61 双頭の隼が認めた男
エドワードがドレイクヴァロのビルで仕事をしていると来訪者があった。
入室許可を出すとエドワードの部屋に入って来たのはルーカスだ。
「ルーカスか。今日はオリビアに会いに行ってたんじゃないのか?」
エドワードが訊くとルーカスは頷く。
「ついでに波戸場浩人にも会ったよ。エドワード叔父さん」
「ほお。波戸場浩人に会ったのか。どうだった彼の印象は?」
ルーカスはソファに座りながら答える。
「悔しいけどドレイクヴァロの幹部としての素質はあるね。もちろんこれからしごいて勉強させないといけないけどさ」
「ルーカスが認めた男か。さすがオリビアは人を見る目があるねえ」
エドワードは苦笑した。そしてオリビアの幼い子供時代を思い出す。
オリビアは天然なところはあるが幼い頃から本能的な勘の鋭い子供だった。
生まれ持った鋭い勘のおかげで人の本質を見抜くことができる人間に育ったのだ。
もちろん人を見る目を育てる訓練も行ったがオリビアの場合はその直感にも近い感覚が本人を何度も助けてきた。
そのオリビアが見出した波戸場浩人という男がドレイクヴァロの幹部になる素質があっても不思議はない。
「エドワード叔父さんだって波戸場浩人には会ったんでしょ?」
「ああ。会ったとも。今時は少なくなった『極道』と呼ばれる人物だね」
「俺もそれを感じました。この男は双頭の朱雀と同じ人種だってね」
総帥のアランの相談役として存在する十和麗月会の舎弟頭をやっている双頭の朱雀は「極道」と呼ばれるに相応しい人物だ。
エドワード自身も双頭の朱雀に大切なことを教えられた過去がある。
エドワードは仕事の手を止めてルーカスの前のソファに移動した。
するとキールが二人に紅茶を出してくれる。
「でも面白いことが分かりましたよ」
「面白いこと?」
ルーカスは紅茶を飲みながら楽し気に話す。
「オリビアはどうやら自分の正体を『マフィアのボスの娘』って浩人に言ったらしいんです」
「オリビアが自分の正体を波戸場浩人に話したのか?」
「そうらしいんですけど。面白いのは浩人に俺たちのマフィア組織が『ドレイクヴァロ』ということを伝えてないということです」
「なんだって?」
エドワードはルーカスの言葉に呆れた。
マフィアのボスの娘は世の中に何人も存在するがオリビアが特別なのは「ドレイクヴァロの総帥の娘」ということなのだからそれを伝えてないというのでは正体を明かしたことにはならない。
オリビアに何か考えがあってそんな言い方をしたのかと思いエドワードはルーカスに訊く。
「それは故意に教えなかったということか?」
「いえ、おそらくオリビアのことだから純粋に伝え忘れているだけだと思いますよ、ククク」
ルーカスは面白そうに笑う。
それとは対照的にエドワードは頭を抱えた。
どうやらオリビアの天然が炸裂したらしい。
「オリビアは昔から天然なところがあるが、よくもまあ一番大事なことを伝えてないなんて」
「面白いから浩人には俺もドレイクヴァロの名前を出しませんでした」
「ルーカスもいい性格してるな」
「だってエドワード叔父さん。その方が浩人の本音が聞けると思ったんですよ」
「それで波戸場浩人は何か言っていたのかい?」
「ええ。オリビアと結婚するためなら『魔王に心を売ってもいい』と言ってましたよ」
エドワードはルーカスの言葉にハッとした。
ドレイクヴァロの総帥のアランは裏社会では『魔王』と呼ばれている。
波戸場浩人は無意識のうちにアランに忠誠を誓ったようなものだ。
「やれやれ。波戸場浩人も無意識とはいえそんな言葉を言うとはな」
「エドワード叔父さん。俺はもう少しの間日本に滞在して浩人とオリビアの様子を観察したいと思います」
「そうか。今回は『オルカ』を連れて来たのか?」
オルカとはルーカスの直属護衛チームの名前で元特殊部隊の人間や一流の傭兵で構成されているルーカスの護衛をしながらルーカスの命令に従う猛者たちだ。
「ええ。連れて来ています。浩人が気に入らない人物だったら始末する予定でしたから」
ルーカスの物騒な言葉にエドワードは思わず溜息を吐く。
妹の彼氏すらドレイクヴァロに必要なしと判断したら排除する非情さはアランに似ている。
「では波戸場浩人は無事第一関門は合格ということか」
「まあ、そうですね。これからの浩人の頑張りに期待したいところですよ」
「なるほど」
「それと……」
ルーカスは真面目な顔になった。
「浩人には近々我々の正体を話すとして浩人の日本での教育は双頭の山猫に任せてもいいですか?」
ルーカスがエドワードのことを「双頭の山猫」と呼んだことでエドワードも真面目な顔になる。
ドレイクヴァロの仕事が絡む時には組織内の通称名で呼ぶ決まりがあるのだ。
「ああ。とりあえずオリビアの留学期間が終わるまでは私が波戸場浩人の身柄を預かって教育しよう」
「分かりました。ではそういうことで話を進めます」
ルーカスは口元に笑みを浮かべる。
(波戸場浩人は双頭の隼に認められたか。これからが正念場だぞ。波戸場浩人よ)
エドワードは紅茶を飲みながらこれからのことを考えた。




