69 浩人の生涯の主
浩人とオリビアはルーカスが乗ってきたリムジンでドレイクヴァロのビルに向かっていた。
あれから生き残った太田組の連中は十和麗月会の本部の人間に引き渡されてどこかへ連れて行かれた。
浩人は白石組に戻りたかったがあの場でドレイクヴァロの構成員になることを宣言してしまったため、もう白石組には戻れない。浩人がドレイクヴァロの構成員になることは十和麗月会の会長の鹿沼が認めたことだ。誰も覆すことはできない。
そのあとルーカスに「乗れ」と指示されてオリビアと一緒にルーカスの車に乗ったのだ。
「オリビア。無事で良かったよ。心配したんだよ」
「ルーカスお兄様。コンドルとオルカを使うなんてやり過ぎじゃないの? 相手はプロの殺し屋じゃないのよ」
オリビアが不満気に言うとルーカスは僅かに笑みを浮かべる。
「大事な妹が誘拐されたんだよ。犯人を皆殺しにしても足りないくらいだよ」
「ルーカスお兄様は大袈裟なのよ」
ルーカスはオリビアが子供の頃からオリビアを過保護なまでに心配してオリビアに言い寄る男性たちを何人病院送りにしたか分からない。
同じ双子の兄のマテオは比較的温和な性格なので時々ルーカスとマテオは本当に双子だろうかと思うことがオリビアにはあった。もちろん外見は双子なのでそっくりなのだが。
「でも俺は父さんやじいさんよりはやり過ぎてないと思うよ。俺たちの母さんたちが誘拐された時に父さんたちがやった行動よりマシだろ?」
「そうね。あの時は日本やアメリカの政府を巻き込んでの大騒動だったらしいけど…。だからってルーカス兄様も本気になったらお父様と同じことしそうなんだもん」
ぷくっと頬を膨らませるオリビアの様子を見て浩人は背筋に嫌な汗を掻く。
(日本やアメリカ政府を巻き込むってドレイクヴァロってとんでもない組織だな)
そしてルーカスとオリビアの言い合いが落ち着いたところで浩人はルーカスに声をかけた。
「あの、双頭の隼様」
「俺のことは普段はルーカスでいいよ。双頭の隼と呼ぶ時は仕事の話をする時だけでいいから」
ルーカスの説明に浩人は頷く。
「分かりました。ではルーカス様、一度白石組に行って白石組長に世話になった挨拶をしてきたいんですが」
「う~ん。君はもうドレイクヴァロの人間だからね。本来ならダメというところだけど、組事務所には君の荷物もあるだろうし荷物を取りに行くことまでは禁止しないよ」
「ありがとうございます」
浩人はルーカスに頭を下げる。
ルーカスは浩人より年下だが次期総帥であるルーカスはこれから浩人が生涯をかけて仕えていく相手だ。
自分はもう十和麗月会の人間でも白石組の組員でもない。ドレイクヴァロの人間だ。
浩人は自分にそう言い聞かせる。
「まあ、浩人もいきなりドレイクヴァロの仕事しろって言っても無理だからまずは勉強してもらわないとね」
「勉強ですか?」
浩人は中学までしか学校は出ていない。だが必要だと言うなら死ぬ気で勉強するまでだ。
ドレイクヴァロは基本的には外国のマフィア組織だから英語とかも話せないと仕事にならないだろう。
(オリビアと一緒にいる為に勉強が必要なら頑張るしかないな)
自分がもう引き返すことはできないことは浩人も分かっているので腹を括っている。
「まずはこれから行くドレイクヴァロのビルにエドワード叔父さんがいるからいろいろ教えてもらってね。因みにエドワード叔父さんはドレイクヴァロのナンバー2の双頭の山猫だから失礼のないようにね」
「はい。分かりました」
車はドレイクヴァロのビルに着き、三人が部屋に行くとエドワードが待っていた。
「やあ、浩人。久しぶりだね」
「はい。お久しぶりです。双頭の山猫様」
浩人は緊張しながらエドワードに挨拶する。
エドワードは自分のことを双頭の山猫と呼んだ浩人のことを少し驚いた表情をしたがその後にルーカスを見る。
「浩人には我々の正体を既に話しています。ついでに十和麗月会から浩人の身柄をドレイクヴァロに引き取って来ました」
ルーカスがそう説明する。
「そうか。分かった。オリビア、今回は大変だったね」
「確かに、油断して誘拐された私にも落ち度はあるけど、オルカとコンドルを使うなんてやり過ぎだってルーカスお兄様には言ったところよ」
「ハハハ、オリビアは手厳しいなあ。でもね、オリビア。君は総帥の娘なんだ。私たちにはオリビアの命を守る義務がある。そのことは分かるね?」
エドワードに諭されるように言われるとオリビアは頷くしかない。
「ドレイクヴァロにおいて総帥の一族を危険に晒すことは何より重い罪なのだと知ってるわ」
「そうです、オリビア様。ご無事で良かったです」
その時、エドワードの後方にいた黒の鷹が発言する。
日本でオリビアに何かあった場合は日本を支配下に置く地域リーダーの黒の鷹にも罰が与えられるだろう。
地域リーダーには大きな権限を与える代わりにその支配地域で起こった全ての出来事の責任を負うことがドレイクヴァロでは決まっている。
今回の出来事で黒の鷹に迷惑をかけてしまったのは事実なのでオリビアは反省したように黒の鷹に謝った。
「黒の鷹さん。ごめんなさい。軽率だったわ」
「いえ。オリビア様が無事でしたので良かったです。私の方こそオリビア様を守り切れず申し訳ありませんでした」
「黒の鷹さんのせいじゃないわよ。お父様にも私から話して黒の鷹さんを処罰しないようにお願いしておくわ」
「ありがとうございます。オリビア様」
黒の鷹は僅かに笑みを浮かべる。
「オリビア。君は先にマンションに帰りなさい。部下に送らせるから」
「でも……」
オリビアは浩人を見る。その緑の瞳には心配そうな光が宿っていた。
「浩人にはこれからドレイクヴァロの人間として働いてもらうための話があるんだ。ドレイクヴァロの根幹の話になるからオリビアが話に混ざる訳にはいかないのは分かるだろ?」
「それは分かるけどエドワード叔父様もルーカスお兄様もヒロをいじめたら許さないわよ」
その言葉にエドワードとルーカスは顔を見合わせて苦笑した。
「オリビア。俺を信じろ。俺は大丈夫だ」
浩人はオリビアを抱きしめると額にキスをする。
「ヒロがそう言うなら帰るわ」
笑顔になったオリビアはエドワードの部下と部屋を出て行った。
「やれやれ、オリビアは本当に浩人のことを愛してるんだねえ。まったく、浩人がドレイクヴァロに相応しい人間じゃなかったら地獄に送っているところだ」
ルーカスは冗談交じりに笑う。
だがその言葉は完全な冗談でもないだろうと浩人は直感で感じた。
(この男が俺の生涯の主人になるのか。オリビアと俺が結婚しても俺が何か失敗したらこの男は迷うことなく俺を処分するだろうな。油断できないが全てはオリビアと一緒にいるためだ。気合い入れろ、俺)
目の前のルーカスを見ながら浩人は決意を固める。
「さあ。これからのことを話し合おうじゃないか。浩人」
「はい」
エドワードとルーカスと浩人はソファに座った。




