64 オリビアの本名
クリスマスイヴ。
オリビアは浩人と夜景の見えるホテルの最上階にあるレストランにやって来た。
「ヒロ。クリスマスイヴおめでとう」
「ああ、おめでとう」
オリビアと浩人は乾杯してクリスマスを祝う。
浩人は車のためノンアルコールカクテルだ。
「ヒロと付き合ってもう三ヶ月ねえ。月日はあっという間だわ」
「そうだな。お前が俺に突然告白してから三ヶ月だな」
浩人のからかうような口調にオリビアは頬を膨らませる。
「だってヒロに運命を感じたんですもの。それにヒロだって今は私のこと好きでしょ?」
「ああ。愛してるよ。オリビア。お前ほどいい女はいない」
「ありがとう。私も愛してるわ。ヒロ」
二人はおしゃべりしながら食事をしていく。
最近は浩人はオリビアのマンションに泊ることが多くなったが以前浩人が宣言したように浩人はオリビアを抱くことはなかった。
でも一緒のベッドに寝て、朝起きて「おはよう」と言える相手がいるだけでオリビアは幸せだった。
「オリビアの兄さんはまだ日本にいるのか?」
「ルーカス兄様のこと?」
「ああ」
「ルーカス兄様は年内には帰るそうよ。一月一日にはブラックウェル一族の新年会があるから」
「ブラックウェル一族?」
「そうよ。ブラックウェル貿易会社の主催で毎年新年会があるの。ルーカス兄様もマテオ兄様もドレイクヴァロの仕事をしているけどブラックウェル貿易会社の取締役もやっているから」
何気なく聞いていた浩人はオリビアの言葉に自分の耳を疑った。
(今、ドレイクヴァロって言わなかったか!? まさかあの世界最大のマフィア組織のドレイクヴァロじゃないだろうな!?)
「ちょっと待て! 今、『ドレイクヴァロ』って言ったか?」
「ええ、私がドレイクヴァロの総帥の娘だって前に話したでしょ?」
オリビアは驚きの表情をしている浩人に不思議そうな顔をする。
(ドレイクヴァロの総帥の娘だと!?)
「待て待て待て待て!! お前がドレイクヴァロの総帥の娘だとは聞いていない!」
「え? だってマフィアの娘って言ったじゃない」
「そのマフィア組織がドレイクヴァロなんて一言も聞いてないぞ!」
慌てる浩人を見てオリビアは自分の記憶を振り返る。
そう言えば浩人の言ったように「マフィアの娘」とは言ったが「ドレイクヴァロ」と言ってなかったような気がする。
「ごめんなさい。ヒロ。言い忘れてたみたい」
「お前な! そこは一番大事なところだろうが!」
浩人はオリビアの爆弾発言に慣れたつもりだったがこの爆弾発言にはさすがに浩人の予想を上回った。
核爆弾を打ち込まれたような衝撃だ。
(ドレイクヴァロは世界最大のマフィア組織じゃねえか! そんなマフィア組織の総帥の娘がオリビアだと!? マジか!)
裏社会に生きる人間でドレイクヴァロの名前を知らない人間はいない。
裏社会で長生きしたかったらドレイクヴァロには逆らうなという言葉があるくらいだ。
(それにオリビアの苗字はブラックウェルではなかったはず。ここは落ち着いて事実確認するか)
浩人は深呼吸を一つしてオリビアに尋ねる。
「すまん。もう一度確認したいんだが、オリビアの父親はドレイクヴァロの総帥なのか?」
「ええ。そうよ。私の父の名前はアラン・ブラックウェル。ドレイクヴァロの四代目総帥よ」
「オリビアの苗字はブラッドじゃなかったか?」
「そのことも話すの忘れてたわ。私の本当の名前はオリビア・ブラックウェルというの」
オリビアは申し訳なさそうな顔をする。
(ブラックウェル一族って言ったらブラックウェル貿易会社を経営しているあの有名な一族か?)
「ブラックウェルってことはブラックウェル貿易会社の社長の一族ということか?」
「そうよ。今のブラックウェル貿易会社の社長は私のイトコよ」
ブラックウェル貿易会社の社長の一族がドレイクヴァロの総帥の一族だということは裏社会では有名だ。ブラックウェル貿易会社はホワイト企業のイメージが強いがそれは裏社会を知らない一般人の考えだ。
(ドレイクヴァロの総帥の娘と俺は付き合っているのか?だが、それなら今までのことが納得いく)
オリビアの正体を探ろうにも分からなかったのはドレイクヴァロの妨害によるものだろう。ドレイクヴァロはこの世界の「情報」を支配していると言われている。
それにオリビアが襲撃された時に犯人を狙撃した人物が腕のいいスナイパーだったのも頷ける。
ドレイクヴァロは「情報」を司る組織だからインテリマフィアと勘違いされやすいが中身はバリバリの武闘派集団だと聞いたことがある。
各国の特殊部隊から精鋭を引き抜き構成員にしているという噂も浩人は知っていた。
(マジか……俺は何ていう相手を好きになってしまったんだ……)
浩人は目の前のオリビアを見る。
本来ならドレイクヴァロと関係を持つなど危険の一言だ。ドレイクヴァロは仲間でいれば心強いがドレイクヴァロを怒らせて消えた裏組織の数は多い。白石組と比べようもないぐらいの相手だ。
もしオリビアの父の総帥の機嫌を損ねたら浩人など簡単に処分されてしまうだろう。自分の命を考えればオリビアに手を出すなど自殺行為だ。
しかし目の前で自分を見つめるオリビアの緑の瞳から浩人は逃れられない。いや、ここで逃げては自分は生涯後悔するだろう。
(オリビアがドレイクヴァロの総帥の娘でも関係ない。俺はオリビアを生涯愛すると決めたんだ)
「お前の爆弾発言には慣れたつもりだったがまさかドレイクヴァロの娘とはな」
「私のこと嫌いになった?」
オリビアは不安そうに緑の瞳で浩人を見る。
「いや、そんなことはない。だが、そうするとこないだ会ったルーカスはドレイクヴァロの次期総帥か?」
「そうよ。ルーカス兄様は双頭の隼と呼ばれる次期総帥よ。前に紹介したエドワード叔父様は双頭の山猫と呼ばれるドレイクヴァロのナンバー2の人物よ」
浩人は背中に嫌な汗を掻く。一つ間違えば自分はドレイクヴァロに殺されていたかもしれない。
いや、オリビアと付き合っている今の現状も充分過ぎるほど危険だ。
(それでも俺はオリビアを手に入れたい)
浩人の気持ちは揺るがない。
オリビアと一緒にいるためにはドレイクヴァロの総帥に認められなければならない。それがいかに困難な道か想像を絶する世界だ。
日本の一極道に過ぎない自分が世界最大のマフィア組織のドレイクヴァロの総帥に認めてもらえるだろうか。
でもオリビアへの恋心は消すことはできない。
(最悪の場合、俺が消されるだろうな……だがオリビアを愛したことを俺は後悔しない)
「オリビアが何者でも俺はお前と一緒にいるつもりだ。心配するな」
「ありがとう。ヒロ」
オリビアは笑顔になる。
(この笑顔を見れるなら俺は何でもする)
食後のコーヒーが運ばれてきた。
「ヒロ、私、化粧室に行って来るわ」
「ああ、分かった」
レストラン内に化粧室は無いためオリビアは一度お店を出てホテルの化粧室へと入る。
そして用を足した後に化粧室を出た瞬間、オリビアは後ろから誰かに抱きつかれて口元をタオルで塞がれた。
オリビアは相手を振りほどこうとしたがタオルには薬が染み込ませてあったらしくオリビアは気を失ってしまった。




