62 太田と津田の野望
太田は若頭の津田を呼び出した。
場所は太田組の組事務所の組長室である。
「津田。例の白石組の件はどうなっている?」
「はい。いろいろ調査したんですが若頭の波戸場に女がいることが分かりました」
「女? それがどうした?」
極道の男に女がいても別に不思議ではない。女がいない極道の方が珍しいくらいだ。
「いえ、その女を使って白石組を潰そうかと」
「どうやって白石組を潰すんだ? 女をこちらの仲間に引き入れるのか?」
「いえ。その女を誘拐して波戸場に白石のタマを取らせるんです」
「なるほどな。だがそううまく行くか? 波戸場は白石のことを慕っているし、自分の女のためとはいえ白石のタマを取るとは思えねえが」
津田はニヤリと笑って太田に自分の考えた作戦を話す。
「失敗したらしたでいいんですよ。波戸場が白石のタマを取れば白石組は潰れますし、波戸場が白石に返り討ちにされたら波戸場を処分できますから白石組は弱体化します」
「なるほど、そうだな。確かに」
直接白石を殺せなくても白石組が弱体化すれば太田に文句はない。
「白石組は極端にいえば白石と波戸場で持ってるような組ですからどちらか欠けたら太田組の敵ではありません」
「名案だな。あの二人さえいなければ白石組などあっという間に潰れるだろう」
「そうでしょう、組長。しかも噂では波戸場はその女にかなり入れあげているらしいのでうまくいくと思います」
「そうか。でも波戸場は女嫌いとも言われてた気がするがいつの間にそんな女を作ったんだ?」
「何でもN女子大の留学生らしいことは分かりました。たぶん、外国人が波戸場の趣味だったんじゃないんすか」
「外国人の女が趣味か。その気持ち分からなくもないがな」
「組長も外国人の女が好きですもんね」
太田は外国人の女が好きで愛人も外国人だ。
「外国人なら用事が済んだら始末しても後腐れないだろうしな」
「そうですね。留学生が行方不明になるなんてそんな珍しいことじゃないでしょうし」
「よし、その作戦で行こう。それでいつ実行するんだ?」
「情報ではクリスマスイヴにその女と食事をするらしいんでその時を狙うつもりです」
津田が声を潜めて波戸場の女を誘拐する手段を話す。
「クリスマスイヴか。波戸場にはいいクリスマスイヴの想い出になるだろうな」
「ええ。波戸場の奴の悔しい顔を見たいですからね。クリスマスイヴに自分の女を誘拐されるなんて最高の想い出になるでしょうよ」
「じゃあ、後は任せたぞ」
「はい。分かりました」
太田は白石の顔を思い出す。
散々白石には煮え湯を飲まされてきたがこれで復讐ができる。
最近は白石はすっかり九条会長のお気に入りになっている。このままでは白石の方が九条会の中で力をつけるのは時間の問題だ。
太田と白石は極道の世界に入った時期も同じぐらいだ。それ故にいつも比較されていた存在だったがお互いに自分の組を持つようになってからは特に張り合ってきた。
ここで白石に負けるわけにはいかない。
太田にはいずれ自分が九条会の若頭となり九条会長の後継者になり十和麗月会に幹部になるという野望がある。
いつまでも十和麗月会の三次団体の組長をやって満足しているつもりはない。
極道になった以上、上を目指すのは当たり前だ。
そのために今は目の前の邪魔者である白石組を叩き潰すだけだ。
「首洗って待っていろよ。白石」
太田はそう呟いた。
そして若頭の津田も野望を持っている。
太田組をさらに大きくして太田組から独立して自分の組を持つことだ。
波戸場には散々邪魔されたがそれも今回で終わりだ。
自分は三次団体の若頭で終わる男ではない。
そのことを見せつけてやる。
この時の選択が太田組の運命を決めることになろうとは太田も津田も気づいていなかった。




