57 来日した双頭の隼
12月に入りあと一週間もすればクリスマスである。
街はクリスマスのイルミネーションが多くなり夜になるとキラキラと電飾が輝き街を彩る。
浩人はオリビアと一緒に組事務所の近くのカフェで二人で過ごしていた。
オリビアと知り合ってから既に三ヶ月。
オリビアの正体がマフィアのボスの娘だと知っても浩人はオリビアへの恋心を抑えられない。
浩人は既に決心をしていた。
オリビアの留学期間が終わったら自分も白石組を抜けてオリビアと一緒に渡米しようと考えている。
オリビアの父親にはまだ会ったことはないがオリビアの父親が認めてくれるならそのマフィア組織に入り生涯オリビアと共に過ごしたい。
(俺が極道からマフィアになるなんて考えもしなかったがな)
コーヒーの飲みながら浩人は自分の前に座って楽しそうに自分に話しかけるオリビアを見て思わず笑みが浮かぶ。
自分の好きな女とカフェでたわいない会話を楽しむ。
こんな幸せを感じる時間を過ごしたことは浩人の今までの人生ではなかった。
「ねえ、ヒロ。クリスマスイブは一緒に過ごせそう?」
浩人は頭の中で予定を思い出す。
「ああ。その日は一緒にいられると思う」
「そう。じゃあ、一緒にクリスマスディナーを食べましょう?」
「そうだな。いい店はあるか?」
「そうねえ……」
オリビアは持っていたクリスマス特集の雑誌を見る。
そんなオリビアを見ながら浩人は胸の高鳴りを抑えられない。
ただ一緒にいるというだけでこんなに愛しいと思った女には今まで出逢ったことはなかった。
(いつの間にかこいつと一緒にいることが普通になっちまったな)
一人の女のために組を抜けることになろうとは少し前の自分だったら考えられないことだ。
「ねえ、このお店なんてどうかな?」
オリビアが雑誌のお店を指差しながら浩人をその緑の瞳で見つめる。
(ああ。この瞳をいつまでも見ていたい)
「ヒロ?」
オリビアの呼びかけに浩人は我に返った。
「あ、ああ。そこでいいんじゃないか」
「そう。じゃあ、予約してみるわ」
オリビアが携帯電話でお店に電話をかける。
そしてお店の人に予約したい旨を伝えるとどうやら無事に予約は取れたようだ。
「ヒロ。予約が取れたからこのお店にするわね」
「分かった。予定を空けておく」
浩人はニコリと微笑んだ。
同時刻。羽田空港に一機のプライベートジェット機がアメリカから到着した。
プライベートジェット機から降り立ったのはルーカスだ。
「日本に来るのは久しぶりだな。さっそくオリビアに会いに行くか」
「ルーカス様。エドワード様がお迎えに来ております」
ルーカスの側にいたルーカスの秘書兼ボディーガードのロバートがルーカスに声をかける。
「エドワード叔父さんが?」
「はい。今回の訪問ではエドワード様のマンションに滞在予定ですのでルーカス様の来日予定を報せておきました」
「そうか。まあ、日本に来てエドワード叔父さんに挨拶無しなんてことはできないしな」
ルーカスとしては少しでも早く妹のオリビアに会いたかったが仕方ない。
プライベートジェット機専用の出口から出るとエドワードがいた。
「ルーカス。久しぶりだね」
「エドワード叔父さんも変わりないようでなによりです」
「まさか君が直々にオリビアの彼氏に会いに来るとは思わなかったよ」
エドワードは苦笑している。
ルーカスが妹のオリビアを溺愛していることは一族の中では有名な話だ。
その妹に彼氏ができたのだからルーカスが騒ぐのは必然だろう。
「オリビアの相手はドレイクヴァロの重要人物になりますからね。次期総帥としてはやはり直に会って品定めするのは必要でしょう」
「確かに。それはそうだね。いずれルーカスが総帥になった時には波戸場浩人は君の側で働くことになるだろうからね」
「波戸場浩人にそれだけの実力があればの話です」
ルーカスはまだ波戸場浩人という人物を認めていない。
オリビアがどんなに好きでもドレイクヴァロに不要と思ったら排除するつもりでいる。
ルーカスは父のアランの性格を強く受け継いでいた。ドレイクヴァロのためなら妹の好きな相手を始末することも厭わない。
「フフ、ルーカスはだんだんアラン兄さんに似てきたね」
エドワードはそんなルーカスを見つめる。
ドレイクヴァロの総帥はそれぐらい非情にもなれる人間でなければ務まらない。
ルーカスは理想的な後継者と言えよう。
「その言葉は褒め言葉と受け取っておきますよ。エドワード叔父さん」
「もちろん、褒め言葉だとも。まずはルーカスに用意したマンションに案内するよ」
「分かりました。よろしくお願いします」
ルーカスとエドワードは別々の車に乗り込みエドワードの車が先導する。
これは一緒の車に乗って事故にあって二人とも死んでしまわないようにするためだ。
ルーカスは車の窓から外を見る。
街はクリスマスのイルミネーションで溢れていた。
「波戸場浩人。お前に能力があるか見定めてやるからな」
ルーカスはそう呟いた。




