54 浩人の誤解
オリビアは浩人が来るので簡単な軽食を作って待っていた。
車で来るだろうから飲み物はノンアルコールビールだ。
そしてインターホンが鳴る。
「はい」
「俺だ。浩人だ」
「どうぞ」
オリビアが鍵を開けると浩人が部屋に入って来た。
その顔はどことなく不機嫌そうな顔だ。
(どうしたのかしら? 何か不機嫌そうね)
リビングのソファに座るとオリビアは気になって聞いてみた。
「何かあったの?」
「別に」
浩人の返事は素っ気ない。
何もないなんて信じられない。
(私、何か怒らせるようなことしたかしら?」
オリビアはそう思い自分の行動を思い出すが特に浩人が怒るようなことをした覚えはない。
「でも不機嫌そうだわ。私、何か悪いことしたかしら?」
「俺に話すことがあるんじゃないか?」
「話すこと?」
オリビアは考えるがやはり思いつかない。
「特に話すことはないと思うけど……」
「昨日、会っていた男は誰だ?」
「昨日?」
昨日の出来事を思い出すが昨日はいつもどおり大学に行って帰ってきてから大学のレポートを書いていた。
特に誰か男性と会っていた訳ではない
(男って誰のこと?)
浩人のことしか頭に入っていないオリビアには他の男性に目がいく訳ないのだ。
「金髪の男と会っていたろう? 親しげにキスをしていたじゃないか」
浩人の言葉でオリビアは思い出した。
昨日の帰り道にレナードに会ったのだ。
(そうだわ。レナードと会ったんだったわ)
「もしかしてレナードのこと?」
「レナードって言うのか。随分親しげだったがあの男とも付き合っているのか?」
(え? レナードと付き合う?)
浩人の声は冷たい。
そこでオリビアは浩人が誤解していることに気付いた。
レナードはあの時親愛の印として額にキスをした。
その姿を浩人は見ていて自分とレナードが恋人だと思っているのだ。
(冗談じゃないわ! 浩人の誤解を解かないと!)
「レナードは私の親戚よ。あのキスは家族と同じように親愛の印のキスであって恋人じゃないわ!」
「本当に?」
浩人はまだ半信半疑のようだ。
「それならちょっと待ってて。私の身の潔白を証明するわ」
オリビアはそう言って携帯電話を取り出しレナードに電話をかける。
やがてレナードが電話に出る。
「もしもし、レナード? オリビアだけど」
「やあ、オリビア。どうしたの?」
「今、時間ある?」
「時間? 少しならあるけど」
「私のマンションに来てくれない?」
「いったいどうしたの?」
「私の彼氏が昨日レナードと私が会っているのを見たようなの。その時にレナードが額にキスしたことで私とレナードが恋人だって疑われているの。私の身の潔白を証明して欲しいの」
オリビアは必死にレナードに言う。
こんなことで浩人に誤解されて嫌われたくはない。
「ハハハ、それは災難だね。いいよ、今からオリビアのマンションに行くから住所教えて」
オリビアはレナードに住所を教える。
「なるべく早く来てね」
「ああ。今から向かうよ」
オリビアは電話を切った。
「レナードって奴に電話してたのか?」
英語での会話だったので浩人にはあまり内容が分からなかったようだ。
「そうよ。必ず身の潔白を証明するから」
それから一時間後、レナードがオリビアのマンションにやって来た。
「やあ。オリビア」
「レナード。来てくれてありがとう。悪いけどヒロにも分かるように日本語で話してくれない?」
「分かった」
ブラックウェル一族が必ず話せなければならない必修の言語の中に日本語もある。
なのでレナードも日本語が話せる。
オリビアについてリビングに行くと男性がいた。
きっと彼がオリビアの彼氏だろうとレナードは思いその男性に流暢な日本語で話しかける。
「初めまして。私はレナード・オブライエンと申します」
「俺は波戸場浩人だ」
浩人は不機嫌な顔を隠さずレナードに答える。
(これはこれはオリビアの彼氏さんはご立腹のようだね。誤解を解いてあげないとオリビアが可哀想かな。オリビアを泣かせるとルーカスたちがうるさいしな)
オリビアの兄のルーカスたちがオリビアを溺愛していることはレナードも知っている。
自分がドレイクヴァロで地域リーダーの「銀の豹」として働くことになるのに次期総帥のルーカスを怒らせるのは得策ではない。
レナードはニコリと笑みを浮かべた。




