68 オリビアの救出
夜9時。横浜のA倉庫に波戸場浩人は姿を現す。
浩人の前に30人近い男が現れた。
「よお、波戸場。白石の首は持ってきたか?」
そう話した男は太田組の若頭の津田だった。
「津田……貴様か、オリビアを誘拐したのは!」
「だから何だ? 自分の女を誘拐されるお前がマヌケなんだよ! てめえら白石組なんて潰れればいいのさ。それで白石の首は?」
津田は催促をする。
「その前にオリビアは無事なのか?」
「ちゃんと倉庫の中にいるさ。白石の首を確認したら案内してやる。それで首はどうした?」
自分たちが優位だと信じて疑わない津田は余裕の態度で答える。
(オリビア。必ず助けるからな!)
「そんなもんはねえよ! これでもくらいやがれ!」
津田を睨みつけた浩人はその場から身を翻して置いてあった箱の影に隠れると拳銃を発砲した。
ダンッ! ダンッ!
津田たちは慌てて建物の影に隠れる。
そして白石組の組員を乗せた車が何台も到着して津田たち太田組の組員と撃ち合いになる。
「クソ! おい、あの女を連れて来い!」
津田は部下の一人に人質のオリビアを連れて来いと命令した。
そして津田の部下が倉庫内に入ろうとした時に銃声が鳴り響く。
ズダアアアアーーーーン!
津田の部下は頭を撃ち抜かれて倒れた。
スナイパーによる狙撃だ。
「なに!?」
慌てる津田たちの前に完全武装をした軍人のような人間たちが現れて次々と太田組の組員を銃で撃つ。
ダンッ! ダンッ! ダダダッ!
その動きに無駄は無く的確に太田組の人間だけを殺害していく。まるで特別な訓練を受けた特殊部隊のようだ。
「なんだ!?あの連中は!?」
白石組の組員は突然現れた援軍に呆気に取られている。
(奴らは何者だ? もしかしてオリビアの組織の関係者か?)
浩人もこんな軍人のような援軍が来るなど知らなかった。
だが先ほどの津田の部下を狙撃したのは確かに遠くからの撃ったスナイパーによる狙撃に間違いない。
以前オリビアを襲おうとした敵を倒したのもスナイパーだったことを考えれば目の前に現れた男たちがオリビアの父親のマフィア組織ドレイクヴァロの人間だと考える方が自然だ。
(だが、こいつらはマフィアってよりは特殊部隊の軍人じゃねえか。ドレイクヴァロっていったいどんなマフィア組織なんだ?)
「動くな!! 動いた者は殺す!! 抵抗を止めて武器を置け!!」
その軍人たちのリーダーらしき人物が声を発する。外国人のようだが流暢な日本語を話していた。
太田組の組員は戦意喪失で武器を置いて抵抗を止めた。すると彼らは次々にその組員たちを縛り上げていった。津田も太田組の組長の太田も拘束される。
「浩人。奴らは何者だ?」
白石が建物の影から出て来て浩人に声をかける。
「それが俺にも何が何だか分かりません。もしかしたらオリビアの父親のマフィア組織の関係者かもですが…」
「ヒロ!」
そこで浩人を呼ぶ声が聞こえる。
浩人が倉庫の入り口を見るとそこにはオリビアが立っていて両側を武装した人間に守られていた。
「オリビア!」
浩人が声を上げるとオリビアが浩人に走り寄って抱きついた。
「オリビア! ケガはないか!」
「ええ、大丈夫よ。ヒロこそケガはない?」
「ああ。俺は大丈夫だ。それより奴らは何者だ?」
「ああ、彼らは……」
オリビアが説明しようとしたところで黒塗りの車が何台もやって来た。
浩人は新手の刺客かと思いオリビアを抱きしめる。
すると車から降りてきたのは十和麗月会会長の鹿沼と舎弟頭の舘、九条会の会長の九条だった。それに別の車からオリビアの兄のルーカスが降りて来る。
「太田! てめえ、よくも九条会の顔に泥を塗ってくれたなあ!!」
九条は激怒した様子で太田に怒鳴る。太田は拘束されていたが必死に言い訳をする。
「九条会長! 違うんです! みんな白石組が悪いんです!」
「ほお。白石組の何が悪いんだ?私にも分かるように教えてくれないか?」
周囲を凍らせるような低い声で尋ねたのは鹿沼だった。
白石たちも鹿沼に対して頭を下げる。浩人も普段は直接十和麗月会の本部の人間に会うことはないが鹿沼会長や舎弟頭の舘の顔は知っていた。
「白石組はオリビア様を救出しようとした。それの何がいけないか教えてくれ。太田よ」
鹿沼の怒りを感じて太田は震え上がる。鹿沼は会長になってからは穏健派とも呼ばれるが若い頃の鹿沼はバリバリの武闘派だったことは十和麗月会の中では有名だった。
鹿沼を怒らせて無事に済む訳はない。
「そ、それは……」
「お前は自分の罪の深さが分かるか?お前たちが誘拐したオリビア様はドレイクヴァロの総帥の娘さんだ。お前は十和麗月会の人間でありながらドレイクヴァロに喧嘩を売ったのだよ」
鹿沼は太田に近付き太田を思い切り殴った。
「ぐはっ!」
太田の身体が吹っ飛び苦しそうな声を出す。
そして鹿沼はルーカスに向かって頭を下げた。
「双頭の隼様。今回のことは私の責任です。この太田組の組長と実行犯の若頭の津田の首は私自ら取ります。太田組は解散し、九条会は監督不行き届きということで処分しますので許していただくわけにはいきませんでしょうか?」
浩人は鹿沼会長の話を聞いていてゾッとする。
オリビアを危険に晒すことは十和麗月会の存続にすら影響を与えることなのだ。
「鹿沼会長。頭を上げてください。今回のことはオリビアの正体を知らず起こした事件。そのことを鑑みて我々も対応します。ですがもう一つドレイクヴァロが十和麗月会を許すために条件があります」
ルーカスは笑みを浮かべている。
「何でしょうか?双頭の隼様」
鹿沼は落ち着いて尋ねた。
「白石組の波戸場浩人をドレイクヴァロの一員として引き取りたい」
「え!? 俺?」
思わず浩人は声を出してしまった。
その場の全ての人間が浩人を見る。
「波戸場浩人よ。双頭の隼様の元に行ってくれるか?」
鹿沼は浩人に声をかける。
ここで浩人が断れば十和麗月会とドレイクヴァロの抗争に発展するかもしれない。浩人の行動に十和麗月会の命運がかかっているのだ。
浩人は白石を見た。白石は黙って頷く。
浩人は腹を括った。
「分かりました。ドレイクヴァロの一員としてこれからは働かせていただきます」
浩人はルーカスに頭を下げる。
元々いずれはドレイクヴァロで働くつもりではあったしここで浩人が了承しなければとんでもない惨事になってしまう。
(オリビアの為だけでなく世話になった白石の親父や十和麗月会の為なら俺に悔いはない)
自分に頭を下げる浩人を見てルーカスは満足そうに鹿沼に言った。
「では今から波戸場浩人はドレイクヴァロの一員だ。それで構わないですね? 鹿沼会長」
「はい。波戸場浩人は今この時を持って十和麗月会の人間ではなくドレイクヴァロの一員ということを認めます」
ルーカスの言葉に鹿沼が応じる。
「では今回のことはこれでお互いに納得をしたということにしましょう。これからも末永くお付き合いをお願いします、鹿沼会長」
「こちらこそよろしくお願いします」
鹿沼とルーカスは握手をした。とりあえず十和麗月会とドレイクヴァロの間に亀裂が入る最悪のことは避けられた。
舎弟頭の舘もホッと胸を撫でおろす。
「まったく……ルーカスお兄様は意地が悪いんだから」
オリビアの呟きは小さくて誰にも聞こえなかった。




