58 鹿沼の頭痛の種
十和麗月会会長の鹿沼は自宅の中庭にある池の鯉にエサをあげていた。
そこへ舎弟頭の舘がやってくる。
「どうした? 急用か?」
鹿沼が訊くと舘は頷く。
「会長の耳に入れておきたいことがありまして。人払いをお願いします」
舘の言葉に鹿沼は自分の護衛に声をかける。
「お前たちは下がれ。呼ぶまで誰も中庭に入れるな」
「はい。会長」
護衛の組員たちは姿を消した。
「それで話とは?」
「まずはこないだ脅征威連合の安木会長と若頭の宮寺が死んだ車の事故ですがドレイクヴァロの指示だったそうです」
「ドレイクヴァロの? なぜドレイクヴァロが脅征威連合に手を出したんだ?」
ドレイクヴァロは意味なく人を殺したり組織を潰すことはない。
大概はドレイクヴァロの商売敵か何かの理由でドレイクヴァロの怒りを買ったかだ。
「はい。それには私も不思議だったんですが、どうやら脅征威連合はドレイクヴァロの総帥の娘の命を狙ったみたいです」
「なんだと? そんな命知らずなことをやるとはな」
鹿沼は鯉にエサを投げる。
「なぜそんな無謀なことをしたんだ?」
「それがここからが重要なことなんですが、ドレイクヴァロの総帥の娘、名前はオリビアと言いますがそのオリビアと九条会の傘下の白石組という組の若頭が恋仲になっているようです」
「白石組の若頭とドレイクヴァロの総帥の娘が恋仲だと?」
鹿沼は直接白石組のことは知らないが九条会の傘下ということは十和麗月会の組織の組ということだ。
「それは本当か?」
「はい。双頭の山猫からの情報なので間違いありません。それで脅征威連合はそのオリビアを殺し、その罪をその若頭に擦り付け十和麗月会とドレイクヴァロの仲を引き裂こうとしたとのことです」
鹿沼は背筋がゾッとした。
もしその企みが成功していたら十和麗月会の人間がドレイクヴァロの総帥の娘を殺したことになる。
そんなことをすればいくら舎弟頭の舘とドレイクヴァロの総帥が親密な関係だったとしても十和麗月会をドレイクヴァロが許す訳はない。
ドレイクヴァロは味方でいればこの上ない頼もしい相手だが敵になったら恐ろしい相手だ。
たとえ十和麗月会といえどもドレイクヴァロには敵わない。
日本の一極道に過ぎない十和麗月会が世界最大のマフィア組織のドレイクヴァロと戦ったところで負けるのは目に見えている。
「安木の奴め。そんなことを考えていたのか……」
鹿沼は安木に対して怒りを感じた。
「ですがその安木も宮寺もそして実行犯だった香港マフィアもドレイクヴァロによって消されました」
「そうか。そういうことだったのか」
「それで私も白石組の若頭の情報を手に入れました」
「どんな人物だ?」
「名前は波戸場浩人。29歳。中学を卒業後に白石組に入って若頭の地位についたようです」
「ふむ。その波戸場浩人って人物は自分と付き合っている女性がドレイクヴァロの総帥の娘だと知っているのか?」
もし知っていて付き合っているならなかなか度胸のある人物だ。
「それが、どうやら波戸場浩人はオリビアの正体を知らずにいるようなんです。双頭の山猫からも本人たちの問題だから勝手にオリビアの正体を波戸場浩人に教えないで欲しいと言われました」
その言葉に鹿沼は呆れる。
「そうは言ってもいずれバレる話なのではないか?」
「私もそう思うのですが二人の恋は二人で解決して欲しいからと」
「まあ。双頭の山猫殿がそう言うなら仕方ないが……」
「ですが今回の脅征威連合の件もありますので私の部下にも白石組を見張るように指示しました」
「そうか。それはなによりだ。オリビア殿に何かあっては大変だからな」
「はい。それともう一つお耳に入れたいことが」
「なんだ? まだなんかあるのか?」
「はい。アメリカから双頭の隼殿が来日したそうです」
「双頭の隼殿と言ったらドレイクヴァロの次期総帥の人物だったな」
「ええ。来日の理由は教えてもらえませんでしたがもし騒動があった時には迷惑をかけるかもしれないからとの双頭の山猫からの言葉です」
「やれやれ総帥の娘だけでも何かあったら責任問題になりかねないのに双頭の隼殿まで日本に来るとは……」
鹿沼は内心頭が痛くなってきた。
「まあ。脅征威連合は次の会長が決まるまで十和麗月会に手を出すどころじゃないでしょうから大丈夫だとは思いますが」
「そうだな。だが白石組の動きは見張っておけよ。異変があったらすぐに報せろ」
「承知しました。会長」
そう言って舘は中庭から去って行った。
鯉に最後のエサを放り投げながら鹿沼は呟く。
「はあ。どうなることやら……」
エサに食いつく鯉を見ながら鹿沼は頭痛の種ができたと渋い顔になった。




