドレイクヴァロの夢について話は聞いてるか?」
「いえ。双頭の山猫様からそれについては双頭の鷲様がいずれ説明してくださるとだけ聞いてました」
「フフ、エドらしいな」
アランは墓標を見つめながら浩人に語り始める。
「少し長くなるかもだが聞いてくれ。ドレイクヴァロの幹部になるためには必要な話だ」
「はい」
「昔、ドレイクヴァロはこのシカゴを本拠地とした普通のマフィア組織だった。だが二代目の総帥の双頭のグリフォンがまだ十代の若者だった頃ある事件が起こった」
「事件?」
「そうだ。双頭のグリフォンの取り巻きの一人だった人間が組織の抗争に巻き込まれて死んだのだ」
浩人は息を呑む。
「その死んだ仲間を弔うために双頭のグリフォンたちは仲間と一緒に集まって酒を飲んでいた。その時誰かが言ったのだ『争いのない世界になれば誰も死なずに済むのに』と」
アランは空を見上げる。
「その一言が双頭のグリフォンと仲間たちを動かした。浩人はドレイクヴァロの主力の商売は何か知っているか?」
「はい。『情報の売買』と『武器の密輸』です」
「その通り。そして今現在ドレイクヴァロは世界各地にあるいろんな組織に武器を供給している。ほぼ名の知れた組織はドレイクヴァロから武器を買っていると言ってもいい」
「はい。そう習いました」
「では質問だ。もしその武器の供給が世界シェア100%にドレイクヴァロがなったらどうなると思う?」
浩人は考えて答える。
「ドレイクヴァロ無しでは武器の調達ができなくなるということですか?」
「そうだ。ドレイクヴァロが目指すのは世界中の組織に武器を売る組織がドレイクヴァロだけになることだ。現に既に約80%の組織はドレイクヴァロから武器を購入している」
「そんなに……」
浩人は驚いた。
「そして大事なのはその先だ。武器の供給の世界シェア100%を達成したら我々は武器の供給を止める」
「え!?」
「浩人。我々の最終目的はこの世界から武器を無くし『争いのない世界』を作ることだ。それが『ドレイクヴァロの夢』だ」
「そんなことができるんですか? それに裏社会に武器は無くなっても国が持っている武器はあります」
「いいところに気が付いたね。だからドレイクヴァロのスパイを各国に潜入させているのだ。ドレイクヴァロのスパイはただ情報を手に入れるだけのスパイではない。浩人、核弾頭のボタンを押す人間は誰だ?」
浩人はまた考えて答える。
「各国の大統領や首長ですか?」
「そうだ。だからドレイクヴァロのスパイの最終目的はその国の大統領や首長及び軍を司る人間になることだ」
浩人はアランの言葉に体の震えが止まらなかった。
ドレイクヴァロとはなんという組織なのか。
「そうすれば各国が戦争をすることはない。各国の首長はドレイクヴァロの構成員なのだから。表面上はいがみ合っていても最終的に武器を使うことを命じなければいいのだ。それに表の商売であるブラックウェル貿易会社は世界の経済を牛耳っている」
アランは振り向き浩人を見つめる。
「国の政治と経済と裏社会を支配すればその国はドレイクヴァロに逆らえない。ドレイクヴァロが世界を手に入れた時に『争いのない世界』が実現する」
(そんなことできるのか?……いや、この漢はやるつもりだ)
あまりに途方もない夢に浩人は自分の立場を思い出す。
(俺が、俺たちがその夢を受け継いでいくのか……)
浩人は不思議な高揚感に包まれた。
浩人は一人の漢としてそのドレイクヴァロの夢の先にある『争いのない世界』を見てみたいと思った。
普通の人間であれば「そんなことできるわけない」と鼻で笑っただろう。
だが実際にドレイクヴァロはその夢を叶えるべく動き出している。
しかもそれが実現可能なほどの力をドレイクヴァロは手に入れつつあるのだ。
(面白い。その『ドレイクヴァロの夢』を叶えてやろうじゃねえか)
「双頭の鷲様。私もその夢を叶えてみたくなりました」
浩人の言葉にアランは頷く。
「その夢のために多くの命が今まで散っていった。そのことを我々は忘れてはならない。だからこの墓標が存在する」
そしてアランはもう一度墓標を見た。
浩人もその墓標に誓う。
(必ず『ドレイクヴァロの夢』は叶える。俺の働きを見ていてくれ)
「浩人。君にはいずれ黒の鷹の跡を継いで欲しいと思っている。日本に詳しい君には適任だと思うしね」
浩人は黒の鷹の顔を思い出した。
(あの男の後継者か。やってやろうじゃないか)
地域リーダーの大変さは勉強の中で知ったことの一つだ。
だが浩人にもう迷いはなかった。
自分は次代の黒の鷹となりオリビアと結婚する。
「分かりました。双頭の鷲様」
「君なら立派な地域リーダーになってくれると信じている。では行こうか。私たちの愛する者たちが待っている」
「はい。双頭の鷲様」
二人は歩き出す。
そして車に乗り浩人はブラックウェル家の本宅に着いた。
浩人が車から降りるとオリビアが出迎えた。
オリビアの隣には女性が一人立っていた。
「ヒロ! お帰りなさい。紹介するわ。私のお母様よ」
オリビアの横の女性は微笑む。
「初めまして。浩人さん。オリビアの母のひかりです」
「初めまして。波戸場浩人です」
ひかりと浩人は握手を交わす。
「ヒロ、行きましょう! 部屋に案内するわ」
オリビアは浩人の手を引っ張って行く。
「そんなに急ぐなよ。これからはずっと一緒なんだから」
浩人はオリビアの手を反対に引っ張りオリビアを抱きしめた。
そして額にキスをする。
「オリビア。必ず君を幸せにする。そして『ドレイクヴァロの夢』を叶える」
浩人の言葉にオリビアは浩人に抱きしめられながらその緑の瞳で浩人を見上げた。
「私もヒロを幸せにするわ。だって出逢った瞬間にヒロは私のモノだって分かったもの。二人で『ドレイクヴァロの夢』を叶えましょう」
オリビアはニッコリと微笑む。
オリビアの緑の瞳は輝いていた。
(ああ。この緑の瞳は一生俺のモノだ)
そんな二人の様子をアランとひかりは見つめていた。
「夢は受け継がれて行く……か」
「そうよ。アラン。ドレイクヴァロの夢は私達の子供たちがきっと叶えるわ」
ひかりはそっとアランに寄り添った。




