7 浩人の警戒心
「お前は馬鹿か! 組事務所に女一人で来るなんて!」
浩人はオリビアを組事務所の近くの公園まで連れて来てベンチに座らせた。
「馬鹿じゃありません! ちゃんと浩人さんと約束したとおりにお父様の許可をもらいました」
「なんだと!?」
「浩人さんは言ってたじゃないですか。親の許可が出たら私と付き合ってくれるって」
「そりゃ、た、確かに言ったが。本当に親の許可が出たのか?」
浩人は信じられない目でオリビアを見る。
するとオリビアはニッコリ笑って浩人を見つめた。
「はい。ちゃんと許可を取りました。お父様は浩人さんが良い人かどうか見極めるためにお付き合いしてもいいと」
「何だ、その馬鹿親は!! 極道が良い人な訳ないだろう……」
(この女も馬鹿な奴だと思ったが親も馬鹿なのか?)
浩人の脳裏にそんな考えが浮かぶ。
「あら、それは偏見ですよ、浩人さん。極道もピンからキリまでいろんな人がいます」
オリビアの発した言葉に浩人はひっかかるものを覚えた。
まるで極道の人間を知っているかのような言葉だ。
「お前、極道に知り合いがいるのか?」
「なぜですか?」
「そもそも何で俺が白石組の若頭って知っているんだ? 俺はそこまでお前に話してないぞ」
「ああ。それは……人に聞いたんです」
「誰に?」
「それは秘密です」
オリビアはそれ以上話そうとはしなかった。
(もしかしてこいつは敵対組織から送り込まれて来た女か?)
浩人の中でオリビアへの警戒心が生まれる。
(だが、こんな馬鹿な女を送り込む組織ってどこのどいつだ?)
浩人が黙って考えているとオリビアは自分のバックから綺麗に包装した包みを取り出す。
「これは助けてくれたお礼です。使ってもらえると嬉しいです」
「何だ、これは?」
「ハンカチです」
「ハンカチ? 別にいらん」
「いえ、貰ってください!」
オリビアは包みを浩人の手を掴み強引に持たせる。
その力の強さは並みの女性の力ではない。
(これは何か訓練している人間の力だな)
浩人はさらに冷静になった。
もしオリビアが何か目的を持って近付いて来たのならその目的がハッキリするまで泳がしておいた方がいいかもしれない。
「分かった。貰うから」
「嬉しい!」
笑顔を浮かべるオリビアに浩人の胸がドキッと高鳴る。
(落ち着け。こいつの目的を調べるのが先だ)
「まあいい。オリビア、親の許可が出たなら約束通り付き合ってやる」
「本当ですか?」
「ああ。その代わり俺の言うことを聞けよ」
「はい。分かりました。あ、じゃあ、浩人さんのことヒロって呼んでいいですか?」
「……好きに呼べ」
「ありがとう。ヒロ」
オリビアは無邪気に笑う。
その笑顔に何か裏がありそうな感じはしない。
(まあいい。そのうちボロを出すだろう)
浩人はそう思い受け取ったハンカチをポケットにしまった。
「じゃあ、デートの約束しましょ?」
「デート? どこに行きたいんだ?」
(こいつの目的を調べるためにも一緒に行動するのはいいことかもしれない)
そう判断して浩人はオリビアの希望を尋ねる。
「遊園地」
「は?」
「だから遊園地です。私、遊園地デートに憧れてたんです」
(極道が遊園地かよ!?)
浩人は思わず怒鳴りたかったがグッと我慢する。
オリビアを泳がすためにもここは短気を起こしてはいけない。
「分かった。予定を空けるから少し待ってくれ」
「分かりました。じゃあ、ヒロの連絡先教えてください」
「ああ。連絡先を交換しよう」
二人は携帯番号を交換した。
「とりあえず今日はこれから俺も仕事があるからお前は帰れ」
「はーい! じゃあ、ヒロ、仕事頑張ってね!」
オリビアはそう言って公園を出て行った。
浩人も組事務所に戻る。
組事務所では京介が待っていた。
「兄貴。オリビアさんと付き合うことにしたんですか?」
「ああ。もしかしたらどこかの組織から送り込まれた女かもしれないからな。とりあえず付き合ってみて様子を見る」
「そうですか。でもオリビアさんって天然な感じがありますけどね」
「女は化けるもんだ。そのうち化けの皮が剝がれるさ」
「そういうもんっすかねえ」
浩人はソファに座りながら溜息をついた。




