65 誘拐されたオリビア
(しかし、よりによってドレイクヴァロとはな)
浩人はコーヒーを飲みながら考える。
ただでさえマフィア組織で働くのを不安に思う気持ちはあったがまさかその組織がドレイクヴァロとは。
浩人は十和麗月会の舎弟頭がドレイクヴァロと親密な関係にあることは聞いている。
それ故にドレイクヴァロは十和麗月会の後ろ盾となっており日本の極道で十和麗月会に手を出す相手はいなくなったとも言われてるほどだ。
だがそれは浩人にとっては遠い都市伝説のような話でしかなかった。まさか自分がドレイクヴァロと関わりを持つことになろうとは。
(俺にドレイクヴァロの仕事なんて務まるのか)
浩人はルーカスやエドワードの顔を思い浮かべる。
彼らから時々感じた背筋がゾクリとする感覚は二人がドレイクヴァロの幹部だったからだろう。
ドレイクヴァロの総帥は『魔王』と呼ばれている。ルーカスもエドワードもオリビアも魔王の一族ということになる。
裏社会では魔王の一族に手を出した組織が一人残らず殺された話は有名だ。
ドレイクヴァロは世界最大のマフィア組織と言われているが実態が掴めない組織とも言われている。
構成員がどれだけいるのかとかどれだけの規模の稼ぎをしているのかとか具体的なことはハッキリしていない。世界の情報を牛耳ってると言われるぐらいだから自分たちの組織のことを隠すことなど朝飯前なのかもしれない。
(だが、オリビアを諦めることはできねえ。俺はオリビアのためなら何でもする)
そして浩人はオリビアがなかなか化粧室から戻って来ないことに気付いた。
(女のトイレは長いと言うがこんなにかかるものか?)
浩人がそう思った時に浩人の携帯電話が鳴る。
オリビアからの着信だった。
(何かあったのか?)
「もしもし。オリビアか?」
「やあ。波戸場浩人だね」
電話から聞こえてきた声は男性のものだった。
一瞬で浩人の顔色が変わった。
「てめえ、誰だ?」
「レストランで騒ぎは起こさないように静かに聞いて欲しい。君の女は俺たちが預かった」
「なんだと!?」
浩人は思わず声を上げてしまう。
レストランの客は何事かと浩人を見ている。
浩人は慌てて声を潜めた。
「てめえ、オリビアに何かしたら許さねえからな」
「それは君しだいだよ。女を無事に返して欲しけれな明日の夜9時に横浜のA倉庫に白石の首を持って来い」
「なんだと?」
「君に白石組長を殺して欲しいんだ。用件は伝えたからな。では」
「おい! ちょっと待て!」
電話は切れていた。
いったいどこの組織の者か分からんがオリビアを救出しなければならない。けれど浩人に白石を殺すことはできない。
(親父には迷惑かけられねえ。オリビアは俺だけで助け出す!)
浩人は会計を済ませてレストランを出ると車で白石の自宅に向かう。
やがて浩人は白石の自宅に着いた。浩人が白石の自宅にいる組員に緊急で組長に会いたいと伝えると組員が応接間に通してくれる。
そして白石が応接間に姿を現した。
「浩人。どうした?こんな時間に私の自宅まで来るなんて」
「組長、すみません。どうしてもお話がありまして」
「何だ?」
浩人はバッと白石の前で土下座をした。
「組長。俺を『絶縁』にしてください!」
「なんだと?」
白石は浩人の様子を見て極道の顔になる。
「理由は何だ?」
「それは……言えません」
「なら絶縁にはできねえな」
「そこをなんとかお願いします」
必死に頼み込む浩人を見て白石は溜息をついた。
「お前がそこまで必死になるということはオリビア絡みか?」
浩人が肩をビクリと震わせる。
「図星か。いいから何があったか話してみろ」
「はい。実は……」
浩人はオリビアが誘拐されて助けて欲しければ明日の夜9時に白石組長の首をもって横浜のA倉庫に来いと言われていることを話した。
「なるほどな。それでお前は私に迷惑をかけないように絶縁されてから一人で倉庫に行くつもりだったんだな」
「はい。そうです」
「浩人。前にも話した通り、オリビアは私の同志だ。この喧嘩、白石組が買うことにする」
「しかし組長に迷惑が……」
「敵が私の首を取れというならその敵は白石組の敵だ。浩人、組員を密かに集めろ。A倉庫を襲撃する」
「分かりました。ありがとうございます。組長!」
浩人は再度白石に土下座する。
「どこのどいつだか知らねえが白石組を甘く見たことを後悔させてやるさ」
白石は不敵な笑みを浮かべた。




