63 ドレイクヴァロの人間たちが望むモノ
メイソンはドレイクヴァロのビルの地下にある射撃場で銃の訓練をしていた。
狙いを定めて的を撃つ。
バンッ! バンッ!
メイソンの銃弾は的のど真ん中に当たる。
「いつ見ても銃の腕前は落ちませんね」
訓練を見ていたリオンがメイソンに声をかけた。
「お前ほどのスナイパーの腕は俺にはないがな。ハンドガン勝負なら受けて立つぞ、リオン」
メイソンは次の弾倉に交換しながらニヤリと笑う。
リオンはコンドルチームのスナイパーで一番いい腕を持っている。だがスナイパーだから全ての銃の腕前が凄いかというとそういう訳ではない。
銃にはそれぞれの特性がありライフルとハンドガンは全く別物といってもいいくらいなのだ。
「勝負しなくてもメイソンの勝ちは分かっていますよ。現役だった頃からあなたのハンドガンの腕には敵わなかったし」
リオンは肩を竦めて答えた。
メイソンとリオンは同じ某国の特殊部隊出身の先輩と後輩だ。
当時世界最高とも言われた特殊部隊で一緒に働いていたが、ある日メイソンは突然特殊部隊を除隊して姿を消した。
メイソンがいなくなった当時はいろんな憶測を呼んだがその二年後メイソンはリオンの前に現れて「ドレイクヴァロで働かないか?」と勧誘してきた。
その言葉でリオンはメイソンがドレイクヴァロに引き抜かれたことを知ったのだ。
リオンは別に愛国心を持って特殊部隊にいたわけではない。
スナイパーの才能を見出されていつの間にか特殊部隊に入隊することになった。
そんなリオンに「同じ命を懸ける仕事なら報酬が高い方がいいだろ?」とメイソンは誘ってきた。
特殊部隊の給料は決して安くはないがメイソンが提示した報酬額は桁違いだった。
特殊部隊というのはそう何年も長く働ける職業ではない。
メイソンの言う通り稼げるうちに稼いで引退して自分の好きなことをやるのもいい。
リオンはそう考えてメイソン同様に特殊部隊を除隊してドレイクヴァロの仕事をすることになった。
リオンが配属されたのはメイソンがリーダーを務めるドレイクヴァロの「双頭の山猫」の直属護衛チーム「コンドル」だった。
双頭の山猫は日本に住んでるためコンドルのメンバーも基本的に日本に住むことになる。
幸いリオンは日本語が話せたので日本に住むのに不自由はなかった。
それから二年の月日が経ったが今は破格の報酬を貰える生活に満足している。
リオンにとっては特殊部隊でテロ組織の人間を殺すのもドレイクヴァロでドレイクヴァロの敵を殺すのも同じ感覚でしかない。
リオンのような理由でドレイクヴァロで働いている各国出身の元特殊部隊の隊員は多い。しかしそれは最初にドレイクヴァロで働き始めた頃の理由に過ぎない。
ドレイクヴァロが普通のマフィア組織ではないことはリオンも働き始めてすぐに気付いた。
そしてそのトップに君臨する総帥にリオンは出会い魅了された。この漢の創る世界を見てみたいと思ってからはドレイクヴァロに自分がいる理由が「お金」だけではなくなっているのをリオンは自覚している。
メイソンに以前そのことを話したら「自分も似たようなもんだ」と笑っていた。
すると射撃場の部屋の扉が開いた。
メイソンたちがそちらを見るとルーカスの直属護衛チーム「オルカ」のリーダーのカルロスが部屋に入って来る。
「よお! メイソン、元気か?」
カルロスは明るくメイソンに声をかける。
「カルロス。日本に来たのか?」
「ああ。双頭の隼様が日本に来たからな」
「そう言えば日本に来るって双頭の山猫様が言っていたな」
メイソンは「コンドル」のリーダーのためドレイクヴァロの幹部の予定を知る立場の人間だ。
「それで仕事は終わったのか?」
メイソンがカルロスに聞くとカルロスは首を横に振る。
「いや、最初はオリビア様の彼氏を始末するかもしれないと聞いてたが予定は変更された」
「ああ。あの波戸場浩人という極道か」
「まあな。どうやら双頭の隼様はその男を気に入ったらしい」
「そうなのか。まあ、直接仕事が無くても俺たちは報酬が貰えるからな」
メイソンたちは普段は自由に生活している。
招集がかかればすぐに集まれるように主人の近くに待機はしているがその時は「待機料」の名目でお金が貰える。
そして招集がかかった時点でたとえ仕事が途中で中止になっても報酬は発生する。
それにチームとしての訓練も定期的に行っているから暇ではない。
「メイソン、お前はその波戸場浩人には会ったことはあるか?」
「いや、直接はないが……」
「リオン、お前も会ったことないか?」
カルロスは今度はリオンに訊く。
「はい、私もありません」
「そうか……」
「波戸場浩人がどうかしたのか?」
カルロスは肩を竦めながら答える。
「オリビア様の結婚相手になるなら俺たちも無関係ではいられないだろ? おそらくそれなりの重要ポストに就くだろうし」
「まあ、そうかもな。双頭の山猫様も波戸場浩人のことは気に入ったらしい」
「そうか。ならそれだけの実力を持った漢ということか」
「それは分からんが少なくとも生かす価値のある漢だと双頭の隼様は判断したんだろ?」
「まあ、そうなるな」
「お前も撃つか?」
メイソンがカルロスにハンドガンを渡すとカルロスは射撃の準備をして銃を撃った。
全て的のど真ん中に命中する。
「なかなかの腕前だな」
メイソンがカルロスを褒めるとカルロスは何でもないかのようにメイソンにハンドガンを渡す。
「このぐらいの距離で的を外していたらこの仕事はやってられん」
「それもそうだな。まあ、俺たちの出番は無いに越したことはない。平和が一番だ」
「フフ、平和かあ。そう思えるような世の中になってもらいたいもんだ」
こんな仕事をしていてもメイソンたちが望むのは争いごとのない世界だ。
命のやり取りをしているからこそ人の命の尊さをメイソンたちは知っている。
再びメイソンは的に向けて銃をかまえる。
いつの日か自分が銃を向ける相手がいない世界になることを願いながらメイソンは銃を撃った。




