53 二股疑惑
浩人は街を歩いていた。
先ほどまで京介と車でシマの見回りをしていたのだが途中で車の調子が悪くなり京介が車を修理屋に持って行くからと言うので浩人は一足先に歩いて組事務所に戻る途中だった。
浩人が歩いていると前方に女性がいるのが見えた。
(あれは、オリビア?)
後ろ姿だったがオリビアに間違いないと思い浩人は声をかけようとした。
するとオリビアのすぐ後方に一台の車が停まり中から金髪の男性が降りて来てオリビアの名前を呼んだ。
浩人は慌てて建物の影に隠れる。
(あれは誰だ?)
呼ばれた女性は振り返った。
やはりオリビアである。
二人は仲良さそうに話している。
浩人のところまで声は微かに聞こえるが英語で話しているため何を言っているのか分からない。
(クソ、奴は誰なんだ)
オリビアがその金髪の男性に笑みを向けていることに浩人は腹が立つ。
そしてその金髪の男性はオリビアを抱き寄せ額にキスをした。
(な!?)
浩人は驚いて声にならない叫びを上げた。
オリビアも嫌がっている素振りは見えない。
金髪の男性は車に乗りオリビアは手を振って見送っていた。
(もしかしたらオリビアには俺とは別に恋人がいたのか?)
男性の容姿からその男性はおそらくアメリカ人だろう。
オリビアはそのまま歩いて行ってしまった。
浩人は建物の影から出て来た。
オリビアだって20歳だ。
本人は男と付き合ったことはないと言っていたがそれが嘘だった可能性もある。
(さっきのアメリカ人が本命で俺のことは遊びだったのか……。いや、オリビアはそんな女じゃないはずだ)
けれど先ほどその男性がオリビアの額にキスをした光景が忘れられない。
親しい間柄じゃなければあんなことはしないだろう。
「あれ?兄貴。こんなとこで何してるんっすか?」
その声に浩人はハッと振り返る。
そこには京介がいた。
「車はどうした?」
「はい。修理工場に持っていったら今日は直せないってことなんで置いてきました。明日には直すそうです」
「そうか」
「兄貴。どこか体調が悪いんですか?」
「いや、そんなことはないが」
「なんか顔色悪いっすよ」
京介の指摘に自分が先ほどの光景を見て自分が思ったより衝撃を受けたのだと浩人は自覚した。
いつの間にか自分の心はオリビア無しではいられない心になっていたようだ。
「何でもない。それより帰るぞ」
「はい。兄貴」
浩人と京介は組事務所に帰ってきた。
組事務所には白石がいた。
「ああ、ちょうど良かった。浩人、話がある」
「何でしょうか?」
「実はな。今日は九条会の本部に行っていたんだが九条会長より脅征威連合が不穏な動きを見せているから守りを強化しろとの指示を受けた」
「脅征威連合が?」
脅征威連合が十和麗月会を目の仇にしていることは浩人も知っている。
「ああ。十和麗月会の本部からの指示だそうだ」
「分かりました。気をつけます」
「うむ。よろしく頼む」
白石はそう言うと組長室に入って行った。
「脅征威連合か……」
浩人は先ほどのオリビアの姿が頭を過ぎるが無理やり頭を切り替える。
「お前たちも聞いたな?シマの見回りは厳重にな」
「はい。若頭。承知しました」
組員たちは皆返事をする。
浩人は奥の部屋に入り一人になるとやはり脳裏に浮かぶのはオリビアのことだ。
「好きな野郎がいるなら俺への言葉は全て嘘だったのか……」
浩人はそう呟く。
「いや、オリビアは絶対渡さない」
浩人は拳を握った。
そこで浩人の携帯電話が鳴る。
オリビアからだ。
浩人は電話に出た。
「もしもし、ヒロ? オリビアだけど」
「ああ、どうした?」
「うん。今日は組事務所に行けないけど明日は休みだからデートしない?」
浩人は思わずあの金髪の男性は誰だと訊きたくなったが我慢する。
訊くなら直接会って話し合った方がいいだろう。
「かまわないがどこかに行くのか?」
「そうねえ、行きたい所はないんだけど。うちのマンションで一緒に過ごさない?」
オリビアと話をつけるなら他人がいない方がいい。
「分かった。明日、オリビアのマンションに行く」
「じゃあ、待ってるわ」
「ああ、じゃあな」
浩人は電話を切った。
オリビアにもし本命の恋人がいても自分の気持ちは変わらない。
オリビアが二股をかけているとは思いたくないが何か理由があるのかもしれない。
まずは真実をオリビアに確認するのが先だ。
その後にオリビアとの関係をどうするか決めればいい。
浩人の心を支配するのはあの緑の瞳を持ったたった一人の女性だった。




